表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/226

第1話 王宮にて目覚め 5/5

 

 確かにタクヤは、とらえられたのだ。

 黒スーツの男たちに、強制的に薬まで打たれて。

 あれから、ずっと眠っていたのだろうか。



「いま、何月何日ですか?」


 長い沈黙のあとの、タクヤの問い。

 メリルはまるで深い意味があるかのように答えた。


「7月20日。王妃タカコ様のお誕生日でございます」


 3ヶ月前……

 そうか……


「ほら、この海」


 タクヤは、半ばあきらめたような表情で、窓の外を指した。

 女性もカーテンをよけて顔を出した。


「海、ですか?」

「そう。思い出したよ。あの日もよく晴れて、海がキラキラしていた。正確には、4月14日。午前にいやな演奏試験があったからよく憶えている。気晴らしに街に出て、フィッシュフライサンド買って食べた。美味しかったな」

「お一人で?」

「いや、悪友と二人。あいつ、いつも夜中にゲームばっかやってて寝不足なんだ。名前は、ゼン。ゼンじゃそっけないから、ゼンちゃんって呼んだら、あいつ『悲しくなるからやめろ』って。まあ、べつに、タクヤって名前がはながあるわけでもないけどね」

「やっぱりタクヤ様ですね」


 タクヤは目をふせて、頬杖をついた。


「つまり、あの日からずっと、僕は眠らされていたのかな」

「ご記憶はないかもしれませんが、王宮に戻られたのち、あなたに試練が課されたのです、御成人のために」

「御成人のため? なにか、ヤバイやつ?」


 メリルは、うんうん、とうなずいた。


「だよね。だから意識もなく、点滴なんかされていたんだ」

「無事に試練から目覚めること、それが何よりも大切なことでした」


 具体的な内容には踏み込まないが、ことの深刻さは、その言いかたに真摯に現れていた。


「そうか……でもさ、やっぱりそれだけでは、解決にはならないよね?」


 タクヤの素直な問いに、メリルは眼差しを海原に向けて応えた。


「すべてを語るのは、むずかしい話になります。もちろん、私が知っていることも一部のみ。多くはございません。ただ……」

「ただ……?」

「今、ここにいらっしゃるタクヤ様が、我が国の王子、タクヤ様本人であることは、まぎれもない真実です。それは国家にとっても、私にとっても、事実であるだけでなく、かけがえのない喜びです」


 彼は、首を傾げて、ため息をついた。


「……ねえ、もう一度、あなたの名前を教えてもらっていい?」 

「メリル。タクヤ様の第一秘書のメリルでございます」

「メリルさん……僕は、あなたを信じていいの?」


 すると、一瞬で雰囲気が変わった。

 メリルは窓辺から離れ、素早い動きで片膝を床につき、タクヤの右手をとった。

 

「私メリルは、スーサリア王子タクヤ様に使える身として、あらゆる悪災に立ち向かい、この命を捧げてつくすことを誓います」

 

 彼女の誓いが見えない槍のように突き刺さってくる。

 タクヤは、メリルの手を強く握り返した。

 

「ありがとうございます、メリルさん」

 

 あるべき記憶がないまま、それは変わらなかった。

 しかし、何かが始まった。「始まった」ことだけは、演奏の最初の一音を出したときのように、彼は明確に自覚した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