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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第六章 新世代の争い
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友情

焚きつけられたはいいものの、そのあとエルドリックに指示された内容は、何をやっているのかわからない雑用だった。

「はぁ、あれだけ大事言っておきながら、やらされるのが、っ、こんな雑用だなんて。はぁ、いい度胸してるわ。」

何をしているかというと、物を運んでいる。魔晶砲弾だ。いや、正確に魔晶砲弾よりもやや小さい、魔晶石だ。どういうわけか、エルドリックは王城の泉の階から深水を拝借する許可をもらい、転送魔法の出口を、このブリジット渓谷街につなげたらしい。そして、その深水を使って、魔晶石の量産を行うそうだ。といって、その魔晶石も彼のオリジナルらしいが。

「ほんと、人使いの荒い方ですわ。」

なぜかシャルリエも同じ雑用を押し付けられている。まぁ、話し相手がいるというのは、ありがたい限りだ。彼女の事情についても聞いたし、同情はするが、慰めたほうがいいのだろうか?彼女の意思としては、どうにか父を審判に賭けようということだが、それはそれとして、どうしてか私に仕えたいといってきたのだ。

「シャルリエは、普段何をして過ごしているの?」

「普段ですか?州城では、ほとんど花嫁修業のようなことをさせられていました。」

ああ、花嫁修業か。刺繍とか、花いじりとか。そういったことが出来るお嫁さんが、この世界ではよい妻とされている。花いじりはともかく、刺繍なんて衣服が塗って作れる、とかではなく、模様のコサージュが作れるかどうかだ。古き良きあの輪っかとひたすら向き合う時間は、私には到底耐えられるものじゃない。一応前世の記憶があるから、マフラーを編むとか、布を織ってTシャツくらいは作れるのだが、この世界では一切評価の対象にならない。

「魔法の鍛錬などは、やっていないの?」

「・・・。父の目を盗んで、僅かな時間に。」

どうやら彼の州公は、かなりの重症のようだ。魔法の鍛錬をさせないことを言っているんじゃない。娘に自由を与えていないことにだ。シャルリエの魔法の才能は、少なくと上位に入るのは、間違いないだろう。あの時の決闘、彼女の顔と名前は忘れてしまっていたが、決闘の内容は忘れていない。4人の魔力を合わせる能力、調律と呼ばれる技術だが、複重魔法を行う上では避けては通れないものだが、誰にでもできることではない。他者の魔法に直接干渉し、自分の制御下に置かなければならないのだから。以前私が使用した消失(クリア・デルト)も調律を応用したものだ。他人の魔法を無理やり止めるさせるのだから。

「あなたほどの調律技術は、他にない能力だと思いますが。少なくとも、私には真似できない芸当よ。それなのに・・・。」

「・・・父は変わってしまいました。何かに憑りつかれたように、何か調べ物をしている時間が多くて。」

調べ物。シャルリエにふさわしい血筋探しでもしているというのだろうか?なんにせよ、娘のためと言いながら、娘を見ていないのは、大きな過ちだ。それを気づかせてやればまだ、シャルリエとの関係改善につながるかもしれないけど。

「ごめんなさい。余計なこと聞いたわね。」

「いえ、よいのです。・・・私は、父の首を取らねばなりませんので。」

そういうシャルリエの目は、なんというかどこかで見たことがあるように思えた。私もあんな虚空を見据える目をしていた時期があったように思う。何かを成そうとする目。覚悟の目だ。

「わたくしも、聞いてよろしいでしょうか?」

「なにかしら?」

「その、ロウ様の御手と、その背中の翼は?」

あぁ、そういえば説明するのを忘れていた。とはいっても、信じてもらえるかはわからない。私自身全てを理解しているわけじゃないから。私、エルドリック、クレス、三人で立てた憶測に過ぎない話を聞かせてやると、彼女は興味津々と言った様子で聞いてくれた。やはり、魔法へ理解度なんかは人並みにあるようた。

「龍化、龍、と仰いましたか。本当にそんな生き物が・・・。」

「・・・もう、私は、人間とは懸け離れているのよ。まぁ、魔法を使わずに空を飛べるようになったのは、ちょっと嬉しいけど。」

「え?まってください。その翼、飛べるのですか?っていうか、魔法でも飛べるんですか?」

しまった。それはそれで人間離れしていることになるか。飛行魔法は現在でも確立されていない。似たような魔法は存在するけど、実用的な飛行魔法は、未だ存在しないのだ。私の白翼の悪神(ライア・カハネ)を除いて。

