第九話◇ 文芸部として
机を挟み、宝条が俺の正面、西暁寺先輩が右側に座る。
「結局部員の定数までの件は伸ばせませんでした」
早速メタ発言です。作者の思いを代弁しないでもらいたい。
「それはメタ発言だと思うのだが」
宝条が適確な突っ込みをした。
「あら、私としたことが失礼。オホホホホ」
乾いた笑い声だ。
「で、どうします?」
俺が口火を切る。そもそも俺が最初に切らなければきっと一生始まらない気がする。
「まずは、文化祭に向けての長編小説と…図書室に置く用の短編小説を作りましょう」
行動はカオスだが活動は普通だったわ。うーむ、何か物足りない。
「私は思うのだが、文芸部ならいっそ小説大賞に応募してはどうか」
宝条がなにげに素晴らしい案を出した。西暁寺部長は顎に手を当て考えている。
「私もそう思います」
俺も後押し。面白そうだし。
「合宿やろうかしら」
部長がいきなり…どうしてそういう答えになるんだ。
「いや、西暁寺先輩。文芸部で合宿って何やるんです」
「そりゃあ、枕投げとかねぇ」
「駄目だ」
宝条がばっさり切り落とした。nice job.
「なによ、何でもかんでも頭ごなしに否定する! だから大人は嫌いなのよ!」
「そうですか、他には何かありますか?」
喚きだした先輩の喚きをスルーして質問。
「なんで無視するのよ! まあ良いんだけど!」
まあいいのかよ。
「…そうね、先代の人々が様々な文学賞を取っているのよ。さほど有名じゃないけどそれでもすごいこと。私たちもそれに習って文学大賞などに応募しましょう」
「じゃあ各々小説を書き始めよう、という認識でも良いか?」
宝条が質問をする。
「そうね。じゃあノルマを決めましょう」
案外書くと小説というのは期限が伸びがちだ。しっかりとしたノルマを決めるというのは正しい。
「一ヶ月で」
「三週間」
宝条が先輩に続いて言う。短くねえか? いやまてよ? どのくらいの規模の小説を書くかにもよるな。
「どのくらいの規模になるんです?」
「そうね…それも各々に任せるわ」
「書き方のコツとして何かあるのか?」
宝条がすこし呆れている。西暁寺先輩結局あまりしっかり者じゃなかった。
「私はその時思ったとおりに書いてるわよ?」
計画性を持って書かなければ伏線すら張れんだろう。
「それでは後々駄目になりますって」
「計画性を持つのも良いけど、その時その時で考えることも大切なのよ。篤志なら分かるでしょ」
たしかにそうだ。うむ。
「じゃあノルマ一ヶ月で良いでしょうか?」
宝条がしかめっ面になる。
「そんなに待てない」
「え、お前まさか三週間でも長いとか言うなよ」
「私は基本的に十万文字を三週間で仕上げる」
速い。美しい上に才能もあるってどれほど血に恵まれているんだ。
「じゃあ宝条は三週間で、私たちは一ヶ月でよろしい」
先輩がそうまとめた。何も変わってねえじゃん。
「それだと私が短くなっただけで何も変わっていない」
「宝条、日本は多数決だよ。全員一ヶ月と言うことでここは我々に一歩譲ってくれるかな?」
宝条なら退いてくれるはずさ。
「…致し方ない」
「ありがとう!」
しかし俺には大きな障害があった。今回書く小説は俺の処女作になると言うことだ。基本的に稚拙な文章になる処女作。見せ合いっことかしたら笑われるかも知れないのだ。ありがとうなんて言ってる暇じゃなかった。
「今回はこれで解散」
西暁寺先輩が軽く頭を抱える俺とそれを無表情に見つめる宝条に対して言った。