第二話 第七戦隊の初任務
主人公剣崎紅は突然、新設部隊である西部戦線第七戦隊の戦隊長に任命される。しかし個性的な隊員たちに、思わず頭を抱える紅。そして第七戦隊の初任務で異常事態が━━━?
「では改めて、今日からこの第七戦隊に配属になった剣崎紅二等級少尉だ。歳は25、だったかな?これからよろしく。」
気を取り直し、俺は改めて自己紹介を兼ねた挨拶をすます。これからは背中を預けることになる仲間だ。親交は大事にしなければ。
「私は出雲薫と言います。大学1年生です。あ!三等級で、一応少尉です!」
「...火村桜花よ。高二。準二等級で伍長。」
「桐生菫。桜花と同じく高二で、準二等級伍長です。」
「はい!芽衣は椿野芽衣です!中学三年生で、四等級少尉です!よろしくお願いします!」
「わ、私は、神門桃寧、です。高一、準二等級で、えっと、伍長、です」
中々みんなエリートコースだな、とか思いつつ、各々が軽く自己紹介を終えたところで、本題に入るとする。
「ああ、みんなよろしく。まず、俺はまだこの部隊のことをよく知らないんだ、君達は少し前から配属されているんだろう?どういう部隊なのか教えてくれないか?」
すると桐生が口を開いた
「この部隊はどうやら試験的に設けられた部隊なようです。イメージとしては『少数精鋭による遊撃隊』と言ったところでしょうか。」
なるほど、ひとつの部隊にしては人数が少なく不思議に思っていたが、そういう事なら個々の等級含め納得だ。
「そんなことより、私はあなたの事が知りたいですね...はっきり言ってあなたのような人がこの部隊に配属される理由が分かりません。」
「...ほう?聞こうか」
「階級は少尉、魔力量から察するに二等級なりたてといったところでしょう。先程の桜花のパンチも、避けることなく受け、見事気絶しましたよね?つまり実力的には準二等級程。そして、二等級少尉というのは戦隊長の最低条件です。そしてこの部隊は先程言った通り『少数精鋭』。そんな部隊の戦隊長であれば最低でも準一等級、大尉ぐらいが妥当でしょう。つまりあなたは、実力の伴わないこの部隊の戦隊長に仕立て上げられた。違いますか?」
桐生の推察には思わず俺も感心した。俺を等級と階級だけで判断せず、個人としての実力、魔力量をこの短時間でここまで観察分析するのは中々できることではない。そして、それはもっともな指摘だ。すると、これまでそっぽを向いていた火村が、はぁ、と苛立ちを隠さない様子で向かってきた。
「ほんとそうよ。アタシ達より弱いのに戦隊長?ふざけないでよ。自分より弱いやつについて行くなんてごめんよ。ただでさえ、よそ者なんだから。」
どうやらこの子には完璧に嫌われてしまっているようだ。ちなみに彼女らは訓練校時代からずっと一緒に過ごしてきた昔馴染み、言わば気心の知れた親友同士だそうだ。そうなると、なるほど。俺が外から来た邪魔者ということか。
しかし、親友同士、か。懐かしいな。
「よそ者なのはどうしようもないが、実力の方は...相応の力は持っているつもりだ。信じてくれていい。」
すると火村はさらに表情を険しくする。美人が台無しだぞ?
