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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第六章 新世代の争い
148/153

貴族の戦い

読んでくださり、ありがとうございます。

良ければいいね、ブックマークをよろしくお願いします。

ブレンデット侯爵が生み出した、土の蛇、もとい竜は、全部で6つ。6頭の蛇の頭が私を狙っていた。かつてアルハイゼンと戯れで戦った時と、似たような姿をしている。あの時は大理石が変形していたけれど、今回は単なる土くれ同然。少し動きを見せるだけで、緩い部分が崩れている。大地の記憶(アーステイル)の能力の詳細は、正直、見たまんまのことしかわからない。大地を操る力。力で作り出した像の強度とか、どんな特徴があるのかはわからない。わざわざ蛇や竜を模す必要があるのだろうか?

「行け、地竜よ!」

先ほども呼び出した時に口にしたあの言い方。あれが魔法を使った瞬間と考えていいだろう。6体の蛇の口の中が、赤く赫熱し始めた。そういうことか。

「古き神の零涙を以て、我が敵を討つ剣よ来たれ。氷雪の剣茎(フレーズベルグ)!」

氷の剣を生み出して、それを左手で直に握る。そしてそれを空へ向かって放り投げた。土の蛇の喉の奥から、塊となった炎が吐き出されていた。

「数多なる思い、満開となりて降りしきる雨とならん!剣雨召喚(ベルグ・メトリア)!」

詠唱を口にする時間もギリギリだった。やや早口になってしまったため、上空へ投げた剣は、小さくなってしまってから、無数の剣となって、吐き出された炎の塊に向かって降りしきった。

一本、二本、十本、百本と塊に短剣が突き刺さるたびに、威力は削がれ、火も弱まって言っているが、私の元への到達を阻害することはできなかった。しかし、十字剣で一薙ぎにできるくらいには、止めることが出来ていた。6発の塊を何とか捌き、今度は私が魔法を構える番だ。

「地を這う霊獣、渦巻きて得物を捕えん。凍てつく吐息(コキュートスフレア)!」

青の宝石に魔力を込めた手を地面に合わせると、地面を霜が走り、土の蛇に到達すると、それらは一瞬にして氷に閉じ込められた。

「ほぅ、さすが、魔法戦闘に関しては、こうも真価を発揮するとは。まったく、憎たらしい反逆者だ。」

浮島の上で高らかに上目使いで見てくる侯爵は、いかに面白くなさそうだった。こちらとしては、どうにか初見で対応しきれた、というギリギリの状態だったのに。

「あなたはどうやってその力を手に入れたのですか?」

「ふん、それを知ったところで、貴様らは何も止められはしない。この力は、選ばれた者のみが、手にすることが出来る王の力だ。」

何が王の力だ。確かに大地の記憶(アーステイル)はこの国では多くの意味合いを持つ象徴的な力だ。だが、いまやその力を持つ者は在り溢れ、それだけで一世を風靡することはできなくなったのだ。

真面目な話をすれば、侯爵は既に魔法特性の継承を行っていると見ていいだろう。アーステイル家、いや、アルハイゼンの血肉を得て、その力に適合?したのだろう。驚きなのは、ここまで忠実に再現できるほど、能力が覚醒しているということだ。私がジエトの血で行ったときは、ほんの少しだけしか発現できなかったのに。

「その王の力も大したことありませんね。今の一瞬で、一人の命も獲れないなんて。」

「強がりはやめておけ。私でも、貴様であれば、あの程度は息をするように対処すると踏んでいた。しかし、現実は息を切らすほど、消耗している。違うか?」

「ちっ・・・。」

痛いところを付かれてしまった。息切れしているという程ではないけど、確かに、今の攻防でかなり消耗したのは確かだ。消耗というより、まだこの体の感覚に私が追い付けていない。魔法に関しては特に。魔法触媒を使用しても、思ったように魔法が発動しないのだ。

「地竜よ!」

再び侯爵が大声を上げると、氷の塊はミシミシと亀裂を広げながら砕け、土の蛇は少しばかり小さくなって再登場した。このまま魔法合戦になれば、先に魔力が尽きたほうが負ける。だが、同じことを何度もするほど、お互い馬鹿ではない。

「次は加減しない。6体の地竜で精一杯だった貴様に、この力は止められない!追い詰めろ、地竜よ!」

私の足にも響きを感じるほど、地面が大きく揺れ動き、周囲を無数の蛇に囲われてしまった。数は20はいるだろうか。その大きな顎は、私に向けられている。先ほどと同じ魔法では、対処しきれないだろう。

