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BON~粒ぞろいたちの無気力あどべんちゃあ~  作者: 箒星 影
五度寝 不思議な転校生
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第九十六睡 三人組

「オマエラ……ナゼ、ワタシノ、センノウガ……!」


「簡単ナ話ダ! テメエノ洗脳ナンカ、コノオレサマガ容易ク跳ネ返シチマウカラダヨ!」


「キサマ、タダノ、ニンゲンデハ、ナカッタトイウノカ!」


「ハッ……ダカラ最初ノ紹介デモ言ッタダロ! オレサマハ総理大臣ニナル、偉大ナ男ダッテヨ!」

 

 す、凄く読み取りにくい言葉のキャッチボール……。


「人形頭さん、いったいどうやってあの触手を……?」


 とりあえずフェンスの上に乗って当然のようにバランスを取っている人形頭さんを、普通の人間と定義付けることなんか不可能であるということはよぉく分かりました。

 色々と聞きたいことはありますが、とりあえず一番気になっている質問を、わたしは頭上にいる人形頭さんに投げ掛けたのです。


「教エテヤルヨ! 冬里ハタダノ人間ダ! テメエラト、何ニモ変ワラネエ! 冬里一人ナラ……ナ」


「それって……」


「ソウ、冬里ハオレサマ装着スルコトニヨッテ、絶大ナ戦闘力ヲ手ニ入レルコトガ可能ニナル! 攻撃力、防御力、ソシテコノヨウニ、身体能力スラモ!」


 なるほど……最初から並々ならぬ理由のもとにピッタくんを付けているんだとは思っていましたが、まさかの設定を背負っていたんですね。人形を身に付けて強くなる、なんて、聞いたこと……


「そ、そういや聞いたことがある! 先祖代々、人形の加護を受けており、ひとたび人形を装備すると、絶大な戦闘力を有することが出来る、人形の名門……人形頭家! 噂にゃ聞いたことがあったが、まさか実在したとは……」


「人形の名門って何ですか。ていうかそんな都市伝説みたいな存在だったんですか人形頭さん!?」


 鈴木さんの解説も人形頭さんの素性も突っ込みどころ満載ですが、今はそんなことをしている場合ではありません。


「人形頭さん!」


「ワーッテル。オレサマガ一瞬デ終ワラセテヤル! 見トケヨ愚民ドモ!!」


 人形頭さんはフェンスから高く高く飛び上がると、俊敏な動きで化け物の方へと詰め寄り、ピッタくんを振りかぶりました。



「デリャアアアアア!!!」



 人形頭さんの渾身のアッパーが炸裂。会心の一撃。化け物は遥か彼方へと吹っ飛ばされ、校舎に激突しました。


「ソ、ソンナ……マサ……」


 化け物は音もなく消えていきました。



「凄い……瞬殺……!」


「お、おい見ろ十諸! 洗脳されていた奴等が……!」


 空中での人形頭さんの戦いに見とれていたわたしは、鈴木さんの言葉で前方に注意を向けました。


「皆さん、元に……!」


 キョトンとした様子でお互いの顔を見合う生徒の皆さんを見ていると、嬉しくて涙が出そうでした。おかしくなっていた人たちは、皆みんな、元通りになりました。



 しかしわたしの心は、すぐに曇ることになったのです。



 元通りになったのは“洗脳されておかしくなっていた”人たちだけ。


 遠くに見える、西さんと牧野山さんの無惨な姿は、何も変わっていませんでした。


 そうだ……二人が死んでしまったという事実は……もう、覆せないんだ。



「杏菜さあああん!」


「ぶっ……無事ですか!? 心配したですよ!!」


 平時にも増して危機感のない男性の声と、平時にも増して取り乱した女の子の声。わたしがずっと待ち続けていた人たちの声。


「いやあ、どうもッス! 魔物の気配がしたから学校に来てみれば、厚い結界が張られてたんで、こりゃさすがにヤバいな、とか思ったんスけど、無事で良かっ……って、何でそんな悲しそうな顔を……」



「ヤヨさん、ルイネさん……わたし……わたし、大変なことを……!!」


 わたしはヤヨさんに泣きつきました。


 胸が痛くて、苦しくて。泣いて泣いて、この気持ちが涙と共に流れ去ってくれたなら、どれだけ気が楽だったことでしょうか。


 生徒の皆さんの絶叫が聞こえました。西さんと権野山さんの死体が見付かったのです。グラウンドは混乱に包まれました。


 その瞬間、しばらく、自分の情けない嗚咽以外の全ての音がシャットアウトされました。あの時、わたしが体育倉庫に逃げなければ……。


「ねえ十諸さん、何があったの?」


「な、何で、西と権野山が死んでんだよ? おい十諸! お前なにか知ってんだろ!?」


 そこから同一の疑問を抱いた皆さんが、わたしの元に近付いてくるまでに、そう時間は掛かりませんでした。「何で死んでるんだ?」「何で殺したんだ?」……今のわたしにとって、この二人の質問に、そう差はありませんでした。


 まるで自分が責められているような感覚。ワラワラと寄ってきて、わたしを責める生徒たち。魔物は消えて、皆が元に戻ったはずなのに、状況はさっきと一緒……むしろ、それ以上の苦しみ。息が止まりそうで、いや、もういっそのこと、止めてしまいたくて。


 もう……どうにでもなればいい。そう思った時でした。



「てめえら……教室戻れ」



 近くにいた鈴木さんが、タバコを口にくわえ、火を点けながら言いました。



「でもよ、鈴木さん。この状況は―――」



「戻れって言ってんだ!!」




鈴木さんは言葉を止めない男子生徒の胸ぐらを、 思いきり掴み上げました。


「十諸は何もしちゃいねぇし、この事とは何も関係がねぇ。だから、お前ら全員、もう戻れ」


 皆さんは鈴木さんの気迫に圧され、ゾロゾロと帰っていきました。


「いやあ、アナタ、凄いッスね! まさか先生まで迫力で言うこと聞かせて帰らせるなんて! 恐れ入りましたッス!」


 ヤヨさんが大袈裟に拍手しながら鈴木さんに近寄りました。


「当たりめえだ。俺は……いや、俺たちは……泣く子も黙る、不良三人組だからな」


 西さんと権野山さんを見ながら鈴木さんが吐き出した煙が、ゆっくりと天に昇っていきました。



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