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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第六章 新世代の争い
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予知夢についての可能性

読んでくださり、ありがとうございます。

良ければいいね、ブックマークをよろしくお願いします。

雑用を終えると、既に日が傾き始めていた。渓谷街の昼は短い。早打ちに私室へ戻って、例の魔導書に目を通そうと思った。

「保存状態だけはいいのよね。木紙だし、インクで書かれていないし・・・。」

この世界でも珍しい素材ばかり。確かなことは言えないが、炭のような模様と色の文字。炭の先をとがらせた、あの道具に似ている。

どうして、この魔導書との出会いを、運命だと思ったのか。それは、鉛筆の筆跡痕に、文字の一部に見慣れた文字が使われていたからだ。カタカナである。

運命という生易しいものではないかもしれない。王城に現存する10の禁書の、最後の書を日本人が記しているということを、私は当時から確信していた。少なくとも日本人の記憶を持った何者かということは間違いないだろう。

カタカナは、日本語の中でも一番使われない文字だと思っている。原型となったひらがながあるからだ。日本語を文字にするならば、最低でもひらがなさえあれば事足りたはずだ。日本人じゃない外国人であれば、真っ先に習うはずのひらがなを使っているだろう。

ひらがなも漢字も使わずに、この文字を好き好んで、いや、あえてカタカナだけで書いたのは、自身が日本人であること、あるいは日本人であった記憶を持っていることを暗に示していると、私は結論付けたのだ。

魔導書の文章は、ほとんどが帝国の古文字で書かれている。現代でも読み解くのが難しい、古い言葉だ。その文章の翻訳文のように書かれているカタカナこそが、本来の内容だ。そもそもカタカタを知らなければ解読できないし、頑張って帝国の古文字を読み解いても、まともな文章になっていないことが分かった。いろいろと考察はあるのだけど、おそらくこの魔導書を書いた偉人は、今から1000年近く前に帝国に現れ、当時使われていた古文字を適当に並べ、それをフェイクにして、日本語を書き記したと思われる。なぜそんな回りくどい方法を取ったのかはわからないが、何らかのメッセージだと私は思っている。

「はぁ、とはいえ、このカタカナ。下手すぎるのよね・・・。」

それがこの魔導書の一番の問題だろう。下手な理由は、なんとなく察せられる。まず第一に、本人の字が汚かった。もう一つは、まともな道具がなかっただろうということ。

筆跡は間違いなく鉛筆のような道具を使っている。だけど、帝国は未だにインクと毛筆が主流だ。となると、実際に使われたのは炭で間違いないだろうけど、道具は手製でまともなものではなかったのだろう。

二つ目の問題が、カタカナで書かれている内容にしても、魔法の発動方法について書かれているわけではないということ。

書かれているのは、全て物語。題名、白の神の通り、白の神と謳われた存在の物語が書かれている。いったいどうしてそこから魔法を編み出すのかというと、これは、それっぽい文脈が所々に隠れているのを拾って、物語の中に出てきたことを再現させるのだ。簡単に言えば、白の神が滅びの真炎(デイ・ブレイク)を使ったから、それを再現しよう、ということだ。まぁ、魔法の命名は私の独断だけど。

以前読んだのは、まだ私が王妃候補だった時だから、以前どこまで読んだかなど、細かい内容は既に忘れいてるから、とりあえず最初から読み直すことにした。



「ロウ様?大丈夫でございますか?」

「えぇ。ちょっと、夜更かしを、ね。」

久しぶりの魔導書に興奮してしまい、ついつい読み耽ってしまっていたのだ。文学少女じゃあるまいし、まさか外が白むまで読書の手をやめられなくなるとは・・・。

「・・・お体の方は、良くないとお聞きしています。あまり無茶をされては・・・。」

「あぁ、うん。そうよね。心配かけてごめんなさい。」

私は未だに、自分が病人である自覚が足りないのだろう。いや、昨夜の読書は不可抗力だと私は言いたい。やはりあの禁書。日本人の記憶を持った何者かが書いたということをほのめかせる内容が、最後の方に書かれていたのだ。

そこに書かれていたのは、異世界の存在についての考察だったのだ。禁書の著者は、今私のいるこの世界に来たのは、まったくの偶然だという。いや、世界を渡ってくるのに、偶然も何もないと思うのだが、どこからやってきたのかというのが、私としては不可解な話だった。

そう、どこからかやってきた。このフレーズだけで、私が経験している異世界転生とは全く異なる。私は、文字通りの転生、異世界に新たな命として生まれたのだから。だが、禁書の著者は異世界に渡ってきたという表現をしている。それはつまり、記憶も肉体も、あの地球のもののままやってきたということだろう。

この時点で私は、私以外にも、私と同じような境遇の存在が、複数人いるという事実を確信した。ただ問題がいくつかある。それらのルーツはどこかということだ。ちょうど現在、異世界を渡ってきた存在が、この帝国に一人いるのを私は知っている。アレンだ。彼はここではない世界から来たといっていた。現に龍族という種族は、この世界では確認されていないし、彼の異様な力と姿を見れば、彼の言うことは間違ってはいないのだろう。

だが、龍族なんてものは、地球にも存在しない。だから彼は、地球でもなく、私のいるこの異世界でもなく、また違った世界からやってきたということになる。その事実を認識してしまってから、どうにも眠れなかったのだ。

シャルリエと朝食をともにしている最中も、私はどこか上の空だった。世界がいくつも存在する。その事実だけで、好奇心と恐怖が入り混じった、なんとも言えない感情が、腹の底で渦巻いているのだ。

「ねぇ、シャルリエ?」

「はい。」

「あなたは、予知夢について、どう思う?」

「アルハイゼン殿下の、能力についてですか?」

彼女は訝し気ながらも、食事の手を止め真剣に考えてくれた。

「エルドリック様から聞いた限りでは、殿下は夢で見た光景を、現実でも目にした可能性がある、というのはわかります。ですが、それそのものが魔法だとは、わたくしは思えません。」

「どうして?」

「魔法特性というからには、魔法の類でなければなりません。寝ている最中に魔法を発動することはできない。」

「つまり、魔法ではないと?」

「そう言い切るのも、難しいですわね。魔法ではない特殊な力があることを、認めてしまうことになりますから。」

彼女は頭が柔らかい。魔法ではない特殊な力。魔法を特殊なものである認識しているのだ。そうでなければ、そんな言葉は出てこないだろう。

この世界では、魔法はあって当たり前の力だが、その原理が明確に定義されているわけではない。それは事実だ。

「じゃあ、寝る前に魔法をかけた可能性は?」

「永続魔法ということですか?・・・それも現実的ではないように思えます。眠っている間、魔力を消費し続けることになりますから。危険ですし。」

「そう、よね。」

「どうして急に、そのようなことを?」

「・・・もしかしたら、予知夢とまではいかなくとも、本当なのかもって。」

「未来を見通す力ですか?」

「ううん。未来じゃなくて、ここではない、どこか違う場所を、見れたのかなって・・・。」

「うん?」

私だって、確証があるわけじゃない。昨日、あの禁書を読んでいて、もしかしたらと思っただけだ。例えば、異世界に干渉する魔法、とか?・・・・・・考え過ぎだろうか。

「ごめんなさい。忘れてくれる?」

「はぁ・・・。」

世界には、まだ知らないことがたくさんある。もしかしたら、この異世界転生についても、私は、何もわかっていないのかもしれない。



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