84話.紅葉さん来訪
「あら? マカロンちゃんに、子犬、ですか?」
「ワン!(狼だ!)」
「これは失礼しました。可愛らしい姿なのでてっきり……狼なんですね」
「「!!」」
「にゃん(ほぅ、嬢ちゃんは聞こえるのだな)」
驚いた。ヴォルフの声に紅葉さんは返事をした。
「その様子だと、普通は聞こえないんですね?」
「う、うん。その……」
「分かりました。玲央さんのお部屋でお聞きすれば良いんですよね? それとも、外の方が良いですか?」
「あ、いや、俺の部屋で良いよ。クレハさんも居るし」
「マカロンちゃんが居るので何もしていないとは思いますが、クレハに何もされていませんよね玲央さん?」
ずずいっと顔を近づけてくる紅葉さん。
近い近い!
「だ、大丈夫だよ!」
「おにい、長いけど誰か……あ、紅葉ねえだ!」
「ふふ、こんにちは咲ちゃん」
「こんにちはです! 成程、姉妹丼とはおにい……」
「咲、そういうダメな事を言う口はこの口か?」
「いひゃいいひゃい! たしゅけてりゃくぅ~!」
「いや、今のは姉貴が悪ぃだろ……」
「そんにゃ~!」
「玲央さん、姉妹丼とはなんでしょう……?」
「「「……」」」
俺と咲と拓の時が同時に止まったのは言うまでもない。
「咲?」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい、猛省してますおにい。ギャル子ちゃんがあんなんだから、てっきり……」
まぁ気持ちは分かる。
姉がアレだと、そう連想しちゃう気持ちは。
「あの……?」
「気にしないで。出来れば忘れて貰えると助かります。決して、決してクレハさんに聞くような真似はしないように。良いですね?」
「は、はい。分かりました」
きょとんとした顔でそう言う紅葉さんが猛烈に可愛いけれど、意味を知ったら滅茶苦茶赤くなるだろうなこれ。
そうして紅葉さんを連れて、俺の部屋へと戻る。
咲がマカロンを捕まえようとするも、マカロンはこれを華麗に回避。
ターゲットをヴォルフに変えるが時すでに遅し、ヴォルフは先を行っていた。
なんて事がありながら。
「お、もう来たんだ紅葉☆ なんで着物☆」
「貴女が逃げたせいで、私に昨日のインタビューが集中したせいですが?」
「あ、そういう☆ メンゴメンゴ☆」
「はぁ……」
ああ、成程。大企業の後継者の紅葉さんは、取材から逃げる事が出来なかったんだろう。
だから正装というか、着物姿で居たのか。
「ククッ。嬢ちゃんは大変だな」
「ワフン!?」
猫の姿から人型へと戻ったマカロンは、ヴォルフを膝に乗せて椅子に座る。
おお、悪の親玉が豪華な指輪をつけた手でペルシャ猫を撫でているようなシーンを連想させる。
乗ってるの可愛い子犬だけど。
「ところで、この子犬……ではなく、子狼は……?」
「ワン!(俺は子狼ではない! この颯爽とした優雅な毛並みが目に入らぬか!?)」
「「「「……」」」」
俺、マカロン、クレハさん、そして紅葉さんの視線がヴォルフに集まる。
モフモフとした、小さな毛玉……もとい、子犬にしか見えないんだよなぁ……。
ひょっとしてヴォルフ、自身の姿が分かっていないんじゃ……?
