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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第六章 新世代の争い
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悪夢再び

読んでくださり、ありがとうございます。

よければいいね、やブックマークをよろしくお願いします。

ブレンデット州に到着予定日の前日、エルドリックから支給品を渡されることとなった。火以外の属性の魔法触媒の指輪。それと、私でも使えそうな十字剣を一本。愛剣ほど軽くはないけど、剣幅は細いから、扱いには困らなかった。

「火の魔法触媒については、手に入らなかった。」

「いいわ。これだけでも十分よ。ありがとう。」

スカーレット・ダイヤモンドはともかく、クリムゾン・ダイヤモンドとて、高価な品だ。人工的に作れるとはいえ、高望みはできない。

左手の指、全てに指輪をはめ、ベルトに鞘を吊るして、身なりを整えた。

「本当に、全ての属性の指輪を使うのですね。」

改めてまじまじと見つめるシャルリエの目は真剣だった。

「ふふ、最近の触媒はの加工技術はすごいわね。以前は指輪同士がぶつかって、手を握れなかったのに。」

指輪の感触は最善の状態だった。

「シャルリエ殿、君にもこれを、自分の身は自分で守ってくれ。」

彼女にも支給品が配られていた。彼女は当然、火の魔法触媒だ。アレキサンドライトの宝石が嵌められたアンクレット。羨ましい限りだ。できれば私も火の魔法を使いたい。

「ここから先は、戦場になる可能性がある。何と戦うことになるかもわからない。二人の健闘にきたいするよ。」

「あなたは戦わないの?」

「支援はする。俺は正面切って戦うような人間じゃない。君たちの足手まといにもなるだろう。」

ただ単に、自分が戦いたくないだけだろ、と、思わなくもないが、エルドリックの表情は、真剣だった。

エクシアの党首であるロイオは、剣にも魔法にも秀でた、ジエトの右腕と呼ばれるにふさわしい人物だといわれている。現に彼は、北部戦線で前線で体を張る程の豪傑だ。そんな男の息子だから、同じく最良の戦士だと思い込んでいた。もしかしたら、いや、もしかしなくても、彼は弱いのかもしれない。

「ブレンデット州について、俺たちは様子を見るだけだ。哨戒班を潜り込ませ、3日以内に何事もなければそのままアダマンテ領へ向かう。余計な時間は取らないぞ。」

「ええ。それでいいわ。」

あの声の犯行予告を聞いて位から、6日が経っていた。ここの中では何も起きないことを願っている。だが、今さら、そんな楽観視が出来るとは思っていない。奴らは必ず何かをやるだろう。声の通りのことではなくとも。



ブレンデット州の入り口と、グランドレイブ山脈からの街道を繋ぐ中間地点に、私たちは陣取った。既に哨戒班たちは、州の玄関口であるヘカテという街に入り込んでいる。昨日の報告では、ここ数日の間に、大きな事件があったという話はないそうだ。あの声の言うことが本当であれば、3日以内に数千人規模の軍隊が押し寄せる。もし戦闘になりそうだった場合、シャルリエの魔法で割って入り、州の守護隊に危険を知らせる手筈になっている。最も、ヘカテの街の騎士だけで、どれくらい足止めできるかはわからない。こちらの哨戒班も数十人の少数精鋭だ。戦力にはならない。あくまで時間稼ぎだ。

一応、切り札というわけではないが、大きな荷車を運んできている。それも、どこまで役に立つかはわからない。今はとにかく、何も起きないことを祈るしかない。・・・それにしても、

「夏とはいえ、夜は冷えるわね・・・。」

山脈から降りてくる寒気は、夏場でも意外と冷たい。私は北部出身だから、寒さには慣れているけど、別に薄着で過ごせるわけじゃない。

「ふぅー。それにしても・・・。」

隣を見やると、ぐっすり眠ってしまっているシャルリエがいた。よく眠っている。まぁ、貴族のお嬢様は、徹夜なんてしたことないだろうし、仕方がないけど。私は彼女に掛かっている毛布を掛けなおしてやって、再び視線を戻した。

来るとすれば、山脈からの山道だと、私たちは考えている。山脈と州の間に陣取ったのもそのためだ。明かりのない夜なので、夜目を凝らさなければ、人の動きすらまともに見えないが、集団で動く者たちの気配を探るには、十分すぎるほど静かだった。

「天気は快晴。月は、半月かな?」

雲が少しかかってて、月あかりは頼りには出来ないだろう。それでも長時間、闇に眼を慣らしていると、見えない景色が見えてくる。

「ロウ、起きているか?」

ふいにエルドリックの声が、馬車の外から聞こえてきた。

「なによ?」

私は、馬車から降りると、いかにも臭そうにしている彼の姿があった。

「なにしてるの?」

「その匂い、どうにかならないのか?」

「へ?」

匂い?何か匂うだろうか。鼻をすんすんさせても私には何も感じなかった。まさか汗臭い?

「な、何の匂い?」

「甘い匂いだ。」

甘い?汗ではなくて?・・・もしかして、龍化の?

「そんなに匂う?」

「俺の馬車の方まで風に乗ってきてる。」

ということは、また体が欲情、もとい発情しているということか。だが、発作は起きていない。髪色は・・・、気付けばかなり桃色がかっていた。

「えーっと、これは、どうにもできなくて。」

「・・・龍化か?別に気が狂う程ではないが、こうも甘ったるい匂いをされるとな。」

「あっはははは。香水でもつけようかしら。」

「やめとけ、余計変になるぞ。」

変て。私自身は何も感じないのが余計に質が悪い。せめて匂っていることをしれれば、人を避けることも出来ただろうに。

「それで?誰に欲情してるんだ?」

「そういうんじゃないんだけど・・・。」

説明するのも面倒くさい。理性の方は、むしろ緊張している。会敵するかもしれないのだ。そんな時に欲求不満な女がいてたまるか。

「雲が多いな。一雨振るかもしれない。」

「雨、か。・・・ん?」

彼が空を見て言うので、私も同じように空を見た。半月の光が遮られるくらいには、雲があるが、雨が降るという程ではないだろう。ただ、雲動きが、雲の動きに見えなかった。暗い靄のようなものが空をゆっくりと漂うように広がっていた。それと、雲の影に紛れる黒い何かが、ちらりと闇の中に見て取れた。

「エルド!」

「あぁ。何かいる。」

彼はすぐに残っていた哨戒班に戦闘態勢を整えさせた。

「シャルリエ。・・・シャルリエ!起きてください!」

隣で熟睡している彼女を揺さぶって起こしながらも、空からは視線を外さなかった。空を舞っている何か。薄闇の中で蠢くその姿に、私は覚えがあった。

「何で、ここに!」

空からふわふわと、暗い靄を放ちながら舞い降りてきたのは、蝶のような羽を持った、魔物化した人間だったのだ。

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