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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第六章 新世代の争い
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名もなき小人

俺が地下から送られてくる噴水の水を汲み始めると、シャルリエは不思議そうに隣で立っていた。

「ところで、深水をどうするおつもりなのですか?」

「ああ。魔晶石に加工して、実験を行おうと思っている。」

「実験?ですか。」

彼女は首をかしげていたが、ここで説明したところで理解はできないだろう。

魔晶石は、砲弾にも使われる人工物だ。その素材には、深水のほかにも孔石と呼ばれる細かい穴が開いた鉱物が使われる。そっちは安価で平民でも買えるような日用品だ。とにかく深水の供給源が欲しいのだ。できれば階へ転送している、深水が湧き出る発生元へ行きたいところだが。まぁジエトは好きにしていいといっていたから、文字通り好きなだけ頂くとしよう。

「光と闇を繋ぐ回廊よ開け。異次元の通り道(グライトホール)。」

俺は噴水から伸びている水路の一つに手を突っ込み、魔法を唱えた。異次元の通り道(グライトホール)は空間同士をつなぐ、転送魔法とはまた違った系統の魔法だ。とはいえ、これでは深水が異空間へ流されているだけなので、後ほど出口を作っておかなければならない。

「よ、よろしいのですか?」

「陛下から許可は得ている。さすがにそこまで勝手をするわけにはいかないからな。」

さて、これで王城でやるべきことは済んだ。クルルアーンへ戻って潜入したロウから情報を得たいところだが、シャルリエのこともあるし、少しばかり貴族会議の様子を覗いておくのも悪くないだろう。

「さて、シャルリエ殿。これから貴族たちが集う大広間へ行こうと思うのだが、一緒にどうだろうか?」

「それは、思ってもないことですが・・・。」

「なら少しばかりエスコートさせていただこう。そして、君の行く末を見させてもらうとするよ。」

俺がそう言うと、シャルリエは片手を差し出してきたが、生憎これを受け取るわけにはいかない。どう答えたものかと苦笑いを浮かべると、何かを察したシャルリエが、顔を赤くして謝罪をしてきた。

「も、申し訳ありません。エスコートと仰ったので、手を引いてくださるのかと思って。」

「いや、これは俺が悪いな、生憎婚約者がいる身でね。悪く思わないでくれ。」

まぁ、その婚約も怪しいものだが・・・。ロウは帝国のためにと、俺との縁談を受けるといっていたが、俺はよく知っている。今の彼女が、政略結婚など決して受けない女であることを。かつての彼女であれば、信じたかもしれない。だが、アルハイゼンと出会った彼女は、もはや、愛のない結婚など、受け入れはしないだろう。

「それでは、行こうか。」



大広間には、その名の通り大きな社交界場だ。周りには無数の小部屋が備えられていて、いつでも貴族同士で私的な会話ができるようになっている。だが、今回の貴族会議は、そう言った縁談話等は一切行われていなかった。帝国議会からの通達により、現王家であるリンクスに忠誠を誓う儀が行われていたのだ。儀と言っても血の誓いのような、魔法的なものではなく、書面と献上品によって行われていた。献上品というのは、王家に対する、自家の担保を送るという意味がある。その家にとって大切なものを王家へと預けることで、信頼を確かなものにしようというものだ。場合によって、自分の子供や後継ぎを献上することで、真なる忠誠を誓う家も、かつては存在したそうだが、生憎リンクスは養子をとる気は無いし、今の実力主義の社会で、それは許されないだろう。

既にいくつかの、家が献上品を差し出し、忠誠を誓った家系があるようだ。彼らは、どういうわけかまるで英雄のように称えられている。たんにやるべきことをやっているだけで、別に褒められることではない。まぁ、そうやって士気を高めるのは、必要なことだ。自分たちがしていることに意味を見出せなければ、忠誠はすぐにでも崩れていくだろうから。

「君も、早いうちに行くといい。」

隣で、大広間の光景を覗いているシャルリエは、怯えいるようだった。まぁ、これだけの権力者のど真ん中へ進み出て、私は裏切り者の娘ですと、告白しなければならないのだ。

「引き返すなら今の内だ。今からでも父親の元へ戻って、説得なりなんなりすれば、あるいはまだ希望があるかもしれない。」

「・・・いえ、父は盲目になりました。今やるべきは、帝国の問題を解決すること。そのために、私は自分の力を、正しく使いたいのです。」

彼女はそう言って、震える足取りで、前へと進み出た。

「いざという時は、俺も割って入ろう。」

「いいえ。お構いなく。」

どうやら覚悟は本物のようだ。さて、彼女の実力はいかがなものだろうか。


献上品を取り扱っているのは、クリスハイトだった。この場は彼が指揮をとっているのだろう。前へ進み出たシャルリエは、多くの観衆の目に晒されている。もう後戻りはできない。この大観衆の中に、彼女を知っている者がどれくらいいるだろうか。シャルリエは今、名もなき小人しょうじんだ。うら若く、力も弱く、権力もない。だが、彼女の言葉を借りれば、己が道を切り開くためには、言葉に真を宿し、行動に移すべき、だそうだ。あながち間違いではないが、それを言えるのは、相応の力がある者が言える言葉だ。現実的に、誰でも志があれば名乗りを上げられるほど、世の中は甘くない。ただ言えるのは、窮地に追い込まれた人間は、そんな言い訳を並べる暇はない。力無き小人は、例え平凡な人間を相手にするのだって、常に巨人を相手にしているようなものだ。




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