真実の在処
王城でやるべきこと、その1。とある禁書の回収である。
「それって、確かあの子が王妃教育を受けていた時に漁っていたものね?」
やはり、フィリアオールは知っていたようだ。だが、今ここでロウ自身を匿っていることを話すわけにはいかない。それとなく嘘をついて、これを聞いている者たちに、情報を与えないようにしないといけない。
「彼女、ロウ殿は多くの魔法を駆使して、問題に対処していました。彼女の原点を知っておきたいのです。」
「それは構わんが、・・・そなたでは禁術を使いこなすのは無理ではないのか?」
「別に俺が使うわけではありませんよ。知識として持っておくことで、誰かに伝授することは出来ましょう。もっとも、俺が使えればそれに越したことはありませんが。」
おそらく無理だろう。おおよそ、彼女の魔力量と、才覚あって完全に行使できる魔法だろう。個人的に興味があるけれど、実際に目にしたこともない魔法を、魔導書を呼んだだけで扱えるほど、自分の能力がないことはわかっている。
目的は単純。それを彼女へ届けることだ。どれくらい彼女に力を授けられるかはわからない。だが、彼女に力を授けるには、他に心当たりがない。翼竜に、彼女の魔法のルーツである禁書。それだけでこの難局を乗り切れるかはわからないが、必要な物は全てそろえるべきだ。
王城でやるべきこと、その2。深水の調達だ。
「泉の階にある、転送魔法を少し利用させてください。深水をいくらか使いたいのです。」
「・・・魔法触媒でも作るのか?」
「ええ。今後の戦いに備えて、ストックは多い方がいいでしょう。」
「そうだな。転送魔法については、どうこうすることは我にも難しい。だが、泉の階から採取するならば、好きにするといい。」
僅かな動揺。目の瞳孔が揺れた。あまりにも突拍子な申し出に、少しばかり警戒されたのかもしれない。ジエトにとって、俺自身も敵か味方かを探るのは当然だ。この時期に、こうしてわざわざ出向いた甥っ子が、敵ではないと信ずるのには、親族の情だけでは足りないだろう。
王城でやるべきこと、その3。これが最も重要で、ジエトか、あるいはフィリアオールしか知らない事実だ。それを素直に聞き出せればいいのだが、話してくれるかは賭けだ。これを聞けば、もはや何を疑われても仕方がないが、それだけに重要なことなのだ。
「最後に一つ、陛下たちにお聞きしたいことがあります。」
「・・・。」
「王子殿下、・・・アルハイゼンの墓は、どこに隠したのですか?」
「・・・・・・エルドリック、そなた・・・。」
「怪しいと思うなら、すぐにでも護衛のものに、俺を拘束させて構いません。」
当時から今日に至るまで、誰もこれに関して、言及はしてこなかった。そもそも王家の墓は、歴代の王族たちにしか知らされておらず、他言はされていない。だが、アルハイゼンが亡くなってから、正式な葬儀は一回も行われていない。親族のみで、ひっそりと行われた、と公にはされているが、それ自体異例なことだ。王族でなくとも、権力者の葬儀は、相応に大きく執り行われるものだ。だが、その頂点に至るアルハイゼンの葬儀が行われなかった。まともな思考があれば、何かしれれたくないことがあった。知られてはいけない事実があると考えるのが自然だ。
「それを聞いて、そなたはどうするつもりだ。・・・何を企んでいる?」
「企みなどはありません。俺はただ、敵が何をしようとしているか。それを確かめているだけです。」
「敵、だと!?そなた、何を知っている。なぜ我々にあの話を聞きに来た!」
あの話、と口を滑らせたのか、思わず出てしまったのか。どちらにせよ。やはり、アルハイゼンの死について、あるいは遺体については、何か裏があるようだ。
「陛下、俺は、ただ誰もが疑うことを、言葉にして問いただしているだけです。そして、それを知ることで、いろいろと繋がるのですよ。」
「繋がる?エルド、貴方、何か良くないことをしようとしているんじゃないでしょうね?」
「ご安心ください。フィリアオール様。俺はただ、アルハイゼンの遺体の在処を知りたいだけです。神聖な亡骸に、手を出すようなことはしないと約束しますよ。」
そう言っても、二人はなおも俺のことを疑いの目で見ていた。なにせ、個々には俺たち以外にも、護衛が多数いるのだから、彼らにも何か裏があると話してしまったも同然だ。
「・・・一つだけ、話せ。エルドリック。そなたは、我らの敵か?」
「・・・それに答えたところで、陛下の疑いが晴れるとは思えませんが・・・。答えは至って簡単です。俺は陛下の敵でも味方でもありません。」
「なに!?」
「俺はただ、帝国の未来のために動くだけです。それを守るためならば、例え陛下やフィリアオール様であっても、説き伏せて見せましょう。」
俺の目的はただそれだけ。それを言えば、信頼してもらえるとも思ってはいない。だが、言葉の通り、ジエトやフィリアオールに反対されようと突き進むだけだ。
だが実際には、二人はなんだか呆れたような表情になっていた。
「はぁ、そなたといい、ロウといい。どうしてこうもう同じことを言うのか・・・。」
「本当ですね。頼もしさを通り越して、可笑しくなってきました。」
「ん?」
「よい。全て許そう。そして、アイツの遺体についても、話しておこう。皆、済まぬが一時部屋を開けてくれるか。誰も部屋に近づくな。周囲の人払いも頼む。」
ジエトがそう言うと、護衛の者たちは、何も言わずに部屋を出ていった。宰相のクリスハイトの指示で動いているらしいが、ここまで従順ならば、よからぬことも起きないだろう。全員が出ていった後、念をおしてフィリアオールが静寂の魔法で部屋中の音を内側に遮断した。
「これでいいだろう。」
「陛下、俺は、何も考えなしに、疑ってかかったわけではありません。ある程度の情報をもとに導きだしただけです。そして、俺の推測が間違っていなければ、アルハイゼンの遺体は、どの墓にも埋葬されていない。何者かに盗まれたと考えていますが、いかがでしょうか?」
「・・・・・ああ。そなたの言う通りだ。」