86話.難易度の追加
「ぐふぅ……」
なんとか教室に辿り着いた俺は、机に上半身の体重を全て預ける。
リーシャさんが最終奥義、『斬るわよ』を発動しなかったら、チャイムが鳴るまでに教室に辿り着けなかったかもしれない。
「おーい! 席につきやがれ! ホームルームを始めるぞ!」
俺が机に体重を預けたのとほぼ同時に、藤堂先生の一喝で全員着席する。
ここで先生に逆らうような馬鹿は生き残れないのである。
俺も精神的に疲れた体に鞭をうち、体を起こす。
「お前らしっかり休めたか? まぁ一部すでにしんどそうな奴が居るが、有名税と思って諦めるんだな! ガハハハ!」
そう豪快に笑う藤堂先生に苦笑するしかない。
なんせ本人が超有名人である。
こうして学校で会えるから忘れそうになるが、人類側の大英雄にして切り札なのだから。
「魔族との戦いの勝利、よくやった。奴らは魔族の中でも好戦派だったはずだ。しばらくは大人しくなるだろう……が、油断はしちゃならねぇ。まず、今回破られた結界を補強、増強する事が決定した。その為に必要な素材を、三年、二年、そして一年にも一部のメンバーに協力して集めて貰う事が決定した」
「「「「「!!」」」」」
おお、結界強化のイベントはやっぱり起きるのか。
俺が補強をした事でこのイベントが無くなるかもしれないと思っていたのだけど、余計な心配だったな。
「そしてもう一つ。まぁこっちが本題だが……お前らも順当にダンジョンを攻略していってるが、そのダンジョンに難易度が追加される」
「「「「「!?」」」」」
この時期に追加は恐ろしく速い。
本来追加されるのはもっと後、少なくとも学年対抗戦は終わってからのはずだ。
やはり物語が少し変わってきているのかもしれない。
とはいえ、順番が早まっただけではあるのだけど……。
「今までのダンジョンの難易度はeasyで固定されていた。が、次からは入る前のパネル操作で一度クリアしていれば難易度を上げる事が出来るようになる。難易度のberryhard以上はそのダンジョンのランクより上がるレベルだ。勿論だが、それぞれにポイントは加算されるしクリアタイムの順位も難易度ごとに測定されるからな。気張れよお前ら!」
藤堂先生が笑って言うけれど、この難易度追加はレベル上げにはかなりもってこいなんだよね。
ダンジョンの敵の強さが上がるのは勿論だけど、罠自体は変わらないのだ。
つまり、戦い慣れた敵の上位版になるっていうだけ。
難易度のhellからはまた変わるんだけど、こっちは2週目以降限定だからどうなるかは分からない。
リアルに2週目もくそもないし、普通に出る気もするけど……。
「さて、連絡事項は以上だ。榊、リーシャ。お前らはこの後いつもんとこに来い。最初に話した結界の件だ」
「分かりました」
「はい」
そう言って藤堂先生が教室から出ていく。
俺とリーシャさんはいつもの『表彰部屋』へと向かう。
授業はまぁ一般教養レベルの高校生の授業なのはこの世界でも変わらないし、抜いてもある程度は点は取れるだろうから心配はない。
「素材集めに手分けして行くって事よね?」
「多分ね。班分けというか、そんな話じゃないかな?」
なんて会話をしながら向かっていると、烈火達と途中で合流した。
「烈火達もやっぱり呼ばれたんだね」
「おう! 外のダンジョンに素材を集めに行かなきゃなんねーんだってな! 不謹慎かもしれねーけど、楽しみだぜ!」
「フ……腕が鳴るな」
「アンタ達の自信満々な所、羨ましいわ……」
「ふふ、美鈴さんも実力はあるのですから、不安に思わなくて良いと思いますよ?」
「そ、そう? 紅葉さんにそう言われると嬉しいわね。ありがと」
ああ、今日も推しが眩しい。
神様、俺をこの場に呼んでくれてありがとうございます、敵かもしれないけど。
「藤堂先生、入っても良いですか?」
「おーう、入れ入れ。初めてってわけじゃあるまいし、気にせず入れよ玲央」
そんなわけにはいかないんですけど。
