表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第六章 新世代の争い
146/153

無力

読んでくださり、ありがとうございます。

良ければいいね、ブックマークをよろしくお願いします。

エルドリックの指揮のもと、ヘカテへ使者を送り、こちらはどうにか空から来る蝶人たちを迎え撃つ準備を始めた。いや、蝶人を視認してから動き始めている時点で、出遅れている状況だ。まったくどうしていつもいつも後手後手なのだろうか。

嘆いていても状況は変わらない。どうやって対処するかを考えないと。

「彼方より降り注ぐ輝石を放て、大気を切り裂き、炎よ穿て。流星雨(レーティア)

隣では、敵襲と聞いて飛び起きたシャルリエが、火の魔法で蝶人を打ち落とそうと、連続で魔法を放っていた。その名の通り、青白い炎を纏った流星が上空へ向かっていくつも放たれているものの、それらは蝶人の高度まで届く前に燃え尽きてしまっていた。

「くっ。ダメです。高度が高すぎて・・・。」

シャルリエが未熟なのではない。この距離での魔法戦闘が現実的ではないということだ。もとより、火属性の魔法は拡散しやすい。長距離の攻撃は向いていない。

蝶人たちは、徐々に高度を落としながらヘカテの街へ降下している。狙いは間違いなくヘカテだ。なら、街からの攻撃を仕掛ければ届くかもしれない。城壁や高台があれば、なおいい。

「ここからじゃ、止められない。街へ入りましょう。・・・エルド!」

「ロウ、君は行くな!シャルリエ殿、先に行け。無茶だけはするなよ。」

「はい!」

シャルリエは背中を押されて、私は襟首をつかまれて制止された。ネコか!

「ちょ、何でよ?」

「言っただろう!君は、俺たちにとっての最高戦力だ。こんなところで失うわけにはいかない。」

「あれに、私が、どうにかなるって言うの!」

「あれに、何もできなかったのが君だろう!」

エルドリックは珍しく声を荒げていた。私もピスケスでのことを思い出していた。私の中のトラウマのようなものが呼び起こされているのは確かだ。だから私も気が動転している。なんてったって、あの蝶人たちは、元は人間だ。

「君は俺の側にいろ。絶対に無茶だけはするな!」

彼はそういって、数人の守護隊を私につけさせた。街へ駆けて行ったシャルリエにも、同じように護衛を付けさせた。そのあとは、エルドリックについていく形で、ゆっくりとヘカテの城門へと向かっていった。その間私は、ただただ目の前の出来事を見つめることしかできなかった。



ヘカテの街へ入ったシャルリエは、街中で待機していた守護隊と共に、元々の街の守護隊へと掛け合っていた。すぐに戦闘準備を整えろと。上空を見た彼らは、とても怯えていた。ここブレンデット州は、帝国の内地。国境線沿いの常に魔物の脅威にさらされている屈強な騎士たちとは、訓練も心構えも足りない。内地の領土は、魔物がほとんどいないため、守護隊の主な仕事は治安維持が主だ。命を賭けた戦いなんて、一生に一度、あるか無いか。そんな街の守護隊の一生に一度が、今訪れたのだ。

「・・・何をしているのですか。早く領主の元へ行って、報告を!」

シャルリエは守護隊の襟首をつかんで、必死に訴えた。

「しゃ、シャルリエ様?」

中には、彼女の正体を知る者もいて、余計に驚いていた。そんなことをしている暇はないというのに。

「すぐに州城へ早馬を走らせなさい!お父様に、騎士団の編成を・・・。」

空を見上げると、そこには煙のような紫色の靄と共に、蝶人たちが街の上空まで迫っていた。シャルリエは城門の上へ通ずる階段を上ると、すぐさまそこから詠唱を唱え始めた。エルドリックがつけてくれた護衛の騎士たちも、詠唱を始め、魔槍(ジャベリン)を展開し始めた。

「わたくしの後に続いてください!」

シャルリエの声に、哨戒たちも頷いて答える。高所の立ったおかげで、ギリギリ射程距離内に収まっていた。それでも威力は期待できないかもしれないが。

「・・・彼方より降り注ぐ輝石を放て、大気を切り裂き、炎よ穿て。流星雨(レーティア)!」

流星が放たれたのと同時に、空へ向かって青い魔力の槍が射出されていった。上空の蝶人たちは、魔法から逃げるように、離れていく。だが、その飛行速度は、実際の蝶や鳥とは異なり緩やかで、全員が躱しきることが出来なかったようだ。

幾人かの蝶人は、魔槍に体を貫かれ、流星とぶつかったものは、爆発に巻き込まれていた。それでも、全てを落とせたわけではない。まだ高度が高いゆえに、威力も精度も十分に届いていないため、無数の蝶人たちを足止めするには、いい手とは呼べないだろう。

「くっ、なんて数なの。このままでは街に・・・。」

シャルリエは、唇をかんでいた。無暗に魔法を使っていても、こちらが消耗するだけだ。それだけ、数が多い。それに、あの靄。近づいてきたからわかるが、どうやら蝶人の羽から鱗粉のように舞っているようだ。

