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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第六章 新世代の争い
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前世の弊害

エルドリックが帰って来てから、クレスは魔晶石の制作にかかりっきりで、たまに薬をもらいにいっても、まともな会話をしてくれなかった。

エルドリックによると、私の体は徐々に変化しつつあるという。見た目の話ではなく、中身、それも魔力に関してだ。魔力は混ざらない。一つの体に一つだけ。彼は、そう定義していたようだけど、どうやら私の存在によって、それが覆されつつあるという。

私の中にあった魔力と、アレンから受け取ってしまった魔力は、もはや完全に同化し、二つの魔力が私の体に馴染んでいるという。私としては、それが見えるというその目に興味を惹かれるのだが、エルドリック自身、なぜそんなものが見えるのか、実際わかっていないという。

「それで、私の病気は治ったの?」

「クレスの薬は飲み続けているのだろう?」

「ええ。」

「発作の頻度は?」

「魔法を行使した時と、使わなくても、5日に1回程度ね。」

「・・・そうか。」

おそらく、彼が予想していた結果とは異なっているため、結論が出せないでいるのだろう。

「・・・まぁ、薬のかいあってか、最近は体の調子もいいから、そろそろ私も動こうと思ってる。」

「それで、ブレンデット州に向かうと?」

「いいえ、ある人を、探そうと思う。」

「ある人?」

エルドリックに匿われてから、考え巡らす時間は無限にあった。その間にも、何度も説教を食らったし、自分の考えの甘さについても、思い知らされた。だからもう目の前の問題にまっすぐ突き進むのはやめた。

「エルフリードっていう、お父様の、古い友人なの。ハンター稼業を生業にしている人で、今は魔獣を追っているはず。」

「待て、なぜ魔獣について知っている?ハンターということは、貴族や帝国王族ではないのだろう?」

「私が依頼したの。」

随分昔のことのように思える。あの時は、こんな状況になるだなんて思いもしなかったけど。時間も経っているし、ハンターズギルドでは、既に魔獣の目撃情報や、討伐報告まで上がっている可能性がある。

「こういう言い方はあれだけど、保険はかけておいたのよ。」

「ハンターズギルドか。確かに彼らの人脈ならば、魔獣を見つけることも可能だろうな。実力の方はわからないが。」

彼らは一般市民だ。魔法なんて使えないし、人間の本来の肉体で戦わなければならない。その強さは、私からしても未知数だ。あの巨大な魔獣の相手をできるのかという問題はある。一応、魔物狩りを生業とするのがハンターだ。並の魔物相手ならば戦い様はあるのだろうが・・・。

「それで?そのエルフリードという御仁はどこに?見つけられるのか?」

「彼はハンターたちの間でも有名な人物だから、名を出せば、居場所くらいはわかると思う。それと、私が依頼をしたのは彼本人ではなく、テムザのハンターズギルド全体に対してだから。アダマンテのハンターたちは既に動き始めているでしょう。接触できれば、同じ目的をもつ同志として、こちらに取り込めるかもしれない。」

「なら、行き先はアダマンテか。」

「領城へ行けば、身を隠すことくらいできると思う。」

「今君は、行方不明になっている。身内とはいえ、姿を晒すのは危険じゃないか?」

隠れて暗躍していろと言うことだろうか?でも、敵は少なくとも私が生きていることを知っているはずだ。だって、声だけで接触してきたんだから・・・。

「でも、貴方がアダマンテの領城を尋ねたところで、うちの侍従たちが素直に受け入れはしないでしょう?」

「だろうな。どうしたものか。」

テムザの宿でも貸切るか。いやでも、街の中でのことはすぐにでも領城に知れるだろう。まぁ、手がないわけじゃないのだが。

「・・・エルド。」

「ん?」

「私の婚約者として、領城へ向かっては?」

「・・・・・・・・・はぁ!?」



ブリジット渓谷から、アダマンテ領の、しかもテムザの街までは馬車でも10日以上かかる。しかも、今回はグランドレイブ山脈の地下道を突っ切るのではなく、山脈の麓を東周りで向かう。途中までは、ブレンデット州に向かわせるはずだった、守護隊の哨戒班と共に向かった。一応様子だけでも覗いておこうという話になったのだ。