「ハハッ、つまり見ず知らずのアンタを信用しろっての?ふざけんのも大概にしてくれる?」
バンッ!と机を叩き立ち上がる。―見ず知らず、か。まあ、彼女らの歳なら知らなくても無理はないのだろう。
「桜花ちゃん。もうそのくらいにしたら?さすがにやり過ぎよ?」
お、流石最年長。みんなのまとめ役みたいな感じなのだろうか。
「薫姉は黙ってて!」
「はひぃ!」
前言撤回。お姉ちゃん弱かった。
「まあまあみなさん、落ち着いてください。」
まさかの最年少の椿野がまとめ役だったようだ。なんてやり取りを続けていると、突然宿舎のアラームが鳴った。
「「「!」」」
一瞬で全員の空気がピリッと張り詰めた
「緊急任務です!司令部からの通達を確認します!」
こんな時にタイミングの悪い、が任務が来たのなら仕方ない。そう言って各々が準備を始める。すると椿野が通達を聞いて戻ってきた。
「ここから北に進んだ森にゴブリンの大群が発生し、近くの町に侵攻中!現状人的被害は確認されていませんが、いつ犠牲者が出るか...」
「ゴブリンの数は未知数、か全員で行った方が良さそうだな。」
すると菫がため息をつきながら口を開く。
「仕方ありません、話し合いは一時中断です。とにかく現場に向かいましょう。」
そして全員が準備を整え、現場に向かった。
現場に到着すると、そこは酷い有様だった。建物は崩れてボロボロになり、所々に赤黒い血が飛び散っていた。奴らの血は紫だから恐らくは人の血だろう。死人はいないとの事だったが、少し遅かったか。
「まずいですね、既に被害者が出ている可能性が高い。すぐに探さなくては。」
桐生が顔をしかめる。
「まだ近くにいるはずです。芽衣が異能で探します!」
すると椿野は両手の人差し指をこめかみに当て目を見開く。
「スキル、『鷹の目』!」
この部隊の隊員は全員異能力者で構成されているようだ。そもそも異能力とは、まれに発現する個々の固有能力で、大まかな『異能』があり、その中で『スキル』が枝分かれしており、その力は多岐にわたる。そしてそのほとんどが魔術よりも遥かに強力だ。彼女の異能の名は『観測者』。主に、監視や索敵の能力のようだ。ちなみにスキル『鷹の目』は、自分を中心に、半径5キロの範囲を上空からの視点で見渡すスキルだそうだ。後方支援としてはかなり重宝しそうだ。
「!見つけました!ここから北西に600メール程行ったところにゴブリンの群れを確認!数は...およそ数100!」
「数100だって?いくらなんでも多すぎだろ...」
俺がどうしようか考えていると、火村が鼻で笑いながら言った。
「ふん!アンタなんかに頼らなくたってアタシ達で何とかできるんだから。アンタは後ろで大人しくしてなさい!」
そう言いながら駆け出した火村の足元が爆ぜ、その推進力を使って高速で飛び出した。彼女の異能力『爆破者』だ。この異能力は爆発を自在に操り、移動したり攻撃したりできるらしい。すると火村は一瞬でゴブリンの一団に近づいた。
「スキル!『爆裂拳』!」
拳そのものが爆破を伴う衝撃波となって、ゴブリンを10匹程消し飛ばした。
「まったく、あの人はいつも考え無しに突っ込むんですから。フォローする身にもなってほしいです。」
桐生はそう言うと右手を銃の形にして突き出し、左手で輪っかを作り覗くように目元に持っていく。彼女の異能力は『狙撃者』。分かりやすく言うなら、魔力で作り出した様々な銃弾を撃つ異能だ。
「スキル『狙撃』、銃弾選択『氷結弾』...発射!」
右手の先端に、まるで氷の様な銃弾が生成される。そして、一瞬で照準を合わせ、鋭い銃声と共に氷の弾丸が飛び出した。そして弾は1匹のゴブリンに命中。するとゴブリンが体の内側から凍り始めた。そして周囲にいた数匹を巻き込んで氷像になり、崩れ落ちた。
「中々強力なスキルだな」
「まあ、『狙撃』発動中はその場から動けないのと、リロードに時間がかかるのが難点ですが」
それでもなかなかに強いと思うのだが、これでも慢心せず己を冷静に分析していて、本当にこの子は聡いなと思った。言い方に少し棘を感じるのは無視で。すると今度は出雲が意気揚々と飛び出した。そして、
「よーし!次は私の番ね!お姉ちゃん頑張るぞー!あいたっ?!」
盛大にぶっ転けた。その隙にゴブリンが集まってくる。まずいな、と思い、助太刀に入ろうとすると桐生に止められた。
「問題ありません。あれが薫姉の戦い方です。」
すると、倒れ込んだ出雲にゴブリン共が飛びかかる。そしてゴブリンの短剣が出雲の体を引き裂いた、と思ったら出雲の体が煙のように霧散し消えてしまった。そして、
「ばぁ!こっちでしたー」
ゴブリンの後ろから出雲が現れ2本の短剣を逆手に持ち、ゴブリンの首をかき切った。これが出雲の異能力『困惑者』。霧や煙に様々な効果をつけ操る異能のようだ。
「スキル『幻影ノ人影』」
自身の幻影を霧で生み出していたのだ。後ろからわらわらと出雲が何人もやってくる。
「なるほど厄介な異能だな。」
そして最後神門は...
