67話.西園寺 クレハ
学年対抗戦の話で盛り上がってそのまま授業そっちのけだったのは、ヴァルハラらしいと思う。
その後皆で学食で昼食を取り、以前烈火が見つけてくれていた、ゲームでは皆で集まる場所として使われていた拠点の一つに移動する。
クレハさんの事はまだリーシャさんしか知らないので、皆を抑えようとしたんだけど……
「良いですよ玲央さん。いつかは皆さんには話そうと思っていました。丁度良い機会でしょう」
「……良いのね、紅葉」
「はい。当然ですが、誰でもというわけではありませんよ? 玲央さんを守る、信頼できる仲間達だからこそ、です」
そう紅葉さんが微笑んで言う。
俺の推し達がそんな信頼を向けられて、裏切るわけがないんだよね。
「おう、俺は口はかてぇ方だぜ!」
「そういう意味じゃないでしょ馬鹿烈火。いやそういう意味でもあるのかな?」
「馬鹿と言われ損じゃねぇか美鈴」
「フ……信には信をもって応える。俺の信条だ」
「ま、この人達なら大丈夫だと私ももう思ってるわ」
リーシャさんも烈火達を認めてくれていた。
こんなに嬉しい事はない。
ロイヤルガードではない事もあって、誘われやすいのかアインと剛毅はクラスメイト達に囲まれて動けなそうだったんだよね。
視線を一度こちらに向けて、苦笑する二人の姿が印象に残ってる。
「それでは、少しお待ちください。私が連れてきますので」
そう言って紅葉さんは教室から出ていく。
にしても、である。
「美鈴さん、ちょっとファンシーに部屋を飾り過ぎでは……」
「な、なんで私だって一発で分かるのよ玲央!? 流石はキングね……」
いえ、キング関係なく、ウサギのぬいぐるみやクマのぬいぐるみ等、なんというか女の子って部屋というか教室が変わっているのだけど。この教室を知ってるメンバーで、そんな事するの美鈴さんしかいないんだよね。
「そりゃ流石にキング関係なくねぇか……俺でも分かるしよ……」
「馬鹿烈火にすら!?」
「フ……消去法というやつだ。俺と烈火、玲央はまず除外するとして。……いや、玲央がぬいぐるみを好きな可能性もある事はあるのか」
「ないです」
美樹也に即行で突っ込む。
いや嫌いではないけどね? ディズニーランドとか夢の国だって、俺自身は行きたいとは思わないけれど、行きたい人の気持ちを否定したりなんてしない。
「……ないの?」
ぐっ……美鈴さんも旋風さんと同じくあざと可愛い真似をぉ!
しかも美鈴さんは旋風さんより更に小柄な事もあって、可愛いが過ぎるんですけど!
「その、嫌いではないよ? 滅茶苦茶好きってわけじゃないけど……」
「……」
「ぐっ……」
「……」
「分かりました! 分かりました! 俺もぬいぐるみ好きです!」
「さす玲央!」
「ぶはっ……ご愁傷さん玲央」
「フ……」
この小悪魔めがぁっ!
でも可愛いから許してしまう。
「それじゃ、これも置いても良いかしら美鈴さん」
「そ、それはっ……! アイオンモール限定のモフモフヒツジ!? り、リーシャさん、それ……」
「紅葉から貰ったのだけど、私の殺風景の部屋には合わないから……『魔法のカバン』の中に入れておいたの。よければご一緒させてくれない?」
「よ、喜んで! うわぁ、可愛いー! ね、ねぇリーシャさん、抱っこして良い!?」
「お好きにどうぞ。貰いものだから上げられないけれど、この教室で共有する分には構わないでしょ」
「きゃー! 超嬉しい! わぁ、モコモコでやわらかい! かわいいぃぃっ!!」
女子がキャピキャピしているのを見るのって、こう、良いよね。
「玲央はどこ目線なんだよ……」
「男が女に向ける視線というよりは……母か?」
「それだ美樹也!」
いやいやいや、ほっこりしてただけなのに何を言うのか!?
