90話.ヴァルハラの結界強化②
続々と素材を持ち帰ってくる先輩達。
基本的に二年生と三年生が任されたダンジョンは難易度が俺達がクリアしたダンジョンよりも高い。
だから時間が掛かるのは当たり前なんだけど……それでも、午前が終わる前に皆帰ってくるのだから驚きだ。
誰一人欠けずに戻ってきた。流石に怪我を負った先輩達は沢山居たけれど、部屋に控えていた枢機卿である先輩が癒してくれた。
ちなみに枢機卿とは、聖女の上のクラスである大聖女と同クラスである。
男性が枢機卿、女性が大聖女に分けられる。
覚えるスキル等は変わらないけれど、魔力量に差があって、女性である大聖女の方が魔力量は高い。
代わりに枢機卿は体力があり、打たれ強かったりするんだけど……基本後衛なのは変わらないし、大聖女の方が選択肢に上がるんだよね、切ない。
ちなみに枢機卿の前は大司教で、このクラスで聖女と同クラスだ。
枢機卿の先輩は三年生で、すでに軍部にも顔を出している程の方らしい。
俺はこの人を知らないのだけど、非常に温和で優しそうな、神父さんをイメージするような人だった。
回復魔法の練度が凄まじく高く、恐らく欠損してもすぐなら全快させてしまうだろう。
まぁ、沢山の先輩達が傷だらけで帰ってきたのに、傷一つなく、元気いっぱいの先輩達も居たけれど。
……はい、全部知り合いです。
「聖、さんきゅな」
「気にしないでください彰君。僕は皆を助けたくて、聖職者の道を選びました。皆を癒してあげられる力を得られた事を、嬉しく思っているんです。それに、僕をここまで育ててくれたのは、他でもない彰君ではないですか」
「へっ、聖にはもう頭が上がらねぇけどな?」
「それは僕のセリフですよ。僕は彰君に足を向けて眠れませんから」
「「ははっ!」」
良い関係だな、先輩達。
お互いがお互いを信頼していて、絆の深さが分かる。
やっぱりヴァルハラは良いよね!
「にゅぁ~! チルチルぅ、痛い痛い~!?」
「我慢してください陽葵。まったく、油断するからこうなるんです。先輩、お願いできますか?」
「ええ、任せてください」
聖先輩が陽葵先輩に近づき、治療を開始する。
一瞬で傷が癒えた陽葵先輩は飛び跳ねた。
ちょ、見える見える!
「落ち着きなさい陽葵!」
「あいたぁっ!? うぅ、酷いしチルチル……」
ちなみに、陽葵先輩の傷は魔物から受けた物ではなく、帰りに居た魔物を、『あーしひらめいたしっ!』と言って、新しいスキルを使って、態勢を崩して盛大に転んだ所を岩に衝突の二連撃を受けたそうな。
何やってんですか陽葵先輩……。
彰先輩に陽葵先輩、千鶴先輩は俺やリーシャさんと話したそうにしていたけれど、藤堂先生が俺達を置いてる理由を察してか、すぐに部屋から出て行ってしまった。
まぁライムにメッセージが届いていたのだけどね。
「おし、これで全部集まったな。玲央、ついてこい」
「あ、はい。行こうリーシャさん」
「ええ」
藤堂先生の後をついていくと、ヴァルハラの一番外周区に辿り着く。
リーシャさんと二人で結界の強化に周った事を思い出すな。
そう昔の事じゃないんだけど、色々な事が起こったからか、随分と前の事のように感じる。
「ここら辺で良いか。おい、居るんだろ? 出て来いよ」
「……まったく、俺はこれでも忙しいんだ。あまりホイホイと呼ぶんじゃない誠也。お前の頼みでなければ、来ていないんだからな」
この人は……!
