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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第六章 新世代の争い
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再臨のために

人にはそれぞれ役回りというものがある。才能あふれる王子であれば、次期国王を担い、名家の公爵家に生まれれば、その使命を果たさんがために。人それぞれに役回りがあるだろう。

俺にとっての役回りは、帝国の未来を守り、帝国を導く王の力になることだ。



貴族会議。帝国においてそれは、全20の貴族や帝国王族らが一堂に会し、華やかな社交会に興じながら、それぞれの野望を果たすために様々な策を巡らす、表裏のある醜い集まりだ。時に自分の娘を嫁がせ、時に家同士で目の敵にしている権力者を陥れ、時に新たな産業を興すために高らかに名を上げたり。そうやってこの帝国は、繁栄を繰り返し、今に至ってきた。醜いとは言うものの、なんだかんだこの国は、そういう行いに意義を唱えてこなかった。自家の勢力拡大も、謀略で目の敵を潰すのも、事業を広めるのも、全部帝国の繁栄のためだと詠っていた。

だが今回開かれた貴族会議は、普段のそれとは違う。今帝国で起きている惨状を知っていれば、誰も彼も、緊張した面持ちで、この王城へ集まっているだろう。国王であるジエトは、既に貴族や帝国王族の中に、敵、あるいは裏切り者がいることを知っている。ジエトは、貴族らに、お前たちは帝国の敵か味方か、という圧をかけているのだ。

当然王城には、招集された全ての貴族、帝国王族が集まっていた。広い王城の中とは言え、これだけの家が集まると、少々狭苦しさを感じるものだ。どこへ行っても、どっかの従士や侍女らが、慌てふためいており、どこもかしこも、礼服や正装に身を包む者たちでいっぱいだった。

そんな者たちの間をかけ分けながら、俺は、王家の宿舎へ向かっていた。王城の離れの上層階。子供のころは、よく出入りしていた、懐かしい場所だ。10になる頃には、自身でやりたいことが出来たため、あまり来なくなってしまったが。ジエトも、フィリアオールも、謁見を申し出たことに喜んで応じてくれたのはありがたかった。

「ここまでいい、エレノア。クルルアーンから連絡があったら、すぐ伝えてくれ。」

「はい、ごゆっくり。エルドリック様・・・。」

謁見というより、親族として招かれたため、二人が待っていたのは、王家の私室だった。

「陛下、フィリアオール様、エルドリックです。」

「・・・入れ」

中からの扉が開かれるのを待って、俺は二人が待つ私室へ入った。中には数人の従士と侍女、もとい、護衛たちが控えていて、かなりの厳戒態勢が敷かれているのが一目でわかった。もっとも、二人がこちらに向ける視線に敵視はなく、懐かしい叔父と叔母としての優し気な表情だった。

「久しいな、エルドリック。さぁ、座ってくれ。」

「失礼します。」

既にテーブルには熱い紅茶が入れられていて、そのカップからも、懐かしい香りが漂っていた。子供のころよくアルハイゼンに連れてこられて、その旅にフィリアオールが入れてくれた甘みの強い茶葉だ。

「陛下、このような事態に、こうして話をする機会を与えてくださり、感謝いたします。」

「なに、気にするな。数少ない家族の申し出だ。断る理由などなかろう。」

「これだけの護衛を傍に置いているのですから、さぞ、息が詰まることでしょう。」

「我も好きでこうしているわけではない。」

そういうジエトの表情は、年の衰え以上の疲れが見えた。城内で襲撃者があったことから、国王をはじめとする、重鎮達には、必要以上の護衛がついているはずだ。ジエト等も当然魔法特性を筆頭とした現役の魔導士だ。剣術の扱いにも長けているから、自身の身は自分で守ることはできるだろう。だが、そうは言っても、一人の人間だ。人間は、一人でなんでもできる生き物ではない。国政を担うジエトの心労による隙は、敵にとって絶好の機会だろう。

「陛下、単刀直入にお聞きします。今回の貴族会議についてです。」

「ああ。わかっている。今回の一連の事件。もはや手段を選んではいられん。我はこの機に、貴族や帝国王族たちの立場をはっきりさせる。そして、帝国の総力を結集して、北部戦線、魔獣退治、そして暗躍する、敵勢力を打倒するつもりだ。」

言葉の上では簡単な話だ。血の誓いでもなんでも使って、貴族たちを従わせれば、少なくとも、裏切りを阻止することはできるだろう。問題は、今の帝国の総力が、事態を収拾する力に値するかどうかだ。

