第十五話 帰りみち③
昼間よりか幾分と涼しくなった風が頬をなでる。
ふと目を上げると、果てしなく続く河川敷の向こうに、真っ赤に染まった夕日がのぞいている。
ぼぉっと立ち止まる私に、彼は振り返って微笑んだ。
「夕日、綺麗だね」
「……そうだね。私、夕日って好きなんだ」
ぽつりと唇の端から言葉が零れる。
まるで、心のドアをゆっくりゆっくり、解されていくような。
「あんなに綺麗なのに、ちょっぴりしか見られないとこにね、儚さを感じるの。
儚いから、そんな夕日をいつか大事な人と並んで見れたらな……って」
なんだかポエミーでごめんね、と私が笑うと、彼はいたって真剣な顔で頭を振った。
「謝ることじゃないよ。そういうの、素敵だと思う」
不意に見せる、大人の様な横顔。
言葉の端々からも、どこか高校生離れした雰囲気を感じる。
クラスの男子たちとはまた違う、どこか未熟でありながらも大人びた言動。
普段輪の中心にいる彼だからこそ、そことのギャップがまた心を掴む。
あぁ、ずるいなぁ。私ばっかり好きになってく。
とくんと生暖かく動く心臓を恨めしく思いながら、私はゆっくり口を開いた。
「慶斗君ってなんか大人っぽいよね、羨ましい」
「え、そうかな? 俺なんてまだ全然子供だし……」
「うん。慶斗君の大人っぽいとこ、私好きだよ」
言ってから、少し後悔。
恥ずかしくなって目を逸らすと、彼はありがと、と笑った。
顔は見えないけれど、きっと笑ってる。彼の声音がそう言っているんだ。
……段々話すこともなくなってきて、また私たちに静寂が訪れる。
右斜め前をトボトボと歩く彼を横目でチラチラと見るけど、臆病な私には何も言えなくって。
結局終始無言のまま彼の後をヨタヨタついていく。
ザッ、ザッとローファーが砂を蹴る音に耳を澄ませていると、
どこからか賑やかな子供たちの声が聞こえてきた。
「あ…ラムネだ」
カランと軽快な音を立てるラムネ瓶。
それをたくさん乗っけたカートに、小学生らしき子供たちが群がっていた。
「あれ、炭酸飲めたっけ」
「ラムネだけは昔から飲めるんだ。それ以外は飲めないんだけど」
「そうなんだ、じゃあ買っていこうか」
そう言って屋台に向かって声をかける彼。
私もその後をついていくと、彼は徐に二人分の代金を取り出した。
「け、慶斗君! ストップ、今回は割り勘にしよう!」
負けじと私がお金を取り出すと、彼は困ったように笑ってからお金を戻した。
「ラムネ、二本下さい」
手渡されたラムネを握ってみると、それは幼い頃触ったものとは少し違っていて。
プラスチック製の容器に少し失望するけれど、その冷気は間違いなく心地良い。
指先からひんやり冷えていく感覚に、私はすこし懐かしさを覚えた。
「今どきはプラスチックなんだね。俺らが小学生の時はまだ瓶だったよね」
「なんだか時代の流れを感じるね……。まぁ、仕方ないのかもしんないけど」
ぐびっとラムネを流し込むと、あの独特の甘さが喉の奥ではじける。
その感覚に酔いしれながら、私は大きく息を吸い込んだ。
「あー! やっぱ美味しいね」
へへと私が笑うと、彼も美味い、と笑みを零す。
ラムネを一気に飲み干した彼を見て、私はまた大きく笑った。
ふと瓶をのぞき込むと中でふわりと浮かぶビー玉に、いくつものオレンジの線が入っていて。
瓶ごと夕日へかざしてみると、まるで瓶が輝いているように見えた。
うっとりとそれを見つめる私に気づいて、彼もこちらを覗き込む。
口を開こうと彼へ向くと、思ったよりも近い位置に彼の白い肌があって。
ドキリと鳴る心臓、カラリと鳴るラムネ瓶。
二つの音色が、重なった。




