第二十四話 光の箱
全体の会議は終了し、続くは七聖たちの、本当の会議へ────
「ごめんねー疲れてるのにわざわざ」
そう言って愁翠は苦笑しながら頭を搔く
「いや、俺たちも話し合いたいと思っていたので丁度いいですよ」
そう言って紅も皆を一度見回す
緊急の隊長会議も終了し、他の戦隊長達は各々帰路に着いたことでガランとした会議室。残っているのは《最後の希望》の3人と、《七聖》の6人、それぞれの副隊長だけだった
すると、この場には少し似つかわしくない幼い顔立ちに水色のポニーテールを左右に揺らし、地面を擦りそうな大きめの白衣のようなものを羽織った少女、雨宮水木が声を上げた
「うぅごめんなさいなのです。私がもっと早く来れていれば...」
水木は今回、敵が退いた直後に到着した。もちろん、その後の後処理は参加したが、役に立てなかったと悔しがっているようだった。
「気にすんなっての。水木が来なけりゃもっと時間がかかったかもしれねぇんだから」
そう言って、紅が頭を撫でてやると、水木は満足そうに頬を緩めた
すると、第七戦隊の副隊長として同席している菫が、同じく第一戦隊副隊長の要にこっそり耳打ちする
「...あの、あれいつもなんですか?」
すると要は苦笑しながら言った
「あぁ。朱音隊長曰く、当時からあんな感じなんだそうだ。相当懐いているらしいな」
そんな微笑ましい様子を、少し羨ましいと思いつつも菫は遠巻きに見ていた
すると紅たちの方に十四郎たちが歩いてくる
「君が剣崎紅くんか。改めて、桜十四郎だ。過去、妻が世話になったと聞いている。これからよろしくな」
紅は疑問符を浮かべる
「妻?」
すると十四郎は穏やかに微笑んで言った
「私は桜家に婿入りしてね。愁翠さんの妹、舞姫と結婚したんだ」
その時、紅も思い出したように言った
「ああ!舞姉さんか!懐かしいなぁ」
桜舞姫。愁翠の実の妹にして桜家の長女。かつては前線でも活躍した女傑だったが今は現役を引退し、後進育成に勤しんでいると聞いた覚えがあった
すると後ろから朱音が首を突っ込む
「えぇ!?舞姫って、《剣姫》桜舞姫!?」
すると十四郎が苦笑しながら言った
「あぁ。そんな風に呼ばれていることもあった。本人は、あまり好きではないそうだけどね。」
すると、朱音と水木が目を輝かせる
「私達大ファンなんです!今度サインもらっていいですか?!」
「あぁ、妻さえ良ければ構わないよ」
やったーと柄にもなくはしゃぎまくっている2人に、銀次が声をかける
「ほな、ボクのサインもいるかいな?改めて佐々木銀次や。よろしゅうな」
軽薄そうな関西弁で話しかけるが2人とも警戒気味で、若干引いていた
「あれ?あんまりウケへんなぁ」
「それはそうだろう。急にこられても怖がられるだけだ」
そんなやり取りを聞いていた紅はあ、と思い出したように言った
「あ、じゃあ雛子ちゃんも元気ですか?」
桜雛子。少し歳の離れた舞姫の妹である。紅も、過去に何度か遊んだ記憶が僅かに残っていた
すると一瞬、十四郎がピクっと反応したかと思ったが、すぐに平静にもどる
「あぁ、大事な義妹だからね」
その言い方と表情に僅かに違和感を覚えたが、すぐにどこかへ行ってしまった。
「さて、じゃあそろそろ本題に入ろうか。」
愁翠が言うと、一気に空気が変わる
「これから話すことは、混乱を防ぐためにも一部のものしか知らない。他言無用で頼むよ。」
「それで?なんの話なんですか?」
そして愁翠が口を開く
「結論から言うと...魔神王の封印が解かれるかもしれない」
すると全員が跳ねるように反応した
珀治が声を荒らげる
「どういうことだ!あれは中央統制本部の保管庫に厳重に置かれていたはずだろ?!」
かつて、瓦木一晴が命をとして魔神王オロバスを封印した《四凶封魂》。それは魔神王を封じ込める《光の箱》となり、現在は中央統制本部の地下に存在する巨大な保管庫の最奥で厳重な結界により管理されている。
「あぁ。しかし武闘大会襲撃と同時刻、混乱に乗じて何者かによって盗まれた。ほとんど証拠は残っていなかったが、おそらく《影の箱庭》の差し金だろう。私が実際に確認したからほぼ間違いないだろう。さらに言うと、《光の箱》は年々封印が弱まってきていて、あと数年で解けると言われていた。それを盗まれたということは、近々、魔神王が復活する可能性があるということになる」
十四郎が言うと、部屋が静まりかえる。
そんな静寂を破るように、菫が声をあげる
「あの、本当に《影の箱庭》が《光の箱》を盗み出したのでしょうか」
すると全員の目線が菫に向く
「と言うと?」
「中央統制本部の保管庫は世界で見ても厳重な管理のされている場所です。いくら巨大な犯罪組織とはいえ、そんな場所からなんの証拠も残さず《光の箱》を盗み出すことはほぼ不可能です。結界も貼ってある以上、魔術、異能力等も無効化されるはず。だとすれば...」
すると紅が気がついたように言う
「《MAA》の中に何らかの手引きをした者がいる...?」
こくりと菫が頷く
裏切り者がいる、という状況に全員の空気がピリつく。
続けざまに瑛介も口を開いた
「確かに、内部の者ならアクセスは容易だ。階級が高ければ、記録を残さず入ることだってできる。武闘大会襲撃が陽動であったったことも踏まえると、可能性は十分あるな。」
すると愁翠が大きくため息をつく
「はぁ〜、こりゃあの件もガセじゃ無さそうだな」
何か思いたった様子の愁翠に紅が尋ねる
「愁翠さん、あの件って?」
すると愁翠は苦い顔をしながら言う
「最近、やたら統制のとれた魔物の群れの報告が世界各地で増えていてな。妙だと思って少し調査してもらったんだが...」
続く言葉に、全員が思わず息を飲む
「どうやら魔族共が動き出したようだ」