「具体的には、どのように対処するおつもりでしょうか。現状、北部戦線は、戦線の維持に成功しているようですが、魔獣に関しては、どこで何をしているかはわかりません。探し出すのも一苦労になるはずです。」

「だが、これ以上ピスケスのような街を増やすわけにもいかない。そなたは聞いているか?あの街の悲惨な状況を。」

ある程度は、ロウから話を聞いてはいたが、今は首を横に振っておくことにした。

「出陣したテレジアのフロストの報告によると、中は既に魔物化した臣民で溢れかえっていた。解呪しようにも、襲い掛かる臣民を退けながら行わなければならない。魔導師団と騎士団が同時にことに当たっても、数百人を救い出すのが限界だったのだ。」

「今、ピスケスは?」

「フロストに一任している。可能な限り戦力を使ってピスケス周辺を封鎖している。領域魔法で街全体を覆って物理的な封鎖はしているが・・・。魔物となった者たちを救うことは、もはや叶うまい。」

隣で話を聞いていたフィリアオールが、僅かに眉根を寄せる寄せたように見えたが、すぐにあきらめたように元に戻った。ジエトのその言葉は、臣民を助け出すということをあきらめると明言したようなものだ。

「霊子解放の領域魔法を使っているのですか?」

「ああ。だが、魔獣の鱗粉には効果があるようだが、魔物化した人々を元に戻すには、もっと高度な魔法が必要なようだ。実際、一次接触では魔導師団にも大きな被害が出てな。指揮をしていたフロストも魔導士を庇って無茶をしたようだ。今は、前線を下がっている。」

ロウから聞いていた話よりも、事態は深刻そうだ。そうなれば、ジエトが臣民の命をあきらめるのもやむを得ないことだろう。そもそも、襲い掛かってくる相手を助けようとするという行為自体、精神的に辛いものがある。現場の士気が下がり、事態は悪くなる一方だ。

「ピスケスは、魔導師団が抑えた。ウンウォルに任せた騎士団は、今魔獣の行方を追っている。」

「騎士団では、おそらく魔獣の相手は難しいでしょう。」

「わかっている。あくまで動向を窺っているだけだ。そちらからは、まだ報告は上がっていない。」

街を覆うほどの魔獣ならば見失うことはないだろうが、うっかり近づきすぎて、自分たちまで魔物化してしまっては意味がない。そもそも、かの魔獣は姿を透明にできるとのことだ。そうなれば、騎士団とて手出しできないだろう。

「我々には、今すぐ出せる戦力がない。だからこそ、貴族たちを招集し、可能な限り魔法の使い手を駆り出すつもりだ。」

「・・・それは、ある意味、陛下には打つ手がないと、知らしめることになってしまうのでは?」

ジエトの考えは理解できる。だが、今弱みを見せてしまえば、敵に付け入る隙を与えるかもしれない。

「かまわん!既に臣民の命が奪われているのだ。もはや手をこまねいているわけにはいかない。いずれ我も戦場へ出る。」

「王城の守護はどうするのです?」

「城はクリスハイトとフィリアオールに任せる。それに守るべきは王城ではない。帝国の臣民だ。」

そう言い放つジエトの瞳には、強い決意が見て取れた。今回の騒動で、客観的に見ても、国王の責任問題は、免れないだろう。だが、ジエトにはもはや関係ないのだろう。

「・・・単身で動いていたロウも、行方不明となった。」

「・・・。」

「もうこれ以上、失うわけにはいかぬのだ。」

俺は、ジエト等とロウの関係性については、アルハイゼンから聞いている限りしか知らなかったが、どうやら彼らも、彼女を溺愛しているだろう。フィリアオールの目が、潤んでいるのがその証拠だ。息子を失った後に、その許婚であった娘まで亡くしては、こう躍起になるのもわかる。

敵はきっと、そういう痛いところついてくるはずだ。だから、その隙を埋めてやらなければならない。だが、俺にはその役はできない。それが出来る人物が、今、再臨するための力を得ようとしている。俺は、そのために王城へ来たのだ。

「陛下。陛下のお考えは理解できました。今回、俺がここへ来たのには、いくつかやるべきことが出来たからです。」

「やるべきこと、とな?」

そう。この国を救うために必要な物が、この王城にはある。

「はい。その許可を頂きたいのです。」



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