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第八十八睡 陽キャの距離の詰め方ハンパない

「う、うむ……無事に魔物を……討伐……ふええ……降ろしてなのじゃあああ……」


 疲れに足を必死に動かしてなんとか城に辿り着いた俺とタラ子、そしてポラリスさんの三人を、パンツ一丁で足を縛られ、天井に逆さ吊りにさせられている状態で迎え入れてくれたユウカク王。……と殺気が隠しきれていない満面の笑みを浮かべるマリアさん。またかよ。国の危機だってのに何で遊郭行ってんだこの王。性欲カンストしてんのか。


「ギロチン、ハリファックス断頭台、電気椅子、ファラリスの雄牛、苦悩の梨、鉄の処女、ユダのゆりかご……」


 怖い怖い。よく耳を傾けたらマリアさん笑顔でずっと拷問器具の名前唱えてる怖い怖い怖い。


「十諸さん、アイリを始めとする皆様、この度はこちらの腐敗物がだらしないことをしていた中、よくぞ強力な魔物を討ち取ってくださいました! この残りカスに代わりまして、厚く御礼を申し上げますわ!」


「びぇぇぇ……ワシもありがとうって言いたいのじゃああ……」


 怖いって。ゴバーネイダーよりマリアさんの方が怖いって。


「しかしながら、今回の一件でレシミラ王国が被った損害は、決して小さなものではありませんわ。王都の三分の二ほどが魔物によって破壊されたとの報告も入っておりますわ」


 そんなにもか。出現後、すぐに向かったはずなんだが……まあ、戦闘でも結構派手に暴れてたもんな、あの鬼。


「さしあたって、直ちにこの国の復興作業に移らなくてはならないのですが……もちろん、十諸さんとアイリのお二人は魔王討伐に向かう立場。強力な魔物の出現も増えている中、そのような悠長なことをしている場合では……」


「いいえ、お母さん。魔王討伐に行くのはあたし達だけではありません。こちらのポラリスさんも同行していただきます」


「はああっ!? ちょ、待ってくださいや、アイリお嬢様! 何でウチが……」


 突拍子もないタラ子の発言に身を乗り出すポラリスさん。


「何か問題でも?」


「いや、何かって……ウチは一人がええって言うてますやん! 仲間なんて……」


「ポラリスさん、あんた……何にビビってんすか?」


「え……?」


 別にポラリスさんを追い詰めたいわけでも挑発したいわけでもない。ただ純粋に、気になったから質問しただけだ。


「どうも俺には、あんたは孤独を愛するっていうより、孤独に逃げてるように見えるんすけど」


「そ……そんなこと!」


「ありますよ。俺にはよく分かります。俺もあんたと同じなんで。過去に自分がしたことに対してとんでもない後悔を抱えて、同じ過ちを繰り返さないようにって、ただそれだけに気持ちが行っちまってる。あんたが仲間を作りたくない理由も、そこにあるんじゃないすかね?」


 唇を噛みしめるポラリスさん。


「アンタに……アンタに何が分かるっちゅうんや!? ウチは……誰にも心は開かへんって決めたんや!!」


「へえ、あくまで自分を偽り続ける……と。それにしちゃあんた、ずぅぅぅぅぅぅっと、関西弁ですけど」


「あっ……いえ、わた、私は……」


「いつから関西弁でしたっけ? 確か、俺が“身を挺してあんたの命を救った”時から……ですよね?」


 慌てふためく相手に、俺はたたみかける。ポラリスさんはやがて、口角だけを上げた優しい笑顔で俺を見た。


「気に入った。アンタ……ホンマいい性格しとんな」


「よく言われます」


「やかましいわ、アホ」


 ポラリスさんは、ユウカク王とマリアさんの方を向いて片膝をついた。


「ユスティニア王、マリア王妃。魔王討伐の任、微力ながらこの私も負わせていただいて宜しいでしょうか?」


「まあ! あの“漾瑩姫”にお力添え戴けるなんて光栄ですわ! ポラリスさんが宜しいのでしたら、ぜひともお願い致しますわ! ほら生き恥! せっかくポラリスさんにご協力戴けるんですのよ!? 泣いてないでなんとか言ってみたらどうですの!?」


「よ……よろしくおねぎゃいしましゅ……」


 ポラリスさんは二人に一礼をした後、俺に体を向ける。


「そういうこっちゃ。ウチはアンタについていくことにするわ。なんやよう分からんけどな、アンタやったら、何とかしてまうんやないか……とか、考えてもうてな。少なくとも、アンタに救われたこの命の分はしっかり清算さしてもらうから、宜しゅうな! 改めてうちの名前を言うとくわ……ポーラ=ポラリスや! 好きに呼んでくれてええで!」


