第六十八睡 姫様からのお・ね・が・い
広い机にタラ子と俺は隣同士で座り、ブス姫はその向かい側に座った。ルシュアさんは席にはつかず、再び例の長い棒で、静かにブス姫の顔を隠した。これは助かる、話に集中したいからな。俺タラ子はルシュアさんに着席を促したが、ふるふると首を振って、話を進めるように目配せした。
「さてと、仕切り直しですね。今回はブス姫のお顔で魔王をショック死させるという作戦の会議をしにお越しいただいたというわけで……」
「仕切り直す気ないじゃない!! まだまだバカにしていく構えじゃない!! アンタ、マジでいい加減にしなさいよ! そもそもアンタ、本当に王様の娘なの? そんな異様な格好して……」
ブス姫がタラ子のセーラー服を舐めるように見つめる。そりゃそうだわな。この時代の服装じゃないもん。違和感が物凄いだろうさ。
「違うわよ、そうじゃなくて、情報交換が主な目的よ! そこから魔王を倒すいい作戦が考え出せればいいと思って……」
「情報交換……ですか? 魔物のことについて?」
「何だっていいわ。出たんでしょ? この国でも、魔物」
「この国でもってことは……ハルス王国にも出たんすか?」
会話に横槍を入れるべきか迷ったが、俺は顔の隠れたブス姫様に質問した。
「ええ、最近になって急にね。アタクシのお父様とその優秀な部下たちによって、被害は最小限に収められたけどね。ね、ルシュア?」
「んだ。けんど、その後が問題だ。いきなり魔物っこさ出てきた影響で、民たちは混乱状態。自分の身ぃ護るために、食い物や武器の買い占め起こしたり、争いだって絶えねぇ。このまんまじゃ、ハルス王国はヤベエってんで、なんとか魔物共を黙らせてやろうってことだ」
はあ、そんなことになってるのか。レシミラは別に荒れてないように見えるけどな。
「そこでよ、アンタたちにアタクシたちのハルス王国を救うことを命じてあげるわ! 世界を救う勇者が国一つ守れないなんてお笑い草だからね! せいぜい活躍を楽しみにしているわ!! こんな大役、めったにこなせるものじゃないわよ! 感謝することね! おーほっほっほ!!」
ブス姫が立ち上がり、俺とタラ子をシャキーンと指差す。俺たちは打ち合わせでもしたかのように同時に溜め息をついた。
「なにを言ってるんですかね、あちらの世界の終わり系フェイスは」
「国の治安より先に自分の顔面を整えろって話だよな」
「いや全くその通りです。ただ顔が不細工なだけだったら、あたしもここまで腹立たないどころか同情の一つくらいはしてあげられるんですがね。いかんせん性格まで醜悪と来たもんですから、もう殺意しか残りませんよ」
「それな、ガチでそれな。今でこそルシュアさんに顔隠してもらってるけど、あれ以上見たらヤバかったもん。この人のせいで治安が悪いだけじゃねぇの? 民たちも我慢の限界だったんだよ」
「ですね。あたしが市民だったら革命の一つや二つは起こしてますよ」
「筒抜けなんだけど!! 耳打ちすんなら音量下げなさいよ!」
ブス姫さん、ずっと怒ってんな。カルシウム足りてないんじゃないのか?
「とにかく、どっちを選ぶかハッキリしなさい! アタクシのためにハルス王国を救うか、救わないか!」
「はあ……分かりましたよ。やればいいんでしょ、やれば」
「まあ、そこまで頼まれたら、仕方ないな」
ブス姫が嬉しそうに両手を合わせた。どんな顔してるんだろう。想像したくないな。
「おーほっほっほっほ! ようやくその気になったようね! では、また数日後に来てあげるわ! 用意、しておきなさいね! 行くわよ、ルシュア!」
ブス姫はルシュアさんを連れて、上機嫌そうに鼻唄を歌いながら部屋を出ていった。
俺とタラ子は椅子から立ち上がった。再び大きな二つの溜め息。
「今あなたが考えてること、丸分かりですよ。一言一句たりとも違わずに言って差し上げましょうか?」
「マジ? 奇遇だな、俺もエスパーになっちまったみたいだ。よっしゃ、じゃあ一緒に言おうか。せーっの」
「「やるわけねぇだろ、面倒くせぇ」」




