85話.騒がしい登校
ヴォルフを新たな家族として家に迎え、無事に受け入れられた。
ワルキューレの選定戦というイベントも終わり、そのボスキャラクターであるヴォルフガングが味方に加わるというのは、こう、来るものがあるね。
まぁクレハさんと違いヴァルハラに通うわけではないし、家にずっと居るのではなく、マカロンの指示で色々と動くだろうけど。
「よし、と」
制服に着替え終えた俺は、階段を下りて一階へ。
週の中頃が休みだったので、今日と明日ヴァルハラに行くとまた土日で休みだ。
俺としては土日だってヴァルハラに行っても構わないくらいだけどね。
家で訓練をするより、ヴァルハラの方が設備が整っているし。
「おはよう兄貴」
「おひゃよぅおにい~」
「おはよう拓。咲は、まだ眠そうだな」
一応制服には着替えているが、まだ寝ぼけ顔の咲の隣に座る。
「ありがとう拓」
「ん。兄貴は今日大変だろうからな、元気が出るように朝から気合入れて飯作っておいたぜ」
「うん? 大変って?」
「「え」」
あれ、俺何かおかしい事言った?
さっきまで眠そうにしてた咲まで驚いた顔をしている。
「あー、そっか。おにい、ニュースとか全然見てないよね……」
「あー。まぁ兄貴らしいっちゃらしいけどさ……兄貴、今日は速めに家出ないと遅刻するかもしれないぜ?」
「へ? 遅刻?」
どういう事だろう?
と考えていたら、玄関が騒がしい。
「玲央君! 開けて!」
「「「!!」」」
この声はリーシャさん!?
あのリーシャさんが切羽詰まった声で、まるで助けを求めているような!?
「リーシャさんっ!」
俺は玄関へと走り、ドアを開ける。
「ありがとっ!」
バタンッ!
凄まじい速度でドアから入ってきたリーシャさんは、凄い勢いでドアを閉めた。
「ど、どうしたのリーシャさん!? そんな恐ろしい敵が居た、とか!?」
「そうね……いっそ敵だと楽だったかしら……」
「え?」
「「あー……(察し)」」
あれ? 何故か咲と拓は分かってる感じ?
「んー……おにい、今二人は超有名人なんだよ。トップアイドルとか、そういうのを超えてるというか」
「は?」
「俺も休みの間、ダチから兄貴と会わせてくれってひっきりなしにメッセージが来るからさ、もう切ってたくらいだぜ?」
「私もー」
「……」
嘘でしょう? いくらニュースに取り上げられてたとはいえ、そんなに?
「ここに来るのも大変だったわ……いっそ魔物や魔族なら殺して進めたのに……」
リーシャさんが物騒な事を言ってる。
「という事は、烈火達も大変なんじゃ……?」
「轟君達も結構囲まれるとは思うけれど……多分、私達程じゃないと思うわ」
「だよねー。一番目立ってたの、おにいとおねえだからね。特におねえはやばいよ。綺麗で強くてカッコいいから、戦場の女神とかValkyrieとか呼ばれてるくらいだもんね」
「だよなー。リーシャの姉御マジでカッコよかったし、俺も何度も見たぜあの動画!」
「あの動画?」
「これだよおにい!」
そう言って咲がスマホの画面を見せてくる。
そこにはリーシャさんがヴォルフガングを相手に攻撃を華麗に避けつつ、攻撃を加えるシーンが映っていた。
俺の視点とは違うから新鮮である。
成程、凄くカッコいい。
「これはカッコいいな! 流石リーシャさんだっ!」
「だよねおにい!」
「だよな兄貴!」
「もう、皆やめて頂戴……」
リーシャさんを見ると顔が真っ赤である。
多分リーシャさんなら言われまくっていると思うんだけど、やっぱり慣れないものなのかな?
