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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第六章 新世代の争い
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出会ってしまった

魔導士の男は、街中を蛇のようにくねくねと逃げ回っていた。狭い路地に入れば、上空からでは確認するのは難しかったし、魔法で走る速度を上げているのか、人間とは思えない動きをしたりしていた。とはいえ、翼竜に乗っていれば、たとえ相手がヴァンレムに乗っていようが、見失うことはない。トンネルにでも入られなければ・・・。まぁ、この世界にトンネルを掘る技術なんてないんだけど。

男はクルルアーン主街区を抜け、今にも街を出ようという勢いだった。人や建物のない場所まで自ら移動してくれたことに感謝しないと。

「そろそろ追いかけっこも終わりにしましょうか。」


――― 行く? ―――


「行く!」

スノウと一心同体となって、大地へ向けて直滑降で突っ込んだ。着地の瞬間にスノウが大きく翼を広げると、生み出された浮力によって周囲の砂利、土が舞い上がり、竜巻を起こしながら、男の前に立ちふさがった。

「くっ。」

「どれだけ逃げようと無駄よ。あなたの高速の動きは魔法によるもの。いずれ魔力が尽きて、走る体力も無くなる。人を乗せても半日は飛び続けられる翼竜から逃げられる道理はないわ。」

この場で再び魔法戦闘に持ち込まれても、スノウの速度と甲殻があれば、負けることはないだろう。

「降伏か、死か。好きな方を選びなさい。生憎あなたの素性に興味はないわ。前者を選べば、拷問にかけるようなことはしないであげるわ。」

「はっ、潔く捕まれってか?まだ、お前に負けたつもりはねぇぞ!」

「斬」

たった一言の言葉から、彼の足の腱を切りつけた。男は悲鳴を上げながら膝をついた。

「私の魔力もそろそろ切れる頃だけど、次はあなたの心臓を貫く。脅しじゃないわ。余計な事せずに、その腕に巻いている触媒を外しないさい。」

男に与えてた傷は、命を脅かすほどのものじゃない。だが、もうまともに走れはしないだろうし、精神的苦痛は相当のものだろう。私としては男を殺すつもりもないし、拷問だってしてやってもいいんだけど、彼がハート存在かどうか、確かめる必要がある。できるなら殺さずにとらえておきたい。

「・・・おとなしく捕まる気になったかしら?」

「そ、そんなもの、俺に選択肢なんて、ないじゃないか。」

「よくお分かりで。なら、そのまま・・・。」

「なら、僕が第3の選択肢を与えてやろう。」

「!?」

知らない男の声が、どこからともなく聞こえてきた。周囲を見渡しても、人影らしきものは見当たらない。だが、こんなことは前にもあった。以前は触媒となっていたアイテムが周囲に会ったけど、今はそんなすらない。つまり、術士は近くにいる。見えないだけで。

「・・・幻影の帯(ファントムベール)・・・。」

「そうさ。よく覚えていてくれたね。こうして会えたのが、ほんとうにうれしいよ。あ、君には見えていないだろうけどね。」

声も、口調も、よく覚えている。城の中で、宣戦布告をしてきた、あの声だ。

「・・・わざわざ私の前に現れてくれたということは、以前言っていたように、私の心臓を奪いに来たのですか?」

「あぁ、そういえば、そんなことも言ったね。ふっはっは。確かに、君の心臓はとても魅力的だ。それがあれば、この世を制することだってできるだろうさ。・・・でも、面白くないな。」

「面白くない?」

「僕はただ、その魔導士を回収しに来ただけさ。珍しく実験が成功した貴重なサンプルだからね。」

実験、サンプル。彼の言葉使いは、あまりにも人を物としてみなしているが、この際のそんなものはどうでもいい。彼から逃げ延びることが出来るかはわからないが、出来る限り情報を引き出さなければならない。