 ポラリスさん……ポーラ=ポラリスさんは、真っ白な手を差し出して、真っ白な歯を見せて、ニコリと笑った。ああ、やっぱ……そっちの方がいいじゃん。


「俺の名前は十諸 輿ノ助。宜しくっす……あ」


 しまった。こんなナチュラルに自己紹介しちまった。俺は睨むようにポラリスさんを見ると、ポラリスさんはキョトンとした顔で、


「ん……どしたん、輿ノ助? そんなに怖い顔して……」


 絶句した。俺、今、名前を言ったよな? 現にこうしてポラリスさんは俺の名前を……。


「何で笑わないんすか? ほら、トウモロコシっすよ?」


「何で笑うんよ? 人様の名前を笑うやなんて失礼なこと、絶対にしたらアカンやろ? それとも、そんなことする無礼者がいるん?」


 タラ子とマリアさんが同時に咳払いした。多分ここにクトゥルフ姉妹とブッキーがいたら、無礼者があと三人、追加されてただろうけどな。


「あんたいい奴っすね、ポラリスさん」


「当たり前やろ! あと、さん付けと敬語はやめてんか! 今日から仲間やねんから!」


 途端に凄いフレンドリーに。さん付けがダメなら、またアダ名でいくしかないな。ポーラ=ポラリスか……。


「じゃあ……ポラポラでいいか?」


「ポラポラ……うん、メッチャええやん! こういうの初めてやから、ちょっと恥ずかしいけど……可愛いし、それでいこか!」



「勝手に話を進めておられますが、一応あたしもご一緒するんですがね」


 タラ子が爪をいじりながら俺たちに近寄る。


「あっ……アイリお嬢様、申し訳ありません!」


「いえいえ。そしてあなたもお嬢様付けと敬語はナシです。アイリでどうぞ。あたしは基本的に誰にでも敬語なんで、ポラポラさんで行きますが」


「……分かった! 宜しくな、アイリ!」


「ええ、ポラポラさん」


 なんとも対照的な二人だけど、なんとか上手くやっていけそうだな。ポラポラ、ツッコミ上手いし。


「うふふ、いいですわね! 早くも絆が見えますわ! 貴方たちなら、きっと……。出発はいつになさいますの?」


「……こちらの勇者さんも充分に経験値は溜めました。メダイオ三匹と戦って生き延びれたら上出来でしょう。明日にでも出発しようと思います」


 明日……えらく急だな。だがまあ、魔王に出くわしちまった以上、あっちもそう長くは待ってくれないだろう。ミュガナッチェとかいう厄介者もいるし。他の四天王も生易しいもんじゃないはずだ。


「ウチは構わんで! 輿ノ助は?」


 そういや名前を呼び捨てにされんの、すげぇ久し振りだな。


「俺も別にいいよ。ホントはこの設備が整った場所で悠々自適に暮らしてたかったんだが……そんなこと言ってる暇はないわな。ちゃんとした宿があれば、それで」


「一応、軍資金は出来る限り至急いたしますが、そこは長く厳しい旅路。どれほど持つか分かりませんわ」


「まっ、そんな上手くはいかねぇだろうな。くれぐれも贅沢しないよう、心掛けないとダメっぽいね」


「モンスターを倒せば武器やお金が手に入るけど、それもたかが知れとるからな。何にせよ厳しい冒険になりそうや」



「くれぐれも御武運をお祈りしますわ。それでは、明日に備えて今日は早めにお休みになってくださいな! ここから別の目的地に行くには、明朝には出発しなければなりませんの!」


 そんな孤立してんのかこの国。まあ確かに見渡す限り山だらけだったけど。


「んじゃ、お言葉に甘えて、眠れるうちにグッスリ寝溜めしときますかね。ほんじゃ、また明日。あとマリアさん、ユウカク王が頭に血ぃのぼりすぎて白目剥いてるんで、早く降ろしてあげてください」


「え……きゃああっ!! あなたああああ!!!」


 何だかんだ言って心配はするんだな。さっきからずっと視界の端に映り込んでたから、もっと早くに言えばよかったんだが……言うタイミングがなかったもんで。


 さてと、実質的に最後の安眠だ。目覚めたくないなぁ。寝始めた瞬間から一秒が百時間くらいになればいいのに。



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