「もしかしてだけど、外って……」
「ええ。人でいっぱいよ」
「プライバシーはどこへ?」
「ああ、来ているのはご近所さんみたいだから、大丈夫だぜ兄貴」
拓がドアの覗き穴から外を見てそう言う。
むしろご近所さんならいつも顔を見ているんだし、何故わざわざ来るのだろうか。
俺にはさっぱり分からない。
「とりあえず、登校しないとだし……覚悟決めますか」
「兄貴、飯は食ってってくれよ?」
「おっと、そうだな。リーシャさんはご飯は……」
「当然食べてきたわよ?」
ですよねー。
「もし良かったらリーシャさんも食べません? 拓の作ったご飯、美味しいよ」
「聞いてた玲央君? でもそうね。拓君、頂いても良いかしら?」
「勿論だぜ! 多めに作ってあるからな!」
「それじゃ私も頂くわ。ありがとう」
「わーい! おねえとご飯ー!」
嬉しそうな咲と拓を見ていると、俺も嬉しくなる。
今でこそ普通にリーシャさんとこうして一緒に居るけれど、家に推しが居てご飯を一緒に食べれるとか俺は前世でどんな徳を積んだのだろう。
ありがとう前世の俺。
「なんで手を合わせてるの玲央君……?」
「あ、いや……! そ、それじゃ食べようか!」
そうして拓の作った朝食を平らげ、今日は咲と拓も一緒に外へと出る。
「「「「「ワァァァァァァッ!!」」」」」
「「「「!!」」」」
おうわぁっ!? 道路が人で埋めつくされてるんですけどぉ!?
「玲央君ー! テレビで見たよー!」
「Valkyrieマジで綺麗ー! 動画より実物の方がより綺麗じゃない!?」
「玲央君! 今のうちにサインを!!」
「リーシャ様こっち向いてー!!」
凄まじい勢いで皆が近づいてきて、質問というか声を掛けられまくる。
こんな中をリーシャさんは来てくれたのか!
玄関から出て一歩も動けないでいると、見覚えのある大きな黒い車がこちらへと走ってくる。
流石に周りに居た人達も、車を避けるように散った。(この世界では車の権利は強く、人が当たった場合大体人が悪くなる。明らかな車から当たりに行ったとかは別だけど、基本車の走行の邪魔をしてはならないというルールがある)
そうして家の前に着くと、車のドアが開き、大柄な黒いスーツを着た男性が……ってあれ、この人は。
「榊様、お迎えに上がりました」
そう言って頭を下げたのは、紅葉さんのボディーガードの黒木さんだ。
「もしかして、紅葉さんが?」
「はい。そしてオジキ……剛毅様より、榊様を助けるように命じられております。ささ、皆様もどうぞお乗りください」
そういう事なら是非もない。
むしろこのまま行くのは難易度が高いし。
「それじゃ、お願いします黒木さん。えっと、俺達は最後で良いので、先にこの二人を送って貰っても大丈夫ですか?」
「勿論ですよ」
そう笑顔で(サングラスかけてるので、口元だけだけど)言ってくれる黒木さんに頭を下げて、大きな車に乗る。
「お、おー……フカフカだ……」
「うはぁ……人がダメになるやつぅー」
「姉貴は大体ダメだけどな……」
「なんだとぅ!?」
「はは! っと、すみません」
「いえいえ、構いませんよ。それでは、咲様と拓様の通う中学校へ先に向かわせますね。おい」
「はっ!」
そうして、車が走り出す。
なんでだろう。走り出したのに、重力というか、遠心力というか、そういうのを一切感じない。
これが高級車足る所以……!
なんて事を考えていたら、顔に出ていたのかリーシャさんに笑われた。
「それじゃおにい、おねえ、またね!」
「行ってくるぜ」
「ああ! ちゃんと勉強頑張るんだぞ!」
「分かってるってー。というかこんな凄い車で登校したから、絶対クラスで問い詰められるぅ~!」
「もう遠巻きに見られてんしな。あー、こりゃめんどくさい日になりそうだぜ……」
すでにげんなりしている二人に苦笑しながら、見送った後ヴァルハラへと向かう。
途中で烈火達に会うかな? とも思ったけれど、会う事はなく、ヴァルハラへと辿り着いた。
「それじゃ黒木さん、ありがとうございました」
「ありがとう」
「いえいえ。それでは、お嬢をよろしくお願い致します。俺達も四六時中控えていられるわけでは無いので、榊様達が近くに居てくださると安心できますから」
そう言って、黒木さんは車に乗ってヴァルハラを後にした。
「それじゃ、私達も行きましょ。流石にヴァルハラの中にまでは入ってこれないからね」
「だね。一息付けそうだね」
なんて考えていたのだけど、今度は下駄箱で皆に囲まれてしまうのだった。
「玲央君、斬っても良いかしら?」
「ダメに決まってます」
リーシャさんの眼が据わってるんですけど!
お読み頂きありがとうございますー。




