ミス
長らくお待たせしました。
暗転した意識が戻って、俺が目を覚ますと、先程までと変わらない宿屋の一部屋の中で、驚き呆然としているベルに、襲いかかりそうなルナが目を見開いて固まって、体があると言う感覚が久しぶりの俺の方を見ていた。
△△△
「皆さん、おはよう。昨日も言ったが、私がBクラスの担任のクラウス・イエローだ。」
担任の話だと、入学式の次の日である今日は、授業は内容を進める様な物はほとんど無く、それらの授業の紹介がメインらしい。
「授業紹介だからと言って、弛んでいると痛い目を見るからな?気を引き締めて取り組めよ?」
「「「「「はい。」」」」」
新入生と言っても、流石はスーフェン第一騎士学校の生徒と言ったところか、返事に覇気を感じる。まぁ、ルナを除いてだが…。
一人覇気の無い返事をしたルナは“膝の上の俺を”撫でている。
さて、朝の事件は結局どうなったかと言うと、端的に言うなら、影の魔剣である俺に体ができた。
どうやら、魔獣の卵に与える魔力として、俺が反応してしまい、俺の意思ごと飲み込まれたのだ。結果として、元の魔獣としての卵に、俺と言う“意思を持った魔力”が入り込むと言うイレギュラーな事態は、俺と言う魔力の塊が体を持つことになった。
正直な所、どうしてこうなったのか、俺は分かっていない。ただ、理由がどうであれ事実は変わらない。なので、事実は事実として受け止めて、これからの身の振り方を考える必要が出てきた。
俺は、魔獣という事を伏せず、ルナの従魔と言う形になった。魔獣は、珍しいと言っても富裕層の子供にペット感覚で与えられることも多い。何故なら、魔獣は人間に対して恭順であり、言葉を理解する程の知能があるからだ。なので、子どもの寂しさを紛らわす一助として与えているのだと言う。
富裕層の子供って小さいころから、付き合う人間が厳選されているイメージがあるからな…。実際この世界の富裕層の子供はそうらしい。
また、魔獣は大きくなると彼らのボディガードになる。そんな理由で、富裕層の子供は魔獣を飼っている事が多い。実際、Aクラスの半分とBクラスの1/4、Cクラスには一人ぐらいは魔獣を持っているようだ。
つまりは、魔獣を持っているからと言って目立つ訳では無いということだ。そんな訳で、俺はルナと共に宿を出て、学園まで来たわけだが、ここで問題が出た。当たり前だが、魔獣とは言え先日まで存在してなかったモノが急に現れた事も含め、魔獣が元を辿れば人に害を為す魔物であることから、間違えて殺されてしまう等の対策にもなるので、魔獣登録なるものをすることが必要になる。
魔獣登録とは、ハーメルン独自の政策らしい。まぁ、独自と言ってもこの政策を真似て、各国の街々でも施行されているから、最早独自って訳では無いらしいが…。
そんな訳で、学芸館と呼ばれるこの街の市役所のような場所に行って、手続きをしようと思ったのだが、そこはお役所仕事。年中無休、二十四時間で開業しているわけでもない。つまり、授業が始まる前は、まだ開いていない。
結果として、俺とルナは放課後に学芸館に行くことになったが、それまでは俺は魔獣登録されてない状態だ。魔獣登録されてない魔獣が一人…、一匹で出歩くのは誘拐や殺害とかの危険が高まるらしいので、学校側と相談と言うか、事務室的な場所で申請を出したら今日一杯は、常にルナの傍に居ていいこととなった。
さらに、俺が産まれたばかりの魔獣という事で、特例的に魔獣登録後も一週間だけは、常に傍に居るように言われた。これは、産まれたばかりの魔獣に誰がマスターであるかを、正確に把握させる意味があるらしい。所謂すり込ってやつだ。
まぁ、俺には関係が無いが…。
さて、ここまで来て…、俺達はミスを犯してしまっている。特例が俺達に適用されたことではない。毎年“数人”は、俺達の様に身内から入学祝いとして魔獣を送られると言うケースは起こる為、別段“特例適用”自体には、目立つ要素は無い。
そう、それ自体では無く、それが毎年数人しか適用されてない事を、考えるべきであった。後で聞いた話では、その数人の“ほとんど”がCクラスの生徒だと言う。つまり、数人のほとんどが俺達のいるBクラスにいないのだ。
結果として、Bクラスでこの特例を利用し、適用されたのはルナだけという状況になったのだ。これは嫌でも目立つ。寧ろここで、俺の魔剣として能力を使えば、クラスメートを含めて猛烈な違和感が襲うことになる。それでは、後々にさらに目立つのは自明の理だ。
そして、もっと大きいミスは、魔獣となった俺が魔剣として能力が機能している事だけに気を取られていて、正確に魔獣となった自分の能力を把握できていなかったことだ。
それさえ、気を付けていれば…。
「見つけたぞ。」
傲慢の使徒の接近を許しはしなかったのに…。
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