そう思った俺は、姿見鏡を持ってくる。
「ヴォルフ、これ見て」
「ワン? ワフン!?(鏡? 鏡がど……○!※□◇#△!?)」
ヴォルフから、言葉にならない言葉が聞こえてきた。
やっぱり。
「あっはっはっはっは!」
「マカロン、知ってて黙ってたね?」
「ククッ……許せ。しかし、最初から大型では受け入れにくかろう? だから、最初は小型から始め、成長で徐々に大きくすれば違和感もないだろう?」
成程……そこまで考えていたのか。
確かにそうだ。
「ワフン……(二グルメウム様、我はしばらくこのままという事ですか……?)」
「そうだ。少なくともこの家で過ごす間はな」
「クゥーン……(承知致しました……)」
ヴォルフには悪いけど、滅茶苦茶可愛くて仕方がない。
今すぐ抱きしめたい衝動を我慢するのが大変だ。
「あの、先程ヴォルフと聞こえましたが……もしかしてその方は……」
「あ、うん。えっと……昨日戦ったヴォルフガングだよ」
「なっ!?」
紅葉さんが驚くのも無理はない。
無理は無いのだけど……
「成程、それでクレハが急に玲央さんの家に行く事にしたのですね。昨日のヴォルフガングの遺体が消えたのも、クレハの仕業でしょう?」
「くふふ☆ 流石に紅葉にはバレてたか☆」
もはや開いた口が塞がらないとはこの事で、紅葉さんは一体どこまで聡いのだろうか。
「ヴォルフ、人型に戻って貰っても良い?」
「ワフン?(二グルメウム様、宜しいですか?)」
「ああ、構わん。基本的に玲央の言う事は私と同等の言葉と思って良いヴォルフ」
「ハッ! 畏まりました」
「!! 本当に、ヴォルフガングなのですね。姿は人間、いえ、獣人のようですが……その力は、昨日感じたままです。いえ……それ以上の魔力ですね」
流石は紅葉さんだ。
一発で色々な事を見抜いていく。
「……マカロン。この世界の事、まだ紅葉さんや烈火達に話しちゃダメかな?」
「気持ちは分かるが、まだ広げるのは止めておけ。嬢ちゃんが信じられる気持ちなのは分かる。だが、どんな強制力が働くか分からん。嬢ちゃんはメインヒロインだからな」
「あ……そう、だよね。うん、俺が迂闊だった。ごめんマカロン」
そうだ。敵は俺達の想像も出来ないような力を使う可能性がある。
烈火達は信じられるけど、烈火達に何が起こるか分からない以上、慎重に行動しないといけないんだ。
「メインヒロイン? とは、なんですか?」
「あ……」
「ちょいや☆」
「うぐっ!? クレ、ハ……?」
「ごめんね紅葉☆ ちょっと寝てて☆」
紅葉さんの首の後ろから、凄まじい速さでチョップを繰り出し気絶させたクレハさん。
「目が覚めたら、話合わせよろしくね玲央ちゃん☆」
「うん、ごめんクレハさん」
「なんのなんの☆ これくらいのフォローは任せて☆」
「では、俺は変化しておこう。そこからなら問題あるまい」
「うん、ヴォルフもありがとう」
「気にするな盟友よ。これから世話になるのだしな」
そう言ってヴォルフはまた子犬の形態へと戻る。
「マカロン、紅葉さんを起こしてくれる?」
「分かった」
「ん……あ、あれ。私、寝ていました……?」
「あ、えっと、ちょっと眩暈がしたのかもしれないね。時間は経ってないよ」
「そう、でしたか。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません玲央さん」
本当に申し訳なさそうな紅葉さんに、罪悪感がぁ!
「あ、その、良かったら、なんだけど! お昼皆まだなら、一緒に食べていかないかな? 今から俺が腕によりをかけて作るから!」
「本当ですか!? それは大変嬉しいです!」
「くふふ☆ 玲央ちゃんの手作りお菓子美味しかったし、料理とか超楽しみなんだけど☆」
「……待ちなさいクレハ。どういう意味ですか? 玲央さんの手作りを? クレハが?」
「あ、ヤバ☆」
「クレハ?」
「ちょ、目がマジだし☆ 玲央ちゃん、ヘルプ☆」
なんてやり取りをする二人に笑ってしまった。
今日の昼は拓にも手伝ってもらって豪勢な昼食にする事にしたよ、お詫びも込めてね。
ちなみに紅葉さんが来たのは、クレハさんの回収が目的だったとさ。
お読み頂きありがとうございます。
※姉妹丼とは、特定の肉の部位を姉妹に見立てて名付けられた丼料理のことです。 例えば、豚バラ、肩ロース、ロースの三種類の肉がご飯の間に挟まれている場合や、鮭とめんたいを丼にして姉妹丼としていることがあります。(蛇足)




