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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第五章 帝国のために
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議論

エルドリックの話は、彼の推測によるものだ。何か根拠を提示されたわけではないが、成否は重要じゃない。未知のものを知るためには、最初は推測から話始めなければならないものだ。

だが、彼の推測を煮詰めていく前に、エルドリックの思惑について知らなければならないだろう。

エルドリックは、血肉を取り込むことで、他者の魔法を継承できることを知っている。もしや、彼がハートたちを送り込ませた、張本人なのではないだろうか。可能性がないわけでもない。私に対して個人的な恨みを持っていてもおかしくはない。ただ、王城で私に幻影の帯(ファントム・ベール)で語り掛けてきた男の声とは一致しない。もちろん、魔法で声帯を変えることは可能だろうけど、わざわざ私と相対する理由はないだろう。私に宣戦布告した相手ならば、助けたりはしない。エルドリックは無関係なのだろう。

それでもまだ疑う余地のある人物だ。どうして私の体のことを知っているのか。知識があるからと言って、一目見ただけで他人の魔力を有していると判断できるとは思えない。どこかで私は、彼と接触しているはずだ。

「・・・どうして、私の体のことを知っているのですか?」

「君のことを、監視していたからさ。」

「監視?私の側には、貴方の従士は誰もいなかったはずですが?」

「いただろう?エルザが君のことを話してくれたんだ。」

まさか、エルザが?確かに彼女はエクシア家に仕える従士だ。エルドリックに対して隠し事はしないだろけど、彼女は今、自身の実家があるという、クルルアーンの近くの村に向かったはずだ。もしや、ここがそうだというのだろうか。

「・・・なぜ、そのような表情をする?まるで俺に敵対心を抱いているかのようだな。」

「・・・・・・以前の貴族会議でのことをお忘れですか?あのような不躾な使いを送ってきたというのに、私があなたに好感を抱いているとお思いですか?」

「そうか。そうだったな。君には説明しなければならないことがたくさんあるんだったな。」

私が彼ににらみを利かせても、彼はひょうひょうとしていた。まるで縁談のことなど気にも留めていない様子で、髪の毛をわしゃわしゃとかきながら、考えを巡らせているようだった。

「あの時のことは、謝らなければならないだろう。確かに俺は、君との縁談を望んでいたが、受け入れられるとは、初めから考えていなかった。あれは、俺の従士が事を強行しようとした結果だ。」

「部下のせいだとおっしゃるのですか?」

「いいや、部下の責任は俺の責任だ。許してほしいとは言わない。俺を嫌うなら存分に嫌ってもらって構わない。申し訳ないことをした。」

・・・・この男は・・・。

「そして、重ねて詫びを入れなければならないことがもう一つある。エレオノールで君の私室に間者紛れ込んだだろう?あれは、俺が指示した者だ。君の状況が、俺たちが望んだ存在に近しいものだったから、ひそかに調べようとしていたんだ。」

「・・・なら、貴方がクルルアーンで、スラムの子供たちを魔導士に仕立て上げている元凶ということですか。良くものこのこと私の前に姿を表せましたね。」

あの密偵が彼のものならば、彼は間違いなく黒だ。私はとっさに右手に魔力を込め、火の玉を作り出そうとした。威力も規模も小さい簡易魔法だけど、脅しをかけるには十分な魔法だ。

しかし、思ったように魔力を集められず、掌に火は起こらなかった。代わりに右手首から先に嫌な痛みが走って、私は魔法の発動をやめた。

「何か大きな勘違いをしているようだな。」

「勘違い?あなたが子供を金銭で釣って、私を暗殺するよう仕向けたのではないですか?」

魔法が打てなかった代わりに、私は彼を睨みつけていた。

「子供に心臓移植をして、魔導士に作り替えたのは、あのクレスという魔導士ではないのですか?私の、この食われたはずの左腕が元に戻っているのも、彼がやったのでしょう!」

左腕は方から先が明らかに肌の色が異なっている。誰かの腕をくっつけたと言われても驚かないくらいに、異様な姿だ。ただくっつけただけだから、私自身には動かせないのだろう。

「落ち着け、ロウ殿。あまり興奮すると、体に障る。」

「なら、弁明の言を話してもらいましょうか。あなたが黒ではないことを、証明できるのですか。このような所業ができる人物、帝国においても限られてくるでしょう。」

「はぁ、別に俺は逃げも隠れもしない。君は俺を疑っているが、俺は自分が白だろ言うことを知っている。確かに隠れて君を調べるようなことはしたが、誓って命を奪うような真似はしていない。

「それを、私に信じろと?」

「必要ならばいくらでも俺の話をしよう。まず第一に、俺は君が龍化と呼んでいる現象が始まったときから、君が魔力欠乏症になっていることを確信していた。当時は間者が失敗したが、あの時の僅かな情報と、エルザから聞いた話、そして現状を照らし合わせれば、それは間違いではなかったようだ。」

「あなたはこの現象を論理的に説明できると?」

「何が起こったのかを説明することはできるな。簡単に言えば、君はアレンという青年の魔力を偶然手に入れてしまった。そして、その魔力は君の体に馴染み、物質化現象が起きた。その翼が証拠だ。その翼に、君の魔力は通っていない。完全に異なる魔力で生まれた部位だ。」

これまた面白い推測だ。魔力の物資化を彼は知っているのだろうか。だとしても、それは証明材料にするのはいささか不十分だと私は思った。なにせ、魔力の物資化についての信憑性が無いからだ。