「ヤッハロー☆ 玲央ちゃん☆ ウチが必要なんだって?」
「クレハさん! そうなんです。けど、その前に……」
俺は視線で紅葉さんに先を促す。
紅葉さんは頷いて、クレハとの事を皆に語った。
言葉を発せずに静まりかえる教室。
その静寂を破ったのは、烈火だった。
「ま、今はもう敵じゃねぇんだよな?」
「そだよん☆ 魔王様が命じたら別だけどね☆」
「……玲央、その魔王は信頼出来るのか?」
「うん。俺が保証するよ」
その点は、確実にだ。
もう情だってある。
「そうか。なら、俺からなんか言う事はねぇな。玲央が認めていて、紅葉さんも認めてる。んでリーシャさんも何も言わねぇって事は、そういう事だろ?」
「フ……珍しく意見が合ったな烈火」
「ま、思う所はあるけど……人を見る目は確かな玲央が言うなら、ね」
「いや美鈴、玲央のはお人好し成分がほぼ占めてると思うぜ?」
「違いない」
「それは……あるわね」
あの、褒めてるのか貶してるのかどっちでしょうか?
「くふ☆ ウチ、色んな人間を見てきたけど……玲央ちゃんの周りの人達みたいなの、初めてかも☆ これもきっと、玲央ちゃんの力なんだろーね☆」
俺の力……? いやいや、そんな大層なものじゃないと思う。
俺の推し達が人格者なだけだ。
「ま、皆もう分かってると思うけど、この顔の時は絶対に勘違いしてるわよ玲央君は」
「だな」
「ああ」
「そうよね」
「ですよね」
烈火、美樹也、美鈴さん、紅葉さん全員否定しないのは何故。
「くふふ☆ それで玲央ちゃん、ウチにしてほしい事って何? 玲央ちゃんの為なら、あんな事でもこんな事でも、見せられないよ☆ な事でもなーんでもしてあげるよ☆」
「誤解されるような事を言わないで貰えます!?」
女性陣に、それも推しの人達に軽蔑の視線を向けられたら物理的にじゃなく精神的に死んでしまうんですけど!
「ここでからかって玲央君に大ダメージを与えると立ち直れないかもしれないから、やめておきましょ」
「そうね。こいつら異性に対して異性だと思ってないもんね。女として屈辱的やら安心して良いやらなんだけど」
「そこを気付かせるのが良いのではないですか美鈴さん」
「!! 流石は紅葉さん……!」
女性陣は女性陣で、なんか違う事話してた。
「なぁ美樹也、確かに美女だったり可愛かったりするのは分かるんだけどよ……」
「フ……みなまで言うな烈火。元より俺以外の人型などパペットと変わらん」
「それはそれですげぇな……」
烈火と美樹也の小声の話も聞こえてしまう。
色々と突っ込みたいけど、あっちでもこっちでも話をするので気になってしょうがない。
「玲央ちゃん☆」
気付けば、目の前にクレハさんが居た。
その手が俺の首元に添えられ、優しく撫でられる。
「この距離なら多分弾かないよ☆ さ、使ってごらん☆」
「!! もしかして?」
「くふ☆ 勿論魔王様からすでに聞いてるよ☆ からかってメンゴ☆」
マカロン、言ってるなら言ってると言って欲しい。
とりあえず、クレハさんに『鑑定』をかける。
西園寺 クレハ(偽名)
本名 クレハ=カーセナル
性別 ♀
魔族
四魔将
<<レベル不足によりこれ以上の詳細は見れません>>
恐らく本名以下の情報については並みの『鑑定』では見る事も出来ないだろうと思う。
誤った情報ならつらつらと並んでいて、それを『読まされる』事になるだろう。
俺の場合は『魔眼』の力もあり、偽情報が通用しないのだと思う。
それでも、あまりにも知れる情報が少ないけれど。
「そろそろ離れなさい」
「きゃん☆」
リーシャさんに引っぱられ、クレハさんは後ろに下がる。
今思えば、こんなに至近距離に居たのにそんなにドキドキしなかったのは、やはり推しではないからか。
「ふふ、残念ですねクレハ。玲央さんはクレハには赤面しないようです」
「ぐぬぅ☆ それはそれでサキュバスの沽券に関わるんですけど☆」
そんなもん捨ててください。
とりあえず、『真鑑定』は覚える事ができたようでホッとするのだった。
入院中の書き貯め分これで終了です。
お読み頂きありがとうございました。
少しでもこの物語で楽しんで頂けたなら、嬉しいです。




