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BON~粒ぞろいたちの無気力あどべんちゃあ~  作者: 箒星 影
五度寝 不思議な転校生
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第九十四睡 ワタシノセイ

「随分と酷い呼ばれ方、されたもんだなぁ? 俺たちが不良三人組ってか?」


 体育倉庫の奥に座った三人組を、わたしは軽蔑した目で見ていました。


「あなたたち……こんなところで何をしていらっしゃるんですか……?」


「見たら分かるでヤンしょ! 授業が面倒だから、ここでサボってるんでヤンス! あっ……鈴木さん、それ、ロンでヤンス!」


 麻雀……人が生死の境を必死こいてさ迷ってた時に、ここで麻雀をやっていた……と?


 今喋った“ヤンス”口調の人は西(にし)さん。三人組の中では最も権力は低いようです。ハダカデネズミのような立派な前歯と茶色いリーゼントを備え付けた一昔前のヤンキーを彷彿とさせる容貌で、クラスの皆からは“下っぱ出っ歯”と呼ばれています。


「ぬおお……西は強いでごわすな! そんじゃ、勝ったご褒美においどんの朝食後編を買ってくるでごわす!」


 そしてこの小さな体育倉庫で見ると一際その巨漢が目立つ権野山(ごんのやま)さん。三人組の中では二番目の権力者。食に生きる男で、一日に朝食前編、朝食後編、昼食前編、昼食後編、夕食前編、夕食後編、夜食前編、夜食後編、夜食アンコールの九食を食べなければ気が済まないようです。今も麻雀勝者の西くんに何故か朝食後編を買いに行かせようとしています。入学したての頃に“稽古をせずにちゃんこだけを食べる相撲部”を確立しようと企てるも無事失敗。その武勇伝が恐れられ、皆からは“デブの鑑”と呼ばれています。


「チッ、また最下位かよ……んで、おめえは何をそんなに焦ってたんだ、十諸?」


 そして三人組の親玉、鈴木(すずき)さん。口調は悪いですが、外見的にも性格的にも特に目立った特徴はなく、なぜ親玉なのかと議論されています。道に捨てられている犬猫に餌をあげては自らが着ている服を被せてあげているという目撃証言が相次いでいます。そんな彼を皆は“鈴木さん”と呼んで慕っています。


「何をって……そうです!呑気に麻雀なんかやってる場合じゃないんですよ! 中原先生が危険なんです! 早く逃げないと……!」


「中原ぁ? 誰でヤンスか、それ?」


「旨いでごわすか?」


 この三人……そうか、授業中もずっとここにいたから、中原先生の洗脳を受けていないんだ……! 「旨いでごわすか」て。


「皆、その中原先生の仕業でおかしくなっちゃったんです! ここは危険だから早く……」



 カチャリ、という乾いた金属音が、わたしの耳を突き抜けました。



 わたしたち四人は同時に、施錠されたはずの扉を見ました。


「誰、だよ……おいっ!! 返事しろ!!」


「駄目です! 早く入り口を塞いで……!!」


 言い出すのと、行動が伴うのが、少し遅かったようです。重い鉄の扉がキイキイと音を出して、外の景色を映し出していきました。



「あらあら……まだ先生の支配を受けていない生徒がこんなに……いけない子たちですね……こんな鍵、開けちゃいますよ……だって先生は、センセイナンダカラ」


 そこにいたのは中原先生でした。右手に鍵の束を持ち、二度と見たくなかったあの狂気じみた笑顔を、わたしたちに向けていました。


「十諸さんと、そして……あなたたち三人は、ここで何を? まさか、教室の三つの空席は、アナタタチのモノ、ナンデスカ?」



「ちっ……近寄るなでごわす!!」


 権野山さんは先生に、麻雀の台を思い切り投げ付けました。先生は身動きひとつせずに、それを払いのけました。背中から生えた……真っ赤な触手で。


 次の瞬間、先生の背中から何十本もの触手がボコボコと現れました。そのうちの何本かが、権野山さんのガタイのいい体に絡み付きました。


「ぐっ……離せてごわす!! はな――――」



 次の瞬間、権野山さんの巨大な体から、赤黒い液体が噴水のように噴き出しました。



「ジュギョウサボル、センセイニボウリョク、ユルサナイ」


 先生は拘束を解きました。権野山さんは地面にダランと転がりました。全身の骨をバキバキに折られ、首が信じられない方に曲がっていました。その虚ろな目は、わたしの方を向いて涙を流していました。



「うそ……権野山……さん……」



「う、うわああああ!! 死にたく、死にたくないでヤンス!!」


 西さんが先生の横を通って走り去っていきました。


 西さんの方を見て、わたしたちに触手だらけの背中を向けた先生は……いえ、それはもう、先生と呼んでいいモノではありませんでした。


「ニゲルノ、ユルサナイ。ユルサナイ。ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイイイイイイイアアアアアア!!!」


 それはブルブルと細かく震えだし、耳が壊れそうな叫びをあげました。中原先生“だったもの”はドロドロと溶けていき、かわりに現れたのは……巨大な羽虫のような化け物でした。


 見ているだけで吐き気を催す不気味な配色。背中から生えた無数の触手はそのままに、その大きな両目はギョロリギョロリと蠢き、西さんに焦点を定めました。


 蛾のような茶色い斑模様の羽を動かし、それは遠くを走る西さんを物凄い早さで追いかけていきました。



「何だよ、ありゃ……何が起こってんだよ!! 西、逃げろ!!」


「ひっ……嫌だ! 死にたくないでヤンス!! とっ……十諸さんのせいでヤンス! 十諸さんがここまで逃げてきたから悪いんでヤンス!! 責任を取れでヤンス!! 助けて!! 助け……デッ」


 西さんはそれに呆気なく追い付かれ、全身を串刺しにされました。


 遠く離れた場所に転がっている西さんの無惨な姿を見て、わたしは彼の言葉を繰り返していました。



わたしの……せい……?


そう、だ、わたしが、ここ、に、来なければ……。


じゃあ、二人を殺したのは……わたし。







そうだ……わたし、なんだ。






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