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4.ありきたりな日常

 空になった小皿とマグカップ。

 部屋に残るかすかな香気。

 日はすでに中頃に差し掛かり。

 刺すような日差しが窓の外をじりじりと。


 猛暑の外。エアコンに守られた部屋の中。

 蝉の声は大きく、遠い別世界から届く。


 いつもの週末、夏の部屋。ささやかな事件が終わる。そして、いつもの生活が始まり、いつもの会話が戻る。


「……そう言えば。言いそこなってたけど、そのジャージ、いつ着替えるつもりなの」


 質問の形で問いかける翔子の言葉は実の所、週末に繰り広げられる毎度の光景、その始まり。故に翼の言葉は聞かずとも分かってる。


「うん? 別にこのままで……」

「言いわけ無いわよ! さっさと着替える! 洗濯機が回せないでしょ!!」

「えぇー、別に外に出る訳でも……」

「出るわよ! とりあえずは買い物よ! 家に閉じこもらない! ……図書館にも行かなきゃいけないわね」


 その言葉に翼は、少しげんなりしつつも、思わず出かかった言葉を飲み込む。さもあらん。「一人で行けば」は禁句なのだと既に身に染みているのだから。……一日中ジャージでごろごろテレビを見続けるということに苦痛を感じない、翼はそんな人種で、だからこそ言われている言葉なのだから。


(まあ、確かに家でごろごろしてるのは良くないよね)


 どこか、無駄に素直なところがある翼はそんなことを考えて、着替えを準備し始める。その様子を満足そうに見る翔子。時折、やたら子供っぽくなる翼に、どうしてこんなのと一緒にいるのかしら、などと考える。他に思い浮かべる相手など居ないのに。

 ……きっと、誰と一緒になっても同じようなことを考えるんだろうな、だったら良いか、こんなんでも。そんな風に思いながら、洗濯機にジャージを放り込み、回し始める。特有の大きな音が、キッチンの方から聞こえてくる水音をかき消す。


 休日の朝は過ぎ、昼に差し掛かる頃合い。自然に役割を分担して家事を片付け。やがて喜々としながら。しょうがないという態度を取りつつ、実は楽しみながら。二人は快適な部屋を後にする。

 休日はまだ始まったばかり。ささやかな事件も、さざ波も、既に過去の話。二人の生活もまた始まったばかりで、変化に富んで。そんな二人にとって、過ぎてしまえばどうってことはない、それだけの話。


 二人にとっての大切なものは、ニュースで流れてくる事件でも、ネットの片隅で起こったことでも無い、普段の生活にこそあるのだから。

ご拝読ありがとうございます。

本作品はフィクションですと、改めてここに明記しておきます。

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