私はたまたま自身の体の異変を調べる過程で、魔法大学の資料を見つけることが出来たが、あの実験記録は、貴族の間で周知されているようなものではない。この帝国に、あのサードルという人物の記録があるということを知っている者は、いったいどれくらいいるだろうか。私があえてこの場で知ったかぶりをするだけで、彼の話を信ずる理由がなくなるのだ。

「君は、定期的に息苦しくなる発作に襲われていあそうだな。」

「エルザから聞きましたか?」

「ああ。あれは、君の体の中にあるアレンの魔力が枯渇して起こるものだ。そもそも、なぜ枯渇するのかという話だが、君の龍化現象は間違いなく魔法だ。翼や腕を龍の姿に維持し続けるだけで、永遠と魔力を消費し続けているのだろう。」

「私は、そんな魔法を使っていません。」

「自覚なく使っているだけ。厄介なことにな。君はアレンから魔力を分けてもらうことで発作を治めていた。そのような発作は、かつて魔力欠乏症にかかった者たちにも起きていた症状だ。彼らの場合は、その発作が起きた時点でほぼ助かる見込みはないとされている。回復する手段がないからな。」

「なら私は、もう何度も命を落としているということになりますね。」

「だが君は、魔力を受け取る術があった。」

「ただ唇を交わしていただけですが?」

「口づけを交わすことで、お互いに交換するものが、魔力以外にもあるだろう?」

「・・・まさか、唾液を?」

「唾液も人の体の一部だと考えれば、それも魔力となりうると思うのだが?」

確かに、唾液からも遺伝子は取れるだろうし、私の持論であれば、それにも魔力があると考えることが出来る。遺伝子というものをエルドリックが知っているかは置いておいて、遺伝子を取り組むことで魔力を得られるのだろしたら・・・。

「俺とクレスの考える、魔力欠乏症の発症の原因はこうだ。君は例外だが、かつての患者たちは、他人との口づけをしたのち、相手の魔力を消費してしまった。それによって、魔力欠乏症にかかったのだ。」

その理屈であれば、いろいろと辻褄が合う。恋仲や、夫婦関係になれば、口づけをする機会などいくらでもあるだろう。そのたびに人は、互いの魔力をいくらか好感してしまうということだ。それなのに、この病に発症した患者数が圧倒的に少ないのは、偶然相手の魔力を使ってしまったかに起因するからだ。この理屈を知らなくとも、自分が使ったことがない相手の魔法特性の魔法を発動しようとはしないし、発動することも出来ない。本当に偶然、魔法が発動してしまったために、この病にかかったのだとしたら、彼らが経てた仮説は、ある程度現実的な話になる。

「この方法で魔力を受け渡された場合、俺は新たな魔力の器が生まれると考えている。」

「魔力の器?」

「その名の通りのものだ。俺たち魔力を有する者には器があって、そこに湯水のように魔力が溢れているのだ。魔法を使うたびに水は減り、休むことでその水が再び増えていくのだ。」

「つまり、他人の魔力を受け取った場合、それとは別の器が生まれると?」

「そうだ。新たな器には、自然に水が注がれることはない。もともと自分のものではないからだ。」

「・・・お互いの魔力が混ざり合うとは、考えないのですね?」

「君はそう考えたのか?」

以前、背中の翼の修復にあたって、私は龍化していた左腕の皮膚を使った。アレンが龍の姿の体の一部を使って私の愛剣の繋ぎを作ったように、龍の肌を魔力として、別の形態へと物質化を行ったのだ。龍化した左腕はアレンの魔力で物資化したものだ。だから、剥いだ皮膚が回復するには、彼の魔力が必要になるはず。だが、人間の皮膚が自然ちゆするよりも早く、龍の皮膚は元に戻っていた。それはつまり、私の中でアレンの魔力が生成されていると思ったのだ。

「私の背中の翼は、今もなお羽が落ちたりします。普通に考えれば、次第に小羽根はなくなり、みすぼらしい翼になっていくはずです。」

だが、エルドリックに助けられて10日立っている今でも、翼は美しい姿を保っている。自由に動かすことだって可能だ。

「私が龍化と呼んでいるこの現象は、私と、アレンの魔力が混ざり合ってできたものでしょう。」

「ふむ、やはり君は例外だ。君のその推論も間違いではないだろうが、そのアレンに左腕を食われ、俺たちの推論の信憑性を高める証拠を見つけることも出来ないなんてな。」

彼は、見るからに残念そうな顔をしていた。彼の年齢は確か、私より一つ上だったと思うが、童顔でもないのに、やや子供っぽいのは、アルハイゼンと似ているところなのかもしれない。近しい血縁ならばおかしくはないけれど、なんというか、胡散臭く感じる。

「・・・はぁ、まぁ、あなたが私を救ってくれたことは間違いないのでしょう。私の体はこの様です。逃げる余裕も気力ありません。あなたが私をどうこうする気があるのだとしても、私に反抗する術がありませんからね。」

「その点はあまり気にすることはない。俺は、君と敵対するつもりはない。むしろ、死んでもらっては困るから、こうして命を救ったり、君が知りたいことを説明しているんだ。」

「ですが、貴方を黒幕ではないと断定できたわけではありません。」

「ふむ、ならばその黒幕についての話をしようか?」

黒幕について?

「今、この帝国を脅かそうとしている存在。北部戦線から漏れた魔獣以外にも、帝国内部に救う敵対者が何者なのか。その話をしようじゃないか。」


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