「ひっ、ひぇぇぇ!ゴブリン怖いぃぃぃ!」
と、逃げ回って俺の後ろに隠れてしまった。ちなみに神門の異能力は『強化者』。文字通り、自身や他者、物質などを強化して戦うようだ。どうやら本当に俺の手助けはいらないようだ。みるみるうちにゴブリンの数が減っていく。ただ...少し順調すぎる気がする。確かにゴブリンは個々では弱く、倒しやすい魔物だし、彼女らも強い。だがいくらなんでも減るペースが早すぎる。嫌な予感がする、そう思った矢先、数匹のゴブリンが森の奥に後退していくのを見つけた。
―まずい!何匹かは奥に逃げていたのか!
「桐生!ゴブリンが数匹森の奥に逃げ込んでる!そこから北だ!」
「ッ!了解」
そういうやいなや桐生はすぐにゴブリンを見つけ、『狙撃』で撃ち抜いた。
「まずいな。椿野!ここから北の森にゴブリンが逃げ込んでいる可能性がある。探せるか?」
「了解です!任せてください。スキル『鷹の目』!」
俺はすぐ側にいた椿野に索敵を頼み、自身も出撃の準備を整える。一体なぜ数匹づつ奥に逃げていた?こちらで戦っていたのは殿?だが通常のゴブリンにそこまでの知能はないはず、あるとすれば―と、その時目の前に何かが飛んできた
「な、何よコイツ!―グハッ!」
火村が吹っ飛んできていた。しかし、これは『爆発者』によるものではない。本人がかなり負傷している。ただのゴブリンにこんな傷を付けられるはずがない。そして、飛んできた方を確認して、みなが固まる。
「え?え?何?大きい...ゴブリン?」
「やつはもしや...いやだとしたらなぜこんな場所に!」
そこには5匹のゴブリンがいた。一件ただ大きなゴブリンのようだが、うち4匹はそれぞれが大剣、戦鎚、大弓、双剣を携え、上等な装備を身につけたゴブリンの上位種『ゴブリンエリート』。さらにその奥にいる1匹は、ローブを羽織り、人間と思しき頭蓋骨の首輪と王冠をつけ、杖を持っている。その特徴には覚えがある。考えたくもないが、恐らくはやつは魔神王の配下の1匹その同種、ゴブリンの最上位種。
「...ゴブリンロード」
「グルァァァァァァァァ!」
その時、耳をつんざくようなゴブリンロードの咆哮が辺り一帯を震撼させる。まだ近くにいた出雲は完全に腰を抜かして放心状態。動けなくなっている。そんな隙を見逃すはずもなく、大剣のゴブリンエリートが出雲に向かって剣を振り下ろす。
「ダメ!薫姉!」
「クッ!間に合わない...!」
そして剣が出雲のいた地面をえぐった。しかしそこに出雲の姿はない。
「?!」
ゴブリンエリートの視線の先には、剣が振り下ろされる刹那、出雲を抱え逃げだした男...俺こと剣崎紅が立っていた。火村は目をむいて驚く。
「アンタ?!いつの間に...」
その時桐生は僅かだが感じ取った。剣崎の雰囲気が一瞬前とは、まるで別物になっていることに。そして剣崎は桐生たちのところに戻り、出雲をゆっくりと下ろした。
「大丈夫、気絶しているだけだ。お前達はそこで見てろ。」
「え、しかし...!」
その時後ろから双剣のエリートゴブリンが凄い速さで剣崎の方へ向かってくる。
「危ない!...!?」
しかしその瞬間剣崎の姿が消え、双剣のゴブリンエリートの首がゆっくりと落ちた。
その後ろから現れたのは、隊長格を表すロングコートのような隊服をなびかせ、赤い刀身の刀を手に剣崎が立っていた。
「奴らの相手は、俺がする」




