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第八十六睡 “改”を入れるとどんな名前もちょっと格好よく聞こえるけどダサい

「それにしてもデカいね、君! いったい何を食べたらそこまで成長できるのか、ぜひとも教えてほしいものだ!」


 その場にいる全員が、今この場で起こっていることに対して頭に“?”を浮かべていることだろう。もちろん俺も。


「ブッキー、あんた……何で来たんだよ……?」

 

 そんな皆の気持ちを代弁して、俺が切り出した。


「おや佐藤くん、君もいたのかい! 何故って、こんなに近所でドンパチと騒がしくされたら、気になって見に来てしまうに決まっているだろう! 好奇心は研究者の最大の活動源なんだよ?」

 

 呆れてしばらく物も言えなかった。


「あのな、じゃじゃ馬が増えても意味がないんだよ。何か役に立つ武器やアイテムを持っているわけでもなさそうだし……」


「はっはっはっ! 佐藤くん、君の目は節穴かい? これを見たまえ! 私が徹夜で作り上げた自信作たちだ! 何かの役に立つと思ってね!」


 嬉々として、おもむろに持ってきた服を広げていくブッキー。昭和のギャグマンガだったらズッコケるシーンだぞこれ。


この人もしかして、正真正銘のアホなのか?


「お前もしカシて、正真正銘のアホなノかァァァァ?」


 魔物とツッコミ被っちまった。


「ふふん、これを見てもまだ私のことをアホだと言えるかな? このラインナップを見るがいいさ! 佐藤くんのニーズにしっかりお応えして、女性ポリスに女性サンタ、女性用の浴衣にチャイナ服、スチュワーデス! どうだい!」


 アホじゃねぇか。そもそも佐藤くんのニーズにお応えできてないよそれ。何故なら佐藤くんがニーズしてたのは男性服だったからね。


 ってそうじゃなくて、ここで新作を一挙公開って、どんだけ危機感がないんだこの人。そんなんしてると魔物にもナメられるぞ。


「ソんだケの量、ヨく一晩で作レたナァァァァ」


 褒めてんじゃねぇよ。いい奴か。


「それだけじゃないよ! バラエティに富んだコスチュームだってたくさん用意してる! 全身タイツにゴムスーツ、ミイラ風の包帯、オオカミ男や雪だるま、ヴォルヴェドゥンドゥルスーツ改……どうだ、参ったか!!」


 授業参観で息子が大恥かいた時の親みたいな気分なんだけど。てかマジで一晩でどんだけ頑張ってるんだ。まさか全部俺に試着させるつもりだったのか? 地獄だぞ。女性用の衣装はもちろん嫌だし、お化け系コスプレも恥ずかしいし、ヴォルヴェドゥンドゥルスーツ改も奇抜すぎて………ヴォルヴェドゥンドゥルスーツ改!?


 そうなると全身タイツやゴムスーツが一番マシに思える。まあ、マシってだけで何の役にも……。


 ん、待てよ。案外使えるかも……?



「ちょっとアンタ、ええ加減にしいな!! 出てきてボケしかしてへんやん! 拾いきれへんっちゅうねん! お披露目会なら他所でやってんか!!」


 ブッキーに口では厳しく言うものの、大して怒ってる様子ではないポラリスさん。さすが関西弁の使い手でありギャグ好き。ボケまくる相手はどうしても嫌いになれないようだ。


「なあ、ポラリスさん……俺の作戦を素直に聞いて生き延びるか、このまま黙ってアイツに潰されて俺と共に合挽きミンチになるか、どっちがいいかね?」


「……どっちも“漾瑩姫”の名に泥を塗りたくる、酷い選択肢やな。ええ作戦、思い付いたんか?」


「一応。ただ、これが失敗すりゃあ、間違いなくミンチENDになることは確かっすね」


「一か八かの大博打か……おもろそうやんけ、乗ったるわ」


 俺とポラリスさんはゆっくり立ち上がった。



「ヒーナちゃん、しっかり!!」


「ちくしょう……油断した……!」


 妹であるヒーナに肩を貸し、心配そうに声を掛け続けるミーナが、こちらに歩いてきた。ヒーナは先程の攻撃で負傷したらしく、痛みに顔がやや歪んでいる。


「よし、役者が揃ったな。まずはヒーナ、辛そうなところ悪いが、しばらく時間を稼いでくれるか? 奴さん、長いこと作戦会議を許してくれるほど、優しくはないだろうからな」