「それにしても、エルドリック様と、婚姻していらしたとは、驚きです。」

「してないわ。約束したのは、縁談を受けるということまでよ。」

「ええと、同じことでは?」

そうなのだが、領城に父がいなくてよかった。とはいえ、ハイゼンがその話を聞いて信じるかどうか。侍従長として最高の人材であるのは間違いないが、その忠誠心故に、アダマンテ家以外の者の言葉に従いはしない。ましてや私は、ここ最近縁談を断りまくっていたし、いきなり婚約者と言っても信じないかもしれない。

一応、エルドリックだけで領城に向かってもらう手筈だが、何か私の息がかかっているという証明でもあれば、信じてもらえるはず。

「それにしても、エルドも物好きね。あんなに理性的な思考を持っていながら、家のために私と結ばれること選ぶなんて。」

「この国は、そういう国ですからね。」

あのエルドリックに限って、本気で私に入れ込んでいるとも考えにくいし、本心で私と結ばれることをエクシアのためと思っているのだろう。結婚、かぁ・・・・。

「・・・ロウ様。」

「はい?」

「ここだけの話ですが、実際、どうなのですか?」

「は?」

その瞬間、懐かしい予感が背筋を走った。懐かしいといっても、嫌な予感だ。

「エルドリック様と縁談を受けるということは、多少なりとも、好ましく思う一面があるのではないですか?」

「シャルリエ?ちょっと目が怖いんだけど?」

まさか彼女が、そんなジェーケーがするような話に食いついてくるとは思っていなかった。確かにシャルリエは、私より背が低いし、大人っぽい仕草の割には、子供のような容姿だし。素質はあるんだろうけど、この世界に来てまで、あの面倒くさいKOIBANAなんてしたくない。ましてや自分の話だ!

「はぁ、別に・・・。彼には申し訳ないけど、私が彼の縁談に乗ったのは、信頼を勝ち取るためであって、少なくとも私は、彼を異性として意識したことはないし、今後彼と結婚することがあっても、政略結婚だから。」

・・・いや、まじめに答えたつもりだが、これではまるでツンデレだ。しかし、彼女の返答は以外なものだった。

「そう、なのですか?ロウ様にとっての政略結婚とは、そのような考えなのですね。」

「シャルリエは違うの?」

「大きくは違いませんが、政略結婚は基本的に成功しやすいものだといわれているのですよ?」

「成功って、夫婦間の仲が良くなるってこと?」

まぁ、恋焦がれてもいない相手に、多くは望まないだろうし、ほどほどの関係を築ければ、それはそれで幸せなのかもしれないけど。

「そのご様子だと、少なくとも、ロウ様は、結婚相手との円満な関係を望んでいるのですね?」

「え?だって、そういうものでしょう?」

「どうでしょうか。仲が良いことに越したことはありませんが、昨今の貴族でも、愛人を作ることはよくあります。一夜限りの関係を持った臣民もいます。わたくしたち権力者が考える夫婦や貞操観念は、意外と歪んだものです。こういっては何ですが、ロウ様のように、純愛を信じている方は、そう多くありません。」

シャルリエは、いたってまじめに答えてくれた。それも、驚くほどに意外な話を。

愛人だの、妾だの、そういう事実があるのは知っている。だけど、それは一部の人間のやることだと思っていた。彼女が言いたいのはたぶん、この国で私は、純真無垢な乙女だということ。

私が前世の記憶をもっているからだろうか?この世界の倫理に、私は順応していなかったのだ。

「いいではありませんか。ちょっとくらい殿方の酔いしれても、だれも気にも止めませんわ。」

「そうだけど、・・・本当に、エルドリックのことは。」

そう返答しても、シャルリエは暖かな笑顔を浮かべていた。背は小さいけど、私より年上だから、間違いなく彼女は、先輩だったということか。いろいろと諭されてしまったのだ。



読んでくださり、ありがとうございます。

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