大賢者と、お茶会の謎①
「さて、これでHRを終わります。それでは皆さん、良いお年を!」
一学期が終わり、明日から冬休みだ。ちなみに言い忘れていたが、9月始まりの魔術学院は9~12月が一学期、1月~3月が二学期、4月~7月が三学期の三学期制だ。長期休みのタイミングの期間は前世とほぼ同じで、冬休みは2週間ほどある。
宿題も少ししか出ていないし、冬休みは割と好きなことができる。そのため今までであった不可解な出来事について調べるにはもってこいである。
私は冬休みを家で過ごす予定なので、HR後寮に戻り、色々と荷造りをしていた。
ゴンゴンゴンッ!!
「ポッポーー!!!」
「!?」
すると、突然白いハトが叫びながら私の部屋の窓をやたらとつついてきた。
一瞬変な病気かなにかでおかしくなったハトなのかと思ったが、よくよく見ると足に何やら紙が巻いてある。
急いで窓を開けると、バサバサッ!と部屋の中へ入ってきて机の上に降り立った。鳥だから表情がある訳では無いが、何となく怒っている気がする。
私はそーっとハトの足についた紙を外す。その紙を広げると、そこにはなにやら文章が書いてあった。どうやら手紙のようだ。ということはこのハトはやはり伝書バトか。
この世界にも電話の代わりになるものはあるのだが、前世ほどの普及率は無くこの寮にも無い。電話モドキがない場合の遠距離での連絡は伝書バトや伝書フクロウが主流である。
と考えていると、伝書バトが今度は"早く読め!"と言わんばかりにこちらを見てくる。手紙を届けた時点でこの子の仕事は終わったはずだが…まあとりあえず読むか。
手紙の内容はこうだ。
"カナ・ベルナール殿
お久しぶり。例の呪法具の効果と入手ルートについて話がしたいので、明日の午後わしの屋敷に来て欲しい。
エドガス・ラウエンシュタイン"
どうやら送り主はエドガス殿のようだ。お茶会で頼んだことでなにやら進展があったようだ。
…ところで、伝書バトがまだ帰らないのだがこれはどうすればいいのだろうか。
手紙を見返すと、さらに下に小さくなにか書いてある。
"追伸
ちゃんと手紙が届いたか確認したいので、この手紙を見たら伝書バトにただの紙切れでもいいからなにか持たせてくれると助かる。"
なるほど、このハトはそれを待っていたのか。随分賢いハトだ。
私はメモ用紙に"お手紙確かに受け取りました。カナ・ベルナール"とだけ書いて伝書バトの足に結ぶ。ついでに待たせてしまったお詫びとして、間食用のパンの切れ端をあげた。すると伝書バトは上機嫌で窓から飛び立っていった。
ママには明日家に帰ると言ってあるので、明日の朝家に1度帰ってからエドガス殿の元へ向かうとしよう。
――――― 翌日 ―――――
午前中家に戻り、久しぶりにママと過ごした。そして今は午後、私はエドガス殿…いや"大賢者"だしエドガス様の方がいいか。彼の屋敷の前にいる。お茶会のときの話によると、どうも研究室は屋敷の中にあるらしい。
コンコンッ!
ガチャ!