「すまねぇな大地。ヴァルハラの結界が破られたのはもう知ってるだろ? お前しか頼れる奴がいねぇんだよ」
「分かっている」
この世界で大英雄と言えば藤堂先生だが、あえて分類を分けるとするならば、攻めが藤堂先生で、守りが影縫 大地。
最強の、いや最硬の結界師として名を馳せる英雄の一人。
ヴァルハラの結界の基礎を構築したのも、この人である。
「それで、そっちの娘は知ってるが……ああ、その子が誠也の言っていた魔眼持ちの子か?」
「ああ。先入観を持たせねぇように、最低限の情報しか言ってねぇが……」
「いや、もう分かった。俺と同じように属性魔法が使えないようだな。ならば、俺がこれからする事を見るのは参考になるだろう」
「「!?」」
「俺が言うのもなんだが、良いのか大地」
「構わん。一人でも優秀な人物が増えるのは俺にとっても助かるからな。俺と同じように出来るとまでは確信出来んが……良い目をしている」
「!!」
俺の肩に手を置いた彼は、優しく微笑んだ。
その透き通った眼は、俺の奥底まで覗き込んでいるようで……なのに、全然嫌な気がしない。
「改めて、俺の名は影縫 大地。ヴァルハラの非常勤講師として在籍している。誠也から一応聞いてはいるが、君は?」
「あ……えっと、榊 玲央と言います」
「玲央君か。俺は結界を張るのを得意としていてね。知っているかもしれないが、このヴァルハラの結界は俺が創った。俺は中々現場を離れられなくてね、ローガンに補強を任せたのだが……それでも破るほどの魔族の強さは予想外だった。だから今回は、俺が本気で補強しようと思ってな」
「おいおい、俺らと話す時より随分と優しい口調じゃねぇか大地」
「当然だろう。愛すべき生徒達と、戦友のお前達を同列に扱えと言うのか?」
「へいへい」
ぐはっ……。藤堂先生と影縫先生の親しみやすさが天元突破している!
なにこれ尊い! 二人とも昔ながらの気さくさというか、信頼が目に見えてもう……!
「玲央君、顔、顔……」
「ハッ……!」
「……何故彼は俺とお前を見て鼻息を荒くしているんだ……?」
「あー、いや、こいつはな。いや改めて言われると俺もなんて言や良いのか分かんねぇな」
「えっとその、玲央君は尊敬する人を前にすると、よくこうなるんです……」
「ははっ。成程。それは喜んで良いのだろうけれど、こうも表に出されると気恥ずかしいものだな」
「だよな、こいつはそれを隠しもしねぇのが厄介なんだよ」
「分かります……」
あれ、リーシャさん含めて変な目で見られてる気がするけどなんでだろう?
「誠也、素材は持ってきてくれたな?」
「おう。これだ」
「結構。では創るとするか」
「「!!」」
影縫先生は錬金術も出来るのか!
錬金術部のエース、アーベルン先輩の手際も見事なものだったけれど……分かる。
この方の技術は、それよりも更に上だ!
魔術の流れが奇麗すぎる。
素材が交わるのが、こんなに奇麗に合わさるなんて……!
「その眼で流れが見えるようだね玲央君。君ならば錬金術も高度に扱えるようになれるはずだ。機会があれば、学んでみると良い」
「!! はいっ!」
本業は結界師なはずなのに、ここまで見事な錬金術を披露してくれた影縫先生。
そんな先生にそう言われて、張り切るなという方が無理だろう!
「ふふ」
何故かリーシャさんに笑われたけれど。
「よし、これで素材は完了だ。後は五芒星、いや今は十芒星だったか? その支柱に埋めるぞ。元の五芒星の部分は俺が埋めてこよう。追加の逆五芒星の分は頼んで良いかい玲央君」
「あ、はいっ! 勿論です!」
「ありがとう。全て終えたら、再度ここに戻ってきてくれ。仕上げを見せよう」
「分かりました! 行こうリーシャさん!」
「ええ、分かったわ。それじゃ藤堂先生、影縫先生、お先に失礼します」
「おーう。お前達なら大丈夫だろうが、設置された魔物に気をつけろよー」
藤堂先生に注意を受けながらも、以前と同じようにリーシャさんと一緒に外周を回る事になるのだった。
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