他人の空似
お久しぶりの投稿です。
傲慢の守護者であるモーリスに一言物申した後、俺は学園の校門で待つルナの元へと戻った。
スーフェン第一騎士学校には、アッシュという勤勉の騎士が歩いて行ったように寮が存在する。ただ残念ながらここの寮は男子寮しか無い。
モーリスやルナ、それにルナのクラスメートであるライラといった具合に、女生徒は少数であるが存在するけれど、数が少な過ぎて寮の維持費が賄えないので、女生徒達は個人でハーメルン内の住宅の一部屋を借りることになっている。
ルナもその女生徒の一人なので、俺達はスーフェン第一騎士学校から歩くこと、数十分程の一室を借りている。
「おかえり。」
「ああ。」
彼女の影へと合流した俺をルナが珍しく声を出して迎えてくれた。
「いこ。」
「ああ。」
「なんかあった?」
ルナに問われて、心臓が止まるかと思った。まぁ、ないのだが…。
「ちょっとな。」
「分かった。戻ったら教えて?」
「え?」
普段のルナからは信じられない程、感情の込もった優しそうな声音で驚いた。驚いてルナの方へ目を向けると、彼女はいつも通りの無表情で学園の校門から、宿への帰路に着いていた。まぁ、目も無いのだけど…。
『ん?行くよ。』
『あ、ああ。』
聞き間違いだったのか?
△△△
所変わって、宿へと戻ってきた俺達は夕食を食べて、ゆっくりしていた。
「で?」
「でって、何が?」
「なんかあった。報告義務。」
そうだよな。これがルナの標準だよな…。やはり聞き間違いだったか。
「で?」
つい考え込んでしまって、無言になってしまった。
「いや、他人の空似ってやつだと思うが、前世の知り合いに似たやつを見かけたんだ。」
「知り合い?女?」
「あ、ああ。」
これが女の勘ってやつか…。
「だれ?」
無表情に、でもその声には不機嫌さが滲み出ていた。
「俺の好き、いや愛していた人だ。」
「えっ?」
ルナが、珍しく人形のように動かない表情を、驚愕に染めた。俺としても、それは驚きである。そこまで動揺するものだったか?
「俺が、高校一年の時に付き合いだした彼女がいるって話はしたよな?」
「うん。」
ルナがまた仮面を被る様に、無表情に戻し頷く。
「そう、その人だ。その人に似た人を見かけた。」
「シェイドを殺した人。」
「ああ。」
今の俺に心臓は無いが、彼女に似た女の子を見て心臓が止まる…、いやそうじゃない。心臓を掴まれたような感覚に襲われた。付き合い始めた俺は、愛した彼女の手で、その年のクリスマスに死んだ。うん、殺された。
清李がどうしてあんなこと、俺を殺したのかは分からない。それでも、俺は。
「今でも?」
「ん?」
「今でも、その人のこと好きなの?」
「…。」
そうなのだろう。刺されてもなお、俺は彼女の事を…。
「その女そんな似てるの?」
「え?あ、ああ。」
「そう。」
そして、考え込むようなそぶりを見せるルナ。
「いや、そんな気にするようなことじゃない。多分、他人の空似だ。」
「そう?」
ああ、そうだと思う。
だって、この世界に来て十六年程経ったが、俺は今でも彼女を、清李を忘れたことは無い。
ならば、いやだからこそ、俺には彼女は清李じゃないとすぐ分かった。
俺の前世で愛した女の子だ。見間違えるはずがない。彼女は別人だと、俺は思う。
「ああ、だから気にする必要なんてない。彼女は別人だ。」
「そう。」
そこで会話を打ち切り、ルナが風呂に入り、寝るまで俺達の間に会話は無かった。別段変に意識して、ギクシャクしているとかじゃなく、普段から俺とルナはそんな感じだ。会話は無いけれど、そこにちゃんと何か在って、俺達を繋いでいる、そんな感覚。
魔剣と守護者だからかもしれない。それでも、俺達の間には見えない何かを感じながらルナは、部屋に備え付けられたベッドに潜り込み、俺は窓から外へ、そして建物の上へと上り、星が輝く夜空を見上げる。
「俺がこの世界にいるなら、君もいるのか?」
そんな、独り言が漏れる。独り言は、明日への英気を養うための人々が寝てしまった、街灯も消えた真っ暗な学術都市ハーメルンに、風にさらわれながら消えて行った。どうかこの声が君の元へと届け…。
「月が綺麗だ。」
そんな言葉が漏れてしまった。人知れず、笑みが零れる。自虐に近いそんな苦笑い。
くだらない。届かないだろうけど、それでも…。
「俺は、まだ君が…。」
夜風が、言葉を掻き消し…、いや届けてくれ。
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窓際から眺める月は、ここでは見えないと思っていた故郷の月の様で、
「本当に、綺麗。」
そう言って、彼女は微笑む。今は、目の前にいない最愛の人を思い浮かべながら…。
今後も不定期で更新していきますが、最後までお付き合いをお願いいたします。
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