「シャルリエ殿。」

「あ、エルドリック様。」

遅れてやってきたロウとエルドリックも、蝶人たちを見て苦い顔をしていた。あれついて知っているのは、ロウだけ。そして、ロウとて、全てを知っているわけじゃない。

「どうしてここに彼らが、オーネット領から飛んできたって言うの・・・。」

ぱっと見た数は、ピスケス追いかけられた時のような絶望感は感じない。それでも数百、いや、線は超える数が飛んできていると見ていいだろう。

「ロウ様の仰っていた、ブレンデット州に送り込まれた軍隊というのは、あれのことだったのですか!?」

「そんな!?ありえないわ。だってあれは魔獣の・・・。」

魔獣と、敵がつながっている?そんな最悪な事態。想像もしていなかったけど、こういう時こそ、冷静にならなければならないだろう。

「落ち着け。今はあの蝶人たちをどうにかすることだけを考えろ。」

エルドリックの言う通りだ。もしかした、私たちが警戒していた敵と、あの蝶人たちは無関係なのかもしれない。それも大きな問題であるけれど、現況を対処することが先決。

「ロウ、あの靄はなんだ?」

「あれは、巨大魔獣の羽から振りまかれていた鱗粉に似てる。鱗粉を吸い過ぎると、たぶん、魔物化する。」

「最悪だな。上空からそんな危険物を振りまかれているとは。住民を難させなければ。」

「街の騎士たちには、先ほど指示を下したのですが・・・。」

彼らの動きは鈍い、いや、慣れていないといった方がいいだろう。敵襲に対してどう対処すればいいかをわかっていない。今もドタバタと慌てふためいている。練度が低いというのは、こういうことを言うのだろう。

「ここの指揮は俺がする。シャルリエ殿は、街の当主に掛け合ってくれ。」

「わかりましたわ。」

「ロウ、君を行け。」

「え?私も?」

彼は徹底的に戦闘から私を避けようとしているようだ。いや、今回はそれだけではないのかもしれないが。この街はブレンデット州ではあるが、ブレンデット侯爵が本拠としている街ではない。シャルリエだけでは、判断が鈍るかもしれない。いざという時は、公爵家の令嬢の立場を使えということだろう。

私はエルドリックに頷いて、シャルリエと城壁を下りて、街の中心へと向かった。その道中、大勢の守護騎士の集団に出くわした。いったい何事かと、眺めていると・・・、

「お父様・・・?」

「え?」

隣でそう呟くシャルリエを見て、私は騎士に囲われている身なりのいい男性を見つけた。

「いったい何事だ。こんな夜更けに!」

どことなくシャルリエに似た印象を持つ男は、囲っている騎士たちに悪態をつきながらも、城壁へ向かおうとしているようだった。

「お父様!」

「ちょ、シャルリエ!」

咄嗟に飛び出してしまったんだろう。シャルリエは、父親の元へ駆けて行ってしまった。声に気づいたブレンデット侯爵は、驚いた様子もなく、娘を睨みつけていた。

「シャルリエ?こんなところにいたのか。王領へ向かったと聞いてから、何をしているかと思えば。」

そんな言い方・・・。他所の家に対して、口を出すべきじゃないのはわかっているが、喉元まで出かかっていた。しかし、シャルリエは私よりも冷静だったようで。

「今はそんなことよりも、この街に蝶化した、いえ、敵が攻め込んでいるのです。すぐに住民の避難を呼びかけてください。」

「敵?お前は何か勘違いしているようだな。ここへは今日、多くの戦力が集う。出陣の準備は着々と整っている。お前もすぐに領城へ戻り、戦の準備をしろ。」

「・・・何をおっしゃっているのですか?」

戦?出陣?私も、シャルリエも、侯爵の言っていることが理解できなかった。彼は戦争を起こそう説いているというのか?こんな状況でなぜ?

「ブレンデットは追い風に乗っている。今こそ、裏切り者を制裁し、この国のあるべき姿を取り戻す。」

「う、裏切り者は、わたくしたちです、お父様!ですが、今はそれよりもこの街の防衛を・・・!」

会話の途中だというのに、侯爵は私を見た。そりゃあ、左腕が異形と化して、背中から翼を生やした、人の姿をした何かがいれば、目につくだろう。だけど、侯爵は私を見るなりあからさまに嫌そうな顔をした。

「シャルリエ?なぜ裏切り者と一緒にいる。」

「へ?・・・。どういう意味ですか?}

裏切り者?・・・。私は咄嗟に、腰に吊るした十字剣の柄に手をかけた。侯爵は、何の前触れもなく隣で控えている騎士に向かって小さくつぶやいた。

「殺せ。」

話ができる距離だ。その言葉は当然私の耳にも届いていた。侯爵にとって誤算だったのは、騎士が状況を理解していないということと、緊急時における行動が遅い点だろう。シャルリエの手を掴んで、踵を返して逃げだすには十分な時間だった。

「殺せ!」

今度は指さしでそう言う侯爵に、騎士たちはようやく動きを見せた。剣を抜刀し、鎧をガチャガチャ鳴らしながら追いかけてきた。

何もかもが予想外だ。まさか、あの声の主以外にも、私を敵とみなしてる輩がいるだなんて。

やはりエルドリックの言う通り、これは罠だったのだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