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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第六章 新世代の争い
138/153

遅い

クレスの言う可能な限りの準備というのは、モルコム騎士長を始めとした、ブリジット守護隊や、移動のための馬たちの確保。その他物資諸々。埃臭いブリジット渓谷でも、新鮮な果実や、さしの入った干し肉みたいなものまで、意外と集まるものだ。ていうか普通においしそう。

空が明るくなってから数時間、エルドリックは渓谷街へ帰還した。帰ってすぐに、私はエルドリックがいない間のことを話した。そして、あの全てを見透かしたような顔で、俺にダメ出しをしてきた。

「モルコム騎士長、招集はいったん中止だ。少数の哨戒班だけを編成し、待機せよ。」

「はっ。」

「どういうつもりですか?エルドリック。」

彼は、大忙しで動く守護隊の動きを完全に止めさせたのだ。

「ロウ、君はどうにも直情的に動く人間なのだな。目の前のことを放っておかないその性は、今後、君自身を苦しめることになるぞ。」

「説明はしてくれるのでしょうね?」

「もちろんだ。」

知っているけど、やはりこの顔は腹が立つ。それに、エルドリックの後ろでずっと控えている、身なりのよい女性は誰だろうか?王城へ行って、女をひっかけてくるとは、いいご身分だ。ただ、私は彼女を知っているような気がするのだが、思い出せなかった。

「説明の前に、少し休ませてくれ。王領山道は、なかなか整備されてはいるものの、ああも急いで降りると、体が痛む。」

エルドリックはそう言うと、外套を脱ぎ捨てながら、私室へ向かってしまった。

「・・・まったく。それで、貴方は?」

私は、とりあえず、エルドリックの愛人のような女性に目を向けた。どこかで会ったことあるような気がするのだが・・・。ダメだった。

「あっ、えと、わたくしは、・・・。」

突然振られて驚いたのか、彼女は自分の前髪をかき分け、軽く身なりを整えていた。仕草からして、貴族か帝国王族であることは間違いないだろうが。・・・誰だっけ?

「お久しぶりでございます。ロウ・アダマンテ・スプリング嬢。」

「・・・あ、やっぱりどこかで会ったことある?」

「へっ?」

「ごめんなさい。覚えがあるんだけど、思い出せなくて。」

「あー。え?」

彼女は、かなり驚いている。驚きを通り越して呆気に取られていた。そんなに近しい存在だったのだろうか。

「シャルリエ・ブレンデットでございます。ブレンデット領、侯爵家の令嬢でございます。」

「ブレンデット・・・?」

「ロウ様は、お変わりないようですね。こういっては失礼かもしれませんが、相変わらずの高慢っぷりで。あ、いえ、その比喩的な意味です。えーっと。」

ブレンデットというのは、今しがた敵に狙われているという州ではなかっただろうか。その令嬢がどうしてここに?

「そう、そうでしょうか?自分では、大分変ったと思いますけど・・・。」

私はそう言いながら、毛先が桃色になりかけている御髪や、背中の翼を、左腕の惨状を見せてみた。シャルリエは、それについても驚いてはいたが、彼女は笑って済ましていた。

「本当にお忘れになっているのですね。覚えておいでですか?4年前の、次期王妃選定の決闘のことを。」

「まさか、あの時の?」

「はい。私のその時の一人です。まぁ、ロウ様からすれば、12人の内の一人としか認識にないでしょうから、記憶に薄いでしょうね。」

確かに、ブレンデット侯爵家の令嬢とは戦ったような気がする。実際決闘は8人と同時に行ったから、ほとんど覚えていなかったのだ。そもそも、名前と顔が一致しない。シャルリエの方は、随分鮮明に覚えているようだが。

「もっとも、一途な思いを向けていたのは、私の方ですが。」

「えっ?」

「ここへ来たのは、エルドリック様と共に来たのは、貴方様のお力になれるとお聞きしたからです。」

「あーっと、話が読めないんだけど?」

「大した話ではありませんから、いずれエルドリック様がご説明していただけると思います。」

どういうわけか、はぐらかされてしまった。ブレンデット。私の記憶が正しければ、あの複重魔法を制御して見せた令嬢だと思うのだが、にわかに信じられなかった。容姿は確かに面影があるように思えるが、背が低い。私より低い。年上のはずだが、そうは見えないから、余計実感がわかないのだろう。ぶっちゃけ子供に見える。


一休みしたエルドリックに呼び出され、件の話を突き詰めることになった。

「それで!エルドリック。なぜ出陣を止めたのか、じっくり説明していただけるのでしょうね!」

「ロウ様、落ち着いて・・・。」

隣で馬をなだめるようにドウドウするシャルリエは置いておいて、椅子にふんぞり返るエルドリックに私は詰め寄った。

「シャルリエ殿、彼女とあいさつは済んだか?」

「え?はい。こちらのことは、お構いなく。」

「エルド!」

しまいには机を力いっぱい叩いて、こちらにを向けさせようとした。エルドリックは気にも留めなかったけど。

「その呼び方はやめろ。あいつといい、君といい、どうしてそう人の名前を略したがる。・・・はぁ。とりあえず、シャルリエ。王城でのことを、ロウ殿に話してやってくれるか?」

読んでくださり、ありがとうございます。

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