第1話 目覚め 5/5
そして今は……
確かにタクヤはとらえられたのだ。
強引に、薬まで打たれて。
あれから、ずっと眠っていたのだろうか……
「あなたも悪い人の仲間?」
タクヤの問いに、メリルは優しい笑みを浮かべて首を振った。
「私はただ、タクヤ様につくす者です」
彼はうなずいた。
なんとなくわかっていた、ここには悪意はない。
見ず知らずの場所でありながら、目覚めたときから全く不安を感じていない。
この人のそばなら安心できる。
「いま、何月何日ですか?」
「7月20日。王妃タカコ様のお誕生日でございます」
7月? 3ヶ月前……
そうか……
「ほら、この海」
タクヤは手振りで窓の外を指した。
女性もカーテンをよけて顔を出した。
「海、ですか?」
「そう。あの日もよく晴れて、海がキラキラしていた。正確には、4月14日。午前にいやな演奏試験があったからよく憶えている。気晴らしに街に出て、フィッシュフライサンド買って食べた。美味しかったな」
「お一人で?」
「いや、悪友と二人。あいつ、いつも夜中にゲームばっかやってて寝不足なんだ。名前は、ゼン。ゼンじゃそっけないから、ゼンちゃんって呼んだら、あいつ『悲しくなるからやめろ』って。まあ、べつに、タクヤって名前が華があるわけでもないけどね」
「やっぱりタクヤ様ですね」
タクヤは目をふせて、頬杖をついた。
「つまり、あの日からずっと眠らされていたのかな」
「王宮に戻られたのち、あなたに試練が課されたのです、成人のために」
「ヤバイやつ?」
メリルは、うんうん、とうなずいた。
「やっぱりね。だから点滴なんかされていたのか」
「今は、無事に目覚めること、それが何より大切なことでした」
「……ねえ、もう一度、あなたの名前を教えてもらっていい?」
「メリル。タクヤ様の第一秘書のメリルでございます」
「メリルさん……僕は、あなたを、信じていいの?」
するとメリルは、窓辺から離れ、素早い動きで片膝を床につき、タクヤの手をとった。
「私メリルは、スーサリア王子タクヤ様に、この命を捧げてつくすことを誓います」
ピンと張った空気。
うそ偽りない真の奉仕の誓い。
タクヤは、差し出されたメリルの手に、左の手も重ねた。
温かくて美しいメリルの手。
何ごとにも動じない力強さも伝わってくる。
こんなに素敵な女性が、命をかけてつくす、と宣言してくれている。
寝起きだ、なんて言い訳していられない。
自分の記憶よりも、目の前の現実だ。
がんばらなきゃ。
がんばるのだ。
僕は、この国の王子、タクヤ様なのだ!
……まだその思考から、寝起きっぽさが完全には消えていない王子タクヤだった。