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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第六章 新世代の争い
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ありえない能力

「・・・なんて?」

「予知夢だ。予知夢。」

何を言っているんだこいつは、と本当に思ってしまった。いや、この異世界において、初めて聞く概念は、どいつもこいつも何を言っているんだと思ったものだ。これに関してはもう慣れっこだ。ただ、今回はその衝撃度が大きすぎる。

「予知夢、というと、夢の中に、先の未来に起こる出来事が現れるという、あの?」

「そうだといっているだろう?どうしてそう何度も聞き返すんだ。」

私は前世の感覚があるからともかく、シャルリエの方も疑心暗鬼なところを見ると、やはり、異世界においても、オカルト染みたものなのだろう。ただ、そういわれると、そのような片鱗は確かにあったように思える。アルハイゼンに剣術を請い、どの流派かの話で、彼は夢の中に出てきた剣術を真似たといい放った。そんなバカなと当時も思ったが、エルドリックの言うように、彼の魔法特性が予知夢というのも間違いではないのかもしれない。

「それって、魔法なの?」

「わからん。昔、ガキの頃にあいつが言っていただけだ。」

「・・・じゃあ、陛下にも同じ力が?」

「・・・陛下の魔法特性は違う。便宜上、浮遊と呼ばれる特性を持っている。」

「どういうこと?予知夢がリンクス家の継承能力じゃないの?」

「そうだ。浮遊こそが、リンクス家、およびエクシア家の魔法特性だ。」

私とシャルリエの頭の上には、無数のハテナマークが浮かんでいたことだろう。

「リンクス家が出来たのは、現国王であるジエト陛下の父君の代からだ。俺の祖父に当たる方だが、その方が、国王の座を降りると決めた時、あらたにリンクスの名を上げ、そのまま今の陛下へ譲り渡したんだ。」

「つまり、リンクスは、まだ1代しか立っていないってこと?」

「そうだ。もともとエクシアは、ここ数百年の間、長らく帝国の王家として君臨してきた家だ。本来であれば、今の陛下もエクシアの名を冠していたのかもしれないな。」

「それがどうして、新たな名を作り出したのでしょう?」

王家が分家する経緯は、単純に子が兄弟であったり、お家騒動などが絡んでいるものだけど、それでも、分家したリンクスが本家になってしまうのはどうなのだろう。何か深い事情がありそうだが、エルドリックはそれ以上語らなかった。

「話を戻そう。アルハイゼンは、天才と呼ばれていた。大地の記憶(アーステイル)に加え、脈々と受け継がれてきた浮遊を継承し、さらにそこへ、新たに予知夢という力に目覚めていたんだ。」

「新たな、魔法特性・・・。」

考えられるのは、フィリアオール側の血脈が作用したということだ。フィリアオール自体は、ごく普通の帝国王族出身だと聞いたことがあるから、特別な力を持っていたわけではないだろう。ただ、何の因果か、それとも運命だったのか。二つの血脈が掛け合わされたことで新たな力が誕生してしまったのだ。

「具体的に、予知夢、の力は、どのように作用していたのでしょうか?ロウ様の竜使い(ドラグーン)のように、目に見える結果を引き起こすことが出来たのですか?」

「少なくとも俺は、アイツがその力を行使したところは見たことがないな。予知夢、というのも、アルハイゼンが勝手になずけたものだ。魔導学者に研究されることもなかった。」

それだけを聞くと、彼の出まかせのようにも聞こえる。見栄を張るような人ではないだろうけど、自身のカリスマを己で作り出すくらいのことはしそうだ。

客観的に観測できない力ならば、当人しかその存在を認知できない。思い込みと思われても致し方ないことだ。

「君は何かそれっぽいことは聞いていないのか?ある意味、君があいつに一番近しい存在だったんだ。いとこの俺なんかよりも、よっぽど寄り添っていたんだからな。」

そう言われても、3年も前のことだ。印象的な出来事はある程度覚えているが、何気ない会話までは、なかなか思い出せない。先ほど剣術についても話してもいいが、一応あれも逢瀬の一環だ。そんな話を聞かせるのも躊躇われた。

「・・・私には、あまり自分のことを、話してはくれなかったから。」

「意外と、つれないお方だったのですね。」

シャルリエには、王子に対する印象を崩してしまったかもしれない。まぁ彼女がアルハイゼンをどう思っていたのかは知らないけど。少なくとも、家名にためという名目意外にも、当時の彼女は王子に対して、それなりに憧れを抱いていてもおかしくはないだろう。

「・・・・・・あの人の話はいいのよ。婚約者だったのも、1年にも満たない期間だったから。それっぽい一面を見たことはないわね。」

「はぁ、あれだけ俺の前では惚気ておいて、大したやつだよ。」

惚気。15歳と13歳。中学生くらいの恋愛なんて、惚気るような話があるわけないだろうに。ただ私は、男女の関係というよりも、王と王妃という関係を念頭に置いていたから、彼自身についてあれこれ知りたいとは思っていなかったのだ。

エルドリックの言う通り、彼が予知夢、という力を持っていたのだとしたら、敵はそれを利用しようとしているのだろうか。ある意味未来を見通すことが出来る力だが、そんなものを手に入れたところで、何ができるというのだろう。夢の中で、1年後に自分が死ぬ夢を見てしまったら?全ての夢が、良いことである可能性なんてどこにもない。仮に予知できたとしても、そこに至るまでの過程はわからない。そんなものが、いったい何の役に立つというのだろう。

「浮遊の魔法特性を狙った可能性はありませんの?」

「それは俺も考えた。浮遊。大地の記憶(アーステイル)の派生形と考えられている魔法特性だ。大地を操り、それそのものを浮かび上がらせる。山をも浮かせることが出来るほど、強力な能力だ。本人の魔力量に比例するが。その実態は、雷属性の魔法だと考えられている。磁場、という力が働いているそうだ。」

要するに磁石の反発力のようなものだろう。科学の存在しないこの世界で、磁場という力を見出したのは大したものだ。

地面を隆起させるだけでなく、陸そのものを浮かび上がらせることが出来るのは、正しく浮遊と呼べるだろう。そこに人を乗せれば、疑似的な飛行魔法と呼んでも差し支えない。空を飛ぶ術が確立されていない現状では、制空権を取れる貴重な力だ。

「浮遊の魔法特性は、アルハイゼンでなくとも持っている者はいる。偶然アイツが死に、手に入れ易かったとも考えられるが、俺はそんな偶然を信じるほど、楽観視はしない。」

「私もよ。」

敵は、私たちが想像しているよりも遥かに長期的な計画の末、行動している。魔力の固形化実験に携わった3人が、アルハイゼンの死をきっかけに動き出したのであれば、3年もの優位を取られているのだ。

「エルド、もう一度確認しますけど、アルハイゼン自身が、自分の力を予知夢と言っていたのですね?」

「ん?あぁ、そうだが。」

だとすると、アルハイゼン自身もその力について、何も知らなかった可能性もある。単に名前として相応しい言葉が予知夢、であっただけで、実際はもっと明確な何かであった可能性がある。

それこそ、剣術の時の話だ。彼は、夢の中に白髪の青年が現れるといっていた。その青年が剣を振るう姿を何度も夢見ていたと。

私は、それが、何か鍵を握っているんじゃないかと考えていたのだ。



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