「飛べるって言っても、鳥のように自由に飛べるわけじゃないわ。」

「だとしても、ロウ様は、魔導学の未知の領域に足を踏み込んでいるのです。さすがは、奇跡の申し子、でございますね。」

「その呼ばれ方。懐かしいわね。アルハイゼンとの婚姻が解かれてからは、呼ばれることも無くなったけど。」

それは、傲慢な令嬢という別のあだ名が出来たからだろう。どっちにしろ好ましい呼ばれ方ではない。

「あの頃もそうでしたが、私は龍の尾を踏んでしまっていたのですね。」

「それ、冗談じゃなくなっちゃうかもしれないから、笑えないのよね。」

腕、翼に続いて尻尾まで生えてきたら、とうとう人間をやめたといっても過言ではないだろう。

「あの魔導書に書かれていた内容。ロウ様は、あの変わった文字をご存じなのですか?」

「え、ええ。まぁ、ね。か、解読するのに、相当な時間がかかったわね。」

嘘だ。解読なんてしていない。私は初めからあの文字がよめていた。

「あの時の、太陽のような炎の輝き、いまでも忘れはしませんわ。近くにいるだけで、肌焼けつくような痛みを覚えたのを思い出しました。」

「我ながら、とんでもないことをしようとしていたと、今では思うわ。」

「ですが、あれがあったこそ、わたくしは、ロウ様に憧れを抱きました。」

「え?私に?」

「魔法とは、あんなにも美しい光を放つのだと。初めて知りましたから。」

城をまるまる吹き飛ばす威力、あるいは、人の骨も残さず灰と化す魔法。滅びの真炎(デイ・ブレイク)の説明文だ。そんなものをたった4人の少女たちに使おうとしていたのだから、加減を知らないにもほどがある。それを美しいと形容するとは。シャルリエも魔法を愛している存在ということか。

「わたくしも、貴方のような魔導士になりたかった。所詮わたくしは、東部領の西部州の貴族。帝国の内地の人間。戦に駆り立てられる理由もなければ、魔導士として必要とされるいわれもない。」

「戦争に、参加したいの?」

「あ、そういうわけではありません。でも、私の魔法が、世のため人のためと事はないのだと。そう思うと、幼いころからしてきた鍛錬が、無意味になるような気がして・・・。」

確かに、気持ちはわからなくもない。私は彼女とは逆で、戦争のための力であると、割り切っていた。だけど、あるかどうかもわからない戦争に備えて、鍛錬を積み重ね続けているのも、虚しい話だ。結果として、魔物の大侵攻は起こったけれど、結局私は善戦を離れている。何のために、今まで積み重ねてきたのだろうかと、考えなくもない。

「ですから、こうしてエルドリック様に目をかけていただいたことを、幸運だと思っています。身内を裁かなければならないという業はありますが、これでよかったと思っています。」

「・・・今後起こる戦いには、シャルリエも力を貸してくれると?」

「そういうことに、なるのでしょうね。私の力がどれほどお役に立つかはわかりませんが。」

「・・・・・・。」

いずれ戦いは起こると、エルドリックはいうが、私たちが戦おうとしている相手は、いったいどれほど強大で、何をしようとしているのか。それ以前に私は、やり残したことをやらなければなんない。

エルドリックの言う通り、私はピスケスの住人に救いを与えなかった。命を奪うことを救いと呼ぶのは傲慢かもしれないが、それがあの場における最善手であることは間違いなかっただろう。まだエルドリックから情勢を聞いていないけれど、おそらく被害は広がり続けているはずだ。私がヘタレたせいで、生半可な覚悟だったせいで・・・。

「シャルリエ。」

「はい。」

「・・・これから、よろしくお願いします。」

面と向かってそう頼み込むのは、可笑しいだろうか?私は彼女に手を伸ばして、自然と握手を求めていた。彼女も口をぽかんと開けたまま、しばらく動けないでいたようだ。だけど、シャルリエは令嬢らしい、微笑み浮かべて手を取ってくれた。

「こちらこそ、精一杯務めさせていただきます。」



読んでくださり、ありがとうございます。

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