「さぁ、おとなしくその心臓を差し出せ!」

「・・・ワガナハ〇〇〇〇。タイヨウノチカラヲサズカリシ、ゴウマンノゴンゲ。」

「・・・?何を言っている?」

侯爵からすれば、突然訳の分からない言葉を呟き始め、気が狂ったように見えるだろう。実際これは、詠唱ではない。いうなれば、単なる魔法発動の合図だ。そして、私の推測が間違っていなければ、これは、この世界で出来た魔法ではない。

私があの禁書から読み取ることが出来た、3つの内の最後の魔法。名前もない。ただただ、火を生み出す魔法だと記されていた。ただ、それだけの魔法だと。

しかし、実際に何が起こるかは、ちゃんと魔導書には書かれていた。その内容が本当なのであれば、間違いなく今の状況を打開できると思ったのだ。

堕ちたといはいえ、根は貴族。何らかの異変を感じ取ったのか、侯爵は土の蛇に攻撃を指示してこなかった。周囲を見渡し、辺りには何も変化は起きていない。目に見える変化は、何も起きていない。それでも侯爵の表情は、徐々に訝し気になっていった。

「何をした?」

「さすがですね。何かが起きたことに気づくなんて。でも、貴方はここで終わりよ。ブレンデット侯爵。」

私は、ただ一歩。彼に向かって地面を踏みしめた。すると、履いていたブーツから火花が散り、まるで埃が舞うかのように、地面から炎が吹きあがった。

「なっ!?」

次に、私は右手の十字剣を横に薙ぎ払うと、剣から、いや、剣を持つ腕からも火の手が上がり、燃え上がったのだ。次第に火は私の全身に燃え移り、空気が急激に温まられたことによって、周囲で激しいが風が起こりはじめた。

私の一挙手一投足に火が付いて回り、周囲に飛び散った炎は、さらにその火を伝染していく。石ころだろうが、枯葉だろうが、木々だろうが。全てのものを燃やしながら、大地を劫火へと変えていった。

土の蛇たちも、火に触れた途端、まるで本物の蛇のようにもがき苦しむように体をくねらせて、やがてその体を地面に倒していた。そして、そのまま無残に体を焼かれて、動かなくなった。

「くっ、よみがえれ地竜よ。立ち上がれ!」

侯爵が再び土の蛇を召喚しても、すぐに炎がついて回り、瞬く間に焼かれていく。

「行け、地竜よ!」

今度は、まだ燃えていない土の蛇に、口内から大量の泥を吐き出させて、消火を計ったものの、高温になった炎は一切の影響を受けずに、ただただ泥が渇いて消えるだけだった。

「・・・なんだその魔法は・・・?そんなことをしてどうして貴様は生きていられる!?」

彼の言う通り、この炎は私にもまとわりついている。火は衣服を焼いて、髪を焼き、素肌でさえも火がちらついている。まるで熱を持った鉱物のように艶の様な光沢をみせながら。衣服の端っこは黒く焦げているようにも見えるが、燃え尽きない。火を纏ったまま、皮膚も爛れることなく、燻ることもなく、燃え続けているのだ。

「・・・汝、夜を照らす白の神。光あるところに汝あり。その輝きは、遥か彼方、星より継ぎし威光なり。我、今汝を権能をこの身に宿し、その威光を体現せし者となろう。白翼の悪神(ライア・カハネ)

詠唱を読み上げ、私は何の前触れもなく、すっと空中へ飛びあがった。背中に生えた翼をはためかせると、以前よりも自由に飛行が可能になったようだ。空中で静止するのも、お手の物だ。

「言い残すことはありますか?ブレンデット侯爵。」

「・・・くぅっ!燃え盛る怒り!弾け爆ぜよ。怒炎球(ブラストロット)!」

どうやら何も言うことはないようだ。せめて彼の娘への贖罪でも聞ければ、御地のだったが。侯爵から放たれた火球は、私の炎に触れると、そのまま吸収されたかのようにして無くなった。

私は空を蹴り、翼で羽ばたくと、侯爵へ向けて急接近した。なおも彼は魔法で応戦してきたが、彼の魔法は全て火属性のものだった。娘であるシャルリエがそうだったように、彼も火属性が適正だったのだ。

付与(エンチャント)炎の剣(アスカロン)。やぁああ!」

火を纏った十字剣で、私は侯爵の右足を付け根から切り落とした。

甲高い悲鳴と共に、彼は浮島の上で倒れ伏し、それと同時に浮島もボロボロと崩れ去り、支えを失ったかのように、地面へと落ちていった。劫火に包まれた火の海に。侯爵は瞬く間に火だるま化して、しばらくは、のたうち回っていたようだが、やがて動かなくなった。

「はぁ、はぁ、ごめんなさい、シャルリエ。」

彼女は今頃エルドリックに無理やり馬車へ放り込まれているだろう。だからこそ、心の中で謝っておくことにした。謝って済むことではないだろうが、せめてもの気持ちだ。だが、彼女には伝えない。彼は、討つべき相手だったのだから。



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