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On My Way Home 1


 僕は、僕の本当の親元を訪ねた。

 かすかに感じられるなつかしい匂いのする小さな集落。

 草の匂いか、人の営みの匂いか、区別がつかない。

 たぶんそれは、僕が物心つく前に、母に抱かれていたときに感じた匂いのようなものに、近いのかもしれない。


 ユリは、それを喜んでくれた。

 

「君は、こんなことに巻き込まれることはなかった、とまで言うつもりはないけど、たとえすべてがなかったとしても、君は、やっぱり、君だったんだね」


 僕は、首を横に振る。

 そうじゃない。

 そうではないんだ。



 


 幼少の僕が育った家は、もうなくなっていた。

 いまはすっきりとしたデザインのホテル。

 普通の旅人らしく、フロントで空室を訊ねて、すすめられた部屋に決めた。


 目の前に牧場が広がる二階の客室。

 冷たい雲が流れて行く。

 

 

 


 羊肉のワイン煮とサラダ。

 灯油ランプの黄色い灯り。

 温かいレストラン。

 僕は一人で、テーブルについて問う。


 ユリは王のところに行ったんじゃないの?


「言ったよね? 私は君の一部になる、って」


 まさか……


「そうだよ。私は君と離れない。デルフィーニとも離れない。だめ?」


 だめっていうか。


「不満?」


 ユリは、あんがい、欲張りなんだ、って思ってみたり。


「タクヤこそ、もっと欲張りでいいと思うよ。ミルさんとのキスだって、遠慮しちゃって」





 僕は、フォークにさしたやわらかく煮込まれた肉を見つめた。

 そうじゃないんだ。

 ユリがいないのでは、生きることに意味があるとは思えない、というだけ。

 次世代のビヒレア=メッツァ?

 みんな、がんばってください。

 それだけのこと。


 



「ユリがいない、って、タクヤ、それ、どういうこと? 君は、つながってないの? なんのために私はすべてを捧げて全力で祈ったの? みんな、つながっている。だからうれしい。私、言ったよね?」





 涙が、あふれてくる。

 一人の夕食。

 旅先のレストランで。

 店主がだまってワインを入れたグラスをテーブルに置いてくれる。

 澄んだ血液のような液体。

 それを置いて。


 僕は、鼻をすすって、グラスを持ち、その常温に近い手触りを確認してから、赤い液体に唇をつけた。

 

 これは、キスであり、ユリだった。


 ユリの温かい唇。

 

 真面目でやさしいフリして、なんかずれてて、人がおどろくようなことを平気でやって。

 

 赤ワインがもしユリだとしたら、この世界に、ユリはたくさんいる。


 むしろ、ユリであふれている。



 


 僕は、サウナ付きの浴室で汗を流し、炭酸水を飲んで、歯をみがいて、ベットにもぐり込む。


 人間って、本当によく泣けるよな、と感心しながら。


 でも、今はもう、半分は喜びの涙にかわっている。


 自分の身に起きたことは、ただの喪失ではない。


 ただの死でもない。


 ただの終わりでもない。


 ユリはちゃんとわかっていた。


 水中のぼんやりしたと視界に、一瞬、鮮やかに見えた彼女の微笑んだ眼差し。


 最高に、かわいいやつ。


 ちゃんと、その表情、脳裏に永久焼き付け、できてる。

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