91話.ヴァルハラの結界強化③
「はぁぁぁっ!!」
「ピギィィィィッ!」
「ふぅっ……」
「お疲れ様玲央君。良い調子ね」
「うん、ありがとうリーシャさん」
リーシャさんと共にヴァルハラの外周を周って以前埋めた結界の支柱へと向かう道中。
俺はリーシャさんに頼んで、道中の魔物を倒すのを俺に任せて貰った。
護身術ならぬ、護衛剣術である。
俺は皆に比べたらとてつもなく弱い。
だけど、弱いなりにも身を守る術を得なければ、皆の足を引っ張ってしまう。
その為にも、俺も剣術を習おうと思ったのだ。
それをリーシャさんに話したら、護衛剣術を勧められたというわけだ。
相手を倒すことを目的とせず、安全に逃れる方法を重視するという事で、俺に合っているんだそうだ。
確かに俺は、敵を倒す、いや殺すのをどうしても躊躇してしまう節がある。
人を殺した事なんてないし、動物や虫も、前世も含めて殺した事はほとんどない。
蚊とかくらいだろうか。
そんな俺が、命の危険がすぐ傍にあるこの世界では、とてつもなく歪な事は理解している。
殺さなければ殺される。
殺さなければ仲間の命を失うかもしれない。
そんな世界で、殺したくないなんて甘い考えは許されないだろう。
事実、俺もこの世界で人間達や魔族達の死をニュースでも聞いているし、実際に見てもいて、多少感覚は麻痺している気はする。
だけど……命がとても軽いこの世界でも、俺は進んで殺したいとは思わない。
勿論非道な事をする奴であったり、敵と決めた相手には躊躇するつもりはないけれど。
そして、勝者にこそ生殺与奪の権利があるのだとしたら、強者になる……いや、勝つしかない。
勝つ事と強者はイコールじゃないと俺は思う。
最後まで生き残れた人が勝者や強者と言われる事もある。
「玲央君は目が良いから、敵の動きを追えるのが大きいわね。後は体がついていけば、私にだって追いつけるわ」
「あはは、それは流石に言い過ぎだよリーシャさん。でも、ありがとう」
「むぅ。私はこういう事で冗談は言わないわよ?」
リーシャさんがそういう人なのは知っている。
だけど、流石にこのゲーム最強の剣聖であるリーシャさんと並ぶ程の人なんて、主人公である烈火くらいだと思うんだよね。
まぁ、仮に俺の体がついていけばっていうお話だからね。
「"魔眼"とは別で、玲央君の目はとても良い。それは私や、クラスメイト達の動きを一人一人把握している所もそう。玲央君は尋常じゃない眼力というのかしら? そんな力を持っているの。ふふ、玲央君が自分の実力を上げる事に注力したら、本当にどう化けるか楽しみなのだけど……そんな気はないかしら?」
「あ、あはは……」
笑っているけれど、リーシャさんの目がマジである。
これに頷くと、修行だらけの毎日編がスタートしてしまいそうなので、笑ってごまかす事にする。
基礎トレーニングこそしてきたけれど、俺にそんな力はないのだ。
あくまで、俺の身体能力がリーシャさんクラスであれば、並べるかもしれないというお話。
一般人より少し強い程度の肉体では、どうしようもない。
オーラを扱う事で、肉体的強さを更に高める事は可能だけれど……やはり、俺自身が強くなる事はなんというか……解釈違いというか、違うんだよね。
俺は皆が凄いのを、凄いと思いたいっていう言い方も変だけど……こう、心から凄いって思える今が好きなんだ。
「もぅ、玲央君が望むなら、協力するのに」
リーシャさんが諦めてくれたので、ホッとする。
それからリーシャさんの指導を受けつつ、魔物に対処しながら道中を進む。
何の問題もなく五か所の支柱に辿り着き、渡されたアイテムを埋め込む作業。
それを終えて、先生達と別れた場所へと戻ると影縫先生だけが立っていた。
「影縫先生、こちらも終わりました」
「ああ、ご苦労だったね」
「あの、藤堂先生はどちらに?」
「誠也にはローガンと共に結界の外を見張って貰っているよ。これから行う秘術は、他の者達に見せるわけにはいかないからね」
「「!!」」
藤堂先生が言っていた、見せても良いのかという言葉の意味。
それはつまり、一族とかそういう秘伝の技という事なのだろう。
「私も離れていた方が良いですか?」
「いや、君なら構わない。誠也の弟子だ、悪用などすまい。それくらいの信用はするとも」
「ありがとうございます」
そう言って頭を下げるリーシャさん。
影縫先生も苦笑した。
「はは。うちの孫娘も君くらい素直だと良いのだが」
「影縫先生の孫娘さん、ですか?」
「おっと、知らなかったかい? 君達と同じ新入生でね、名を旋風と言うのだが……」
「「えええええっ!?」」
旋風さんが、影縫先生の孫娘さんんんん!?
いや確かに同じ苗字だったけど!
というか影縫先生、藤堂先生くらいの年齢に見えるんですけど、一体おいくつなんですかぁ!?
「ははは。まぁ俺の息子がとても早く結婚して子供を産んでね。俺は20で結婚して子供はすぐに生まれたんだ。俺が38の時に息子が結婚して子供を作って、その子が今16だ。もう俺も54で良い歳なんだが、まだまだ国が引退させてくれなくてね」
影縫先生54なの!? 見えない、とてもそうは見えないくらい若々しいんですけど!?
「あの、影縫さん……旋風さんは、お父上が暗殺系と仰っていましたが……」
リーシャさんんん!? そこ聞いちゃうんです!?
「ああ、そこまで話しているのか。それは間違っていないよ。俺の息子は暗殺者として一流でね。よく俺の命を狙っては失敗して、悔しそうにしていたなぁ、はっはっはっ」
「「……」」
なんていうデンジャラスな家族なのか。
驚きすぎて反応に困る。
「さて、では始めよう。玲央君、見ておきなさい。これが結界師、影縫 大地の最高傑作……最強の結界だ! 神聖結界<<ホーリー・バリア>>!!」
「「!!」」
凄まじい力が、ヴァルハラ全てを覆う。
虹色の光が降り注ぎ、ドームのような形をとった。
見ただけで分かる。
"これは壊せない"
まさに、神の聖域のように、ヴァルハラは守られた。
「す、凄い……」
あのリーシャさんですら、これには驚いている。
かくいう俺も、開いた口が塞がらない。
「ぐっ……」
「「影縫先生っ!!」」
地面に片足をついた影縫先生の元へと走って駆け寄る。
とても苦しそうだ。
これほどの結界だ。やはり、とてつもない代償が……
「ああ、心配しなくて大丈夫だ。いつもの魔力切れだ」
「「え」」
「俺は魔力量が多くなくてね。比較的消費の少ない結界系の魔法だが、この規模ともなれば、俺の魔力量では限界ギリギリでね。言葉通り、俺の切り札なわけだ。そして……玲央君、君ならもう、この魔法を使えるはずだ。規模は小さくてもね」
「「!!」
「この結界魔法を扱える者は限られる。そして、一目見て分かったさ。君は、イレギュラーだと。神の……ぐっ……」
「「影縫先生!?」」
言葉を言い切る前に、影縫先生は倒れた。
魔力切れでここまで話せる事自体が凄い事なのだけど……影縫先生は、無視できない言葉を話した。
目が覚めたら、話を聞かないと。
そう決意し、リーシャさんと共に影縫先生を保健室へと運ぶ事にした。
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