第七節
朝見の儀を終え、謁見の間を出てくる諸侯たちは一様に今日の珍事を語り合っている。
「あの異人共、また何かやらかしたようですね」
「はっはっは! なんだかんだと騒がしい連中だなぁ!」
紺碧のマントを纏った騎士がふたり。彼ら碧空騎士団はまだ身分が低く、朝見の儀への参列を許されていない。だのに、異人たち、ついでに子供の魔術師までもが皇帝拝謁の栄を賜っている。
「笑い事じゃありませんよ、グレクスさん」
ピアニエ・イェンスト・エリーティングスは美しい眉目を歪ませた。ピアニエにとってこの国の男ではなく、異人の女に剣で負けるなど決してあってはならぬことだったのだ。一晩明けても悔しさに身を焦がしてしまいそうだった。
「まぁ、そう言うな、ピアニエ」
細面のピアニエに対して、碧空騎士団総長グレクス・ミューガン・ヴァリアマンスは一目で豪傑とわかる大男だった。噂好きの都民たちは逆立つくすんだ金髪を獅子のたてがみと呼んでいる。
片田舎で農民同然の生活をしていた無冠の下級騎士だった彼は、動乱の時代にあって噂に違わぬ獅子奮迅の働きを示し立身出世。今や近衛士爵だが、彼ら碧空騎士団の実力と野心はそこに留まろうとはしていない。
「腕の立つ相手なら異人だろうと亜人だろうと斬ればいいだけの話じゃないか」
破顔から一転、獅子の貌となったグレクスが言い切った。貴族として生き、騎士としての生き方を忘れてしまった目の前の諸侯と比べ、彼らの生き方はまるで抜き身の長剣に等しい。
「それに、お前の秘密に気づいたんだろう? 斬らない理由があるのか? それとも、自分には斬れないと諦めたか?」
ピアニエはグレクスをきっと睨み付けた。剣術の師であり、上官でもあるグレクスにすらこれほどまっすぐな怒りを躊躇なく向けられる。これぞ、帝都最強の剣客の神髄。
「それでいい。お前はそうでなければな」
グレクスに怒りをいなされてしまったピアニエは人混みに視線を向ける。気配を感じ取ったからだ。そこには不埒な服装の異人がふたり。ちなみに、そこにはオリビノエイタもいるのだがピアニエの目には入っていない。
「あいつか……」
「ええ」
ピアニエは視線に強い殺気を込めた。周りの誰もが気づかなかったが、エルルティスだけは掌をひらひらとさせて応えた。殺気には気づいたが慌てるほどのことでもないという挑発に思えてならない。
「ふむ、なるほどな……あいつに負けたのか」
グレクスはそれを見て何かを納得したようだ。
「なぁ、ピアニエ」
「なんです?」
怒り冷めやらぬピアニエ。
「もう一度やりたいか?」
何を? などという問いを挟む余裕はない。
「次は斬って捨てます」
ピアニエは即答した。その言葉、まるで白刃。