 指名されたヒーナは、試すような目で俺を見た。


「……絶対勝てるんだろうな?」


「神のみぞ知る」


「なんだよそれ。チッ、わーったよ。一応、テメエにゃ借りがあっからよ……従ってやる。弓の本数も少ねえんだから、チンタラすんじゃねぇぞ!! おらデケェの! テメエの相手はあーしだぁっ!!」


 ヒーナはミーナからそっと離れ、鬼に真っ正面から向かっていった。


「さて、そんじゃ急ぎますかね。ブッキー、そのゴムスーツ、持ってきてくれるか?」


「あ、ああ……でもどうするんだい? これで一体何を……」


 ブッキーが真っ黒なゴムスーツを運んできた。


「まあ待て。これをミーナに着てもらうんだ」


「うぇ……ミ、ミーナが着るんですか? 嫌ですよ、こんな得体も知れないダサい服! ゴムでできたスーツなんて何の意味が……」


 まっ、そりゃそうでしょうな。


「早くしねぇとヒーナが死んじゃうぞ?」


「で、でも……」


「それに、もしこれを着てあの怪物を倒せたら、お前の株が急上昇して出番も増えるやもしれ」


「やります」


 ゲンキン。お前、ヒーナどうこうの時は渋ったくせに。



 ミーナは躊躇いなくゴムスーツを身に付けた。黒光りした全身タイツのような形状。こりゃ確かに相当ダサいな。ブッキーは何を思ってこんなもの作ったんだ?


「着終わったか? じゃあ早速いこうかな。タラ子……おいタラ子」


「ん……あ、おはようございます。ご用件は何でしょうか?」


 俺の呼び掛けで目覚めたタラ子。トロンとした目で俺を見た。


「お前よぉ……さっきはあまりにも自然すぎて流しちまったけど、何で寝てんの?」


「眠いからに決まってるじゃないですか(嘲笑)」


「(嘲笑)じゃねぇ。お前さ、いったいぜんたい、どういう神経してんだよ? 戦闘中だよ今?」


「“戦闘”中に“先頭”を切って眠っていただけです。ドヤッ」


「はいはい面白い面白い。んで質問だけど、お前って人間の体に電気をまとわせたりとか、できちゃったりするわけ? 自分だけじゃなくて、他の人にも……とか」


「む……タイミングさえ良ければ不可能ではありませんが……それが?」


 渾身のダジャレを流されたタラ子は、少し不機嫌そうに問う。


「んじゃさ、頼みがあるんだけど……ポラリスさんもちょっと来てくれます?」


「ん……ああ、別にええけど……?」


 俺はタラ子とポラリスさんに耳打ちを始める。タラ子は少しだけ考えて、首を縦に振った。


「なるほど、それは大いにアリですね」


「だろ? やっぱりお前、いい性格してるわ」


「いやいやいや、そらアカンやろ! そないな危険なこと、あんな小さい女の子にさせるやなんて……下手すりゃ死んでまうで!?」


 案の定、俺の作戦は、賛成派のタラ子と反対派のポラリスさんに分かれた。


「だーいじょうぶだいじょうぶ。ミーナは強い子だから。んじゃ、手はず通り頼むな、二人とも」


「え? ええ?」


 自分の名が呼ばれた部分だけが聞き取れたのだろう、ミーナはこの上なく不安そうな顔で俺たち三人を見た。


 悪く思うな、うら若き小娘よ。勝利のためには致し方ないのだ。



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