「おお、来たかお嬢さん。ささ、とりあえず中へ。」
「はい、お邪魔します」
エドガス様の後ろをついて行き、長い廊下を移動する。
「いきなり研究室に行ってもいいんじゃが、どうじゃ、先にお茶でも飲みながら話さないかのう?研究室はなんとも散らかっておってゆっくり話すのには不向きでな…」
「はい、ぜひ」
そのままついて行くと、私達は来賓室らしき場所に着いた。
「さて、ちょっとここで座って待っておれ。ワシは紅茶を淹れてくるのでな。」
「わかりました」
エドガス様の屋敷は非常に豪華だ。ソルード侯爵家と比べても引けを取らないレベルで。
お茶会の後に聞いた話によると、エドガス様は元々平民だったが、その実力を認められて伯爵になったそうだ。通常平民が爵位を与えられる場合、与えられる可能性があるのは騎士か男爵位だけだ。しかしエドガス様の場合、その影響力の膨大さを鑑みて男爵位より2つ上の伯爵位を与えられたのだ。これは前例の無かったことである。
もう少し待つと、エドガス様が紅茶を持って戻ってきた。
「ほれ、どうぞ」
「ありがとうございます」
双方無言で紅茶を1口飲んでから、エドガス様が口を開く。
「それで、早速本題なんじゃが…結論から言うと、呪法具の効果は分かったが、入手ルートは途中までしか分からなかった。」
「…なるほど」
「まず効果のほうじゃが、発動条件はワシの当初の見立て通り魔法銃の引き金を引いたときじゃ。そして発動すると、爆発して半径5m以内の人間に猛毒を振りまく。」
「猛毒…ですか?」
「そうじゃ。呪法によって作られた毒で、少しでも当たれば10分以内には死ぬ。しかも解毒薬はなく、解毒するには毒を作った本人に解毒の呪法をかけてもらう他ない。」
通常、毒薬を作る際は一緒に解毒薬も必ず作る。そうしないと毒薬が万が一自分にかかったときに自滅するからだ。だから第三者でもその解毒薬を持ってくるか再現出来れば解毒することができる。しかし、呪法による毒の場合、解毒薬は作らない代わりに解毒の呪法を作る。そうされてしまうと少なくとも呪法が使えない人間にはどうにもできないのだ。
「しかしそれだと不審なことがあってのう。あの呪法具は効果範囲を操作できないんじゃ。だから…」
「…それが発動すると、例の男もその猛毒をかぶってしまう。」
「その通りじゃ。どうしてあの男はそんなものを使おうとしたのかのう?」
「男は、そもそも呪法具の効果を知らなかったか、違う効果だと思っていたのかもしれません。」
「ほう、どうしてそう思ったんじゃ?奴は効果を知っていて、死ぬのを覚悟して使ったかもしれんぞ?」
「男ははじめ、"ソルード侯爵の1人娘はどこだ" と言っていました。つまり言葉通りに受け取れば、奴はシャーロット嬢を殺すか誘拐する目的で来たと考えられます。しかし奴が銃を構えたとき、当のシャーロット嬢は明らかに男より5m以上離れていました。銃で殺そうとした可能性もありますが、私が見た限り銃口はラクア殿下の方に向いていましたし、仮にシャーロット嬢を撃つつもりなら呪法具の発動を解除しないのは少々不自然です。まあ、効果を知っていても発動の解除ができるとは限りませんが…」
「なるほど、確かにそうすると辻褄が合いそうじゃな。しかし、だったら男はなんであんなもの持っていたのかのう。誰が用意したにせよ、それこそもっと別の呪法具の方が侯爵のとこのお嬢さんをどうにかするには向いているのではなかろうか」
「はい、そこが不思議なのですが…」
確かにエドガス様の言う通りだ。私の今までの見立て通りなら男には協力者がいて、その協力者が呪法具を準備したことになるが、それなら周辺に猛毒を振りまく呪法具を男に渡すよりも、魔法銃の弾に何か仕込んで持たせたりした方が効率がいい。
「…ちなみに、魔法銃の弾に特別な効果があったりはしませんでしたか?」
「いや、弾が当たると魔法が発動して対象者を貫くような仕組みじゃったが、一般的な魔法銃の効果と大差ないのう。」
「眠らせたり拘束したりといった効果はありませんか?」
「ないな」
となれば、そもそも魔法銃自体に重きを置いていなかった…?裏を返せば、呪法具を発動させること自体が目的だった?でもそれだとシャーロット嬢をどうこうすることは…まさか…
―――――――――― 続く