三年生の方々や、二年生の方々も居るんでしょうし。
「失礼します」
「あ、れおちー! リーにゃん!」
「おお玲央! やっぱ一年で呼ばれるならお前達だよな!」
「先輩方……」
見知ってる人達が、笑顔で手を振ってくれる。
その周りには同じ同級生の方達が数名こちらを見ているけれど、皆手練れなのはすぐに分かる。
俺達一年生は、二年生の方達の横に移動する。
「おう、集まったな。ホームルームで聞いたとは思うが、ヴァルハラを覆う結界の強化をする事になった。今回のような事が二度と起こらねぇようにな。例え起こっても、対処できるようにカリキュラムを組む予定だが、それはそれだ」
実際、ゲーム中でヴァルハラの結界を超えられるのは一度だけだ。
そういう意味でも、ヴォルフガングの手勢は凄かったと言える。
この結界強化イベント以降、魔族達はヴァルハラの結界に手が出せなくなるのである。
とはいえそれは、ある人が本気で力を貸してくれたからこそなんだけど……。
「つーわけで、これからお前達には班を分けてそれぞれ素材を集めてきてもらう。時間を掛けるわけにはいかねぇからな、今日中に頼むぜ」
予め用意してあったのであろう用紙を受け取り、集める素材と班分けが書かれた紙を見る。
「ちょ、ちょっと待った藤堂センセ!」
「おう? どうした烈火」
その用紙を見て、烈火が手を上げる。
どうしたんだろう?
「一年は俺達6人じゃないスか? なのに、なんで玲央とリーシャさんが入ってないんスか!?」
ああ、そういう事か。
俺からしたら、烈火と美樹也、美鈴さんに紅葉さんの四人は当たり前のメンバーすぎて、何も違和感を感じなかった。
「そりゃ簡単なこった。烈火、お前が第二の司令官になるべきだからだ」
「へっ!?」
「今回の戦いで分かっただろう。指揮官の大切さがな。だが、どんなに優秀な指揮官でも、場を離れなきゃならねぇ場合は絶対に出てくるもんだ。そんな時、状況を察して仲間を鼓舞し、戦線を維持できる者が必要になる。その柱となる人物は、お前をおいて他にいねぇと俺は思う」
「!!」
それには全くの同意見だ。
そもそもが俺が総司令官的な立場なのは置いておくとしても、ゲームではパーティメンバーの指揮を取るのはユーザーだけど、その指揮はゲーム内では烈火が取っているという事なんだ。ユーザーの現身が烈火なのだから。
「い、いやでもよ、それなら紅葉さんの方が……」
「ああ、それも分かるぜ。だがな、共に前線に立って指揮を取り、仲間を鼓舞できるのはお前しかいねぇ」
「!!」
「何も一人で全てやれってわけじゃねぇ。お前の言う通り、仲間を頼って良い。だが、柱的存在は、その役割が違う。お前は最後まで倒れちゃいけねぇ。それが出来るのは……俺の見立てでは、お前だ烈火」
「!! 藤堂センセ……」
烈火の眼に、強い光がともる。
覚悟を決めた眼。
ゲームでもイベント絵として出た事のある、多くの人を魅了した姿。
かくいう俺も、この眼が好きだった。
透き通るようなまっすぐな眼。
「出来るな、烈火」
「……うっス! 美樹也、美鈴、紅葉、ついてきてくれっか?」
「フ……言わせるな恥ずかしい」
「当然! アンタだけじゃ頼りないからね!」
「ふふ、出来る限り力になりますよ」
くぅ~~!!
これ、これだよ! これで良いんだよっ!
今が『表彰部屋』じゃなければ、滅茶苦茶声を上げるのにぃぃぃっ!!
「玲央君、落ち着きなさい……」
「あ、ハイ……」
隣に居るリーシャさんに小声で注意される始末である。
「にしし、ホントれおちーはともぴの事好きなんだし」
「へへ、やっぱ玲央はそうだよな」
なんか先輩達が生暖かい目でこっちを見てるのは何故なのか。
「おし、質問が無ければ早速頼むぜ!」
「「「「「はいっ!!」」」」」
こうして、俺達は結界強化の為の素材集めに、ダンジョンへと向かう事となった。
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