「随分素直に話してくれるのですね。」

「今更隠したってしょうがないだろ?あ、そうそう。子供たちを助けてくれてありがとうね。あの子たちはもう用済みだから、君の好きにするといいよ。」

「子供?児童保護所の子たちは、既にあなたの実験体だったということですか?」

「いいや、あの子たちは、とりあえず使えそうだから面倒見ていただけさ。児童保護所も、実験場も、もう僕には必要のないものだからね。」

つまり、あの火災は彼か、彼の手の者の仕業というわけか。証拠隠滅、あるいは本当に要らなくなったから、捨てたという線もあるけど・・・。

「それで?わざわざ相まみえに来たのですから、私に何か言いたいことでもあるんじゃないですか?」

「うん、さすがだね。姿が見えていないのに、こっちの思惑が見透かされているようだよ。まぁ、大した用事じゃないんだけどね。以前と同じように、ちょっとした忠告をしに来たのさ。」

「・・・。」

「ロウ・アダマンテ・スプリング。僕はこれから、ある貴族を潰しに行くよ?」

「どういう意味ですか。」

「あ、行くって言っても、僕が直接行くわけじゃないけどね。ふふっ。だから、前みたいに止めてみなよ。」

まるで子供だ。要は遊びに付き合えということだろうか。前もそうだった。シルビアの危険を自分で知らせておいて、現に私が阻止しても、そのあと何もしてこなかった。引き際がいいのか。それとも本当に気まぐれで狙っているのか、あの時はわからなかった。だが、今こうして再び同じことを言われると、焦りより苛立ちの方が優ってくる。

「ブレンデット侯爵家。君は覚えているかな?」

ブレンデット?・・・どこかで・・・。

「夜が明けてから10日の内に、彼の侯爵家には、僕の軍隊が向かう手筈になっている。」

「軍隊?」

「僕が作り出した、魔導士たちだ。総勢3564人の魔導士だ。」

馬鹿げてる。何が皆殺しだ。それだけの数の魔導士を既にそろえているというのは、にわかには信じがたい話だけど、児童保護所の実験記録を考えれば、1000人はいてもおかしくはないだろう。

「君なら、止められるだろう?」

「・・・止めて、どうなるというのです?」

「どうなる、というより、君の中で、止めない、という選択肢は存在しないだろう?」

「貴族が潰れることに、私が一々頓着すると?」

「ああ。君は間違いなく、止めに来るよ。賭けてもいい。」

相手の思惑が全く読めなかった。わざわざ犯行予告をして、私にそれを阻止させる意味が分からなかった。そんなことをして何になるというのだろう。

「まぁ、楽しみにしていなよ。怪物になったお姫様。」

・・・怪物、ということは、私の姿は見えいているはず。魔導士の男は、じりじりと下がって言っているが、声の主がどこにいるかはわかっていないようだ。だけど、魔導士の男の魔法触媒が、ひとりでに輝きを放っているのを見逃さなかった。見えている、というのは間違いないだろ。ただ、声の主はここにはいない。少なくとも肉体はない。彼の魔法触媒を使って私に接触してきている。

「随分、ふざけた挑戦状ですね。いいでしょう。あなたの思惑、乗ってあげましょう。」

「うんうん、いい返事だ。ロウ・アダマンテ・スプリング。じゃあ、楽しみに待っているよ。あ、この魔導士は、連れていくよ。一応、僕の軍隊だからね。空間を超越せよ、物質転送(スループ)。」

今なんて!?

「待ちなさい!その魔法は!!」

「おっ、ぐおわぁあああ!」

声の主の詠唱で、魔導士の男は突如として現れた空間の渦に飲み込まれていった。転送魔法の一種であることには間違いないけれど、本来、物を運ぶための魔法を、人に使うだなんて。

「なんてひどいことを・・・。」

その名の通り、物質を転送するための魔法だ。歴史的に見ても、事故の多い魔法で、誤って空間の渦に飲まれた人物が転送先で意識を失ったまま、一生目を覚まさないという事例が報告されている。肉体は無事でも、物言わぬ抜け殻となってしまうのだ。

あの声の主が、エルドリックの言っていた、三人の中の一人なのか。それすらも確かめることも出来なかった。ただ言えることは、私たちが敵と呼んでいる連中が、想像以上に外道を貫いているということだ。児童保護所での実験も含め、彼らは他人を傷つけることをいとわない。子供道具のように扱い、成功して魔導士にさせられた者も、ああして無下に扱う。そんな奴らが、帝国を乗っ取ろうとしたら・・・。


――― 帰ろう。ロウ。 ―――


「ええ。ブリジットに戻りましょう。すぐにでも、ブレンデットの侯爵州に向かわないと。」


読んでくださり、ありがとうございます。

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