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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第五章 帝国のために
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回想3

・・・・・・彼女を救えたのは、運命だと思った。それでいて、彼女もまたアルハイゼンと同じ病にかかっているのも。だが、あの時とは違う、今は症状を緩和させる方法もある。完治とはいかずとも、みすみす殺させはしない。これ以上、この国必要な星々を失うわけにはいかないのだ。


俺がその存在に気が付いたのは、魔力の固形化実験を経てから数か月後のことだった。当時拠点にしていた、クルルアーンの外れにあるオオトリ街と呼ばれる地域で、従士から不穏な話を聞いたのだ。

「クルルアーン自治会が、児童保護所を作っている?」

「はい。身寄りのない子供たちに住む場所を与えるのが目的だそうで・・・。」

その時点で、俺は何かよからぬものが、このスラムに入り込んだことを察知した。

クルルアーンの自治会は、この街に住む大人たちが設立したもので、自治会の主な仕事は、街中での面倒事の対処を、住民たちと解決するための話し合いをすることだ。自主的に何かをする機関ではない。そもそも、そんなものを立てる大金をどこから集めたというのだ。井戸や厠など、公共のものならともかく、身寄りのない子供という限定的な者たちを相手に、自治区が動ける余裕はないはずだ。

「・・・自治会のコログ氏と対談できないか、話を通してくれないか?」

「はっ、かしこまりました。」

従士を使わしたところ、コログ氏は亡くなられていて、代理人となった息子のジニアル氏と話ができたのだが、ジニアル氏によると、自治会は大きな分裂を起こしているという。保守派と反逆派に。

反逆派。今あるクルルアーンの総力を結集して、この巨大なスラム街を帝国の一部ではなく、独立するべきだと考えた一部の人間が、今自治会を乗っ取っているらしい。現状維持の保守派はどうにかやめさせようとしたけれど、反逆派の裏にはどうやら強力なパトロンがいるらしく、彼らに追い出される形で、自治を奪われたという。

ジニアル氏ら保守派は、今もクルルアーンのために雑務のような仕事を続けているそうだ。実際、自治会がどうなろうと、クルルアーンの街は大きな影響を受けない。ただ、児童保護所には、多くのこともたちが集っているという。そこへ入れられる子供は、当然のように親族のいない子供たちだ。故に、誰かの許可を経て、保護所に入れられるわけじゃない。衣食住を約束されれば、問答無用で悪い大人について行ってしまうだろう。

従士を経ちを使って、そこで行われていることと、裏で手を引いているパトロンについて調べるとと、聞いたことのある名前が浮かび上がってきたのだ。

「・・・ルドゥサ・コーア、ミラノ・エイル、そして、ルルーク・アーステイル・リベリ、か。」

「その3人を筆頭に、彼らの参加の者たちが、街の中で数多く暗躍していました。このクルルアーン、何かをしようとしていることは間違いないでしょうね。」

筆頭の3人は、かつて魔力の固形化実験を行った者たちだ。ルドゥサは、帝国の防衛大臣、ノブナ・コーアの娘だ。また、生前だったアルハイゼンの取り巻きの中にも、彼女はいた。取り巻きと言っても、彼女は王家の雑務を取り締まる、宮内庁の人間で、床に伏したアルハイゼンの看護を任されていたのだ。

そして、3人の中で一番の曲者である、ルルーク・アーステイル・リベリ。アーステイル分家、リベリ家の次期家長である。能力や才能に関しては、相応に相応しい資質を持っている男だが、その性格は野心に満ちた危険な存在だ。実力主義の帝国に相手は、最も健全な思考だが、常識的に考えても、奴の家、リベリ家の残虐さは度を越していると言われている。

事実彼らは、有力な血筋を求めるあまり、一貴族と内紛を起こした前科がある。今から数百年前の話だが、その記憶は今でも引き継がれている。9つある、アーステイル家の中でも一際悪目立ちしている。関わりがたい分家として、帝国内では孤立している節がある。

「彼らは子供たちを集めて、何をしようとしているんだ?」

「そこまではまだ・・・。」

あの3人が集って指揮をしているならば、多かれ少なかれ、あの実験に関係する何かをしようとしているはずだ。魔力継承の秘密を知っている彼らが、子供を使ってあの実験の続きをしようとしていると。

非人道的行いとはいえ、ここはスラム街。下手に介入して、話をややこしくするわけにもいかない。あくまで俺は、エクシアの人間だ。見ず知らずの子供を庇護してやれるような立場ではないのだ。だが、彼らのやろうとしていること、その真の目的を知ってしまったら、黙って見てはいられない。子供たちに、魔力継承をさせて、使い捨ての魔導士を量産する。そして、その魔導士を作るために、より強力な魔導士を捕え、血や肉を奪い、材料にするのだ。それは、帝国の弱体化と、自陣営の戦力強化を図った巧妙な策だといえよう。材料となる、血や肉は、なにも生者から取れなくともいいのだから。



「薬の効果はどうだ、クレス?」

「はい。やはり、深水には天然の魔力が含まれていると考えていいでしょう。魔力、と呼んでいいかはわかりませんが。ですが、人の体に馴染むのは証明されました。」

「彼女の体温が正常に戻ったのは、魔力を補充できたからか・・・。」

「まだわかりません。経過観察してみなければ結論は出せないでしょう。」

アルハイゼンが死んでからはや3年。ようやくここまでたどり着けたのだ。完全な治療薬と呼んでいいかはわからないが、それでも彼女の体で試した結果、症状の緩和に成功した。ようやく、まともな治療を施せるようになったのだ。ようやく、ようやくここまでたどり着けた。

「・・・それにしても、こうもきれいに魔力が物質化したのは、初めてだな。魔力の純度に関しても申し分ない。できるならば、彼女の体を隅々まで調べたいところだが。」

「ですが、我々が行った左腕の蘇生は、成功とはいえないでしょう。腕自体は再生できましたが、血が通っておりません。やはり、天然の魔力では意味がないということでしょうか?」

「あるいは、彼女自身が魔力物質化を行えば、完全な肉体の再生を可能にするのかもしれないな。この翼のように。」

彼女に施したのは、天然の魔力を使った物質化だ。魔力は、生物以外にも溶け込んでいることがわかっている。その一つが深水だ。グランドレイブの地の底に湧き出ている特別な水だ。深水に彼女の血液を少量混ぜたものに、雷の魔法で電撃を流すことによって混合させたものを、彼女に飲ませたのだ。深水の魔力は純粋だ。何にも染まることが出来る無地の魔力だと考えれば、人の体に馴染み、魔力を補充することが出来ると考えたのだ。

「とにかく、今は目が覚めるまで様子を見よう。この翼についても、詳しく話を聞けるかもしれない。」

薬は完成した。だが、まだだ。まだ何も安心できるわけじゃない。それでも、彼女が何かを知っているという確信があった。彼女は間違いなく魔力物質化の魔法を習得している。彼女の背中から生えている、この美しい翼を見て、俺は興奮を抑えれらなかった。彼女がいれば、より多くの人を救えるようになると。


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