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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
閑章
104/153

親族に求めるもの

魔法決闘が終わった次の日。私は、アルハイゼンから、珍しく場所を指定されて茶会のお誘いを受けていた。何々を持ってここにこいというのは、彼の文から読み取るのは初めてだった。おおよそ、昨日の決闘についての話だろうけど、こういう誘い文句を知っているなら、初めからそうすればいいものを。そうすれば、私だってもう少し・・・。

彼の元へ向かうのはお昼時にすることにした。それまで必要な準備を整えて、ライラと共に彼が指定した、王城の裏庭に向かった。いつものリンクス家が所有する庭園ではなく、今回は公共の場だ。ということは、もう隠し通す理由がなくなったということだろう。

「アル。」

「おぉ、ロウ。来てくれたか。さぁ、座ってくれ。」

彼に促されるままに、私は向かいに座った。既に、彼の侍女が入れてくれた紅茶が用意されていて、珍しく準備がいいと思った。

「はぁ、どういう風の吹き回しですか?あなたが、こうももてなしてくださるとは。」

「あぁ、まぁな。あの後、母上に叱られてな。少しはお前を令嬢らしく扱ってやれと、言われて・・・。」

「その言い方だと、まるで今までは令嬢として扱っていなかった、みたいに聞こえるのですが?」

「いや、違う。そういうわけじゃない。ったく、性に合わないんだよ、こういうのは。」

そうだろうさ。女が喜んでいる姿を眺めるよりも、自分が楽しむ方を優先する男だ。とはいえ、慣れないことをしているくせに、やけにこなれて見えるのは、一応王族としての教育が成されているからだろう。

「それはそうと、大丈夫か?腕の方は。」

アルが心配しているのは、包帯でぐるぐる巻きになっている右腕のことだろう。一応魔法での治療を施されて、やけどの跡もほとんど消えているが、皮膚がひりひりと痛む感覚は消えていない。自分の魔法で自分を傷つけることは、よくあることだから、さして気にしていないけど。珍しくアルは心配そうな視線を投げかけていた。

「問題ありません。定期的な治療魔法を受ければ、元の腕に戻ります。」

「痛むんだろう?」

「無茶をしましたからね。でも、平気です。日常生活に、支障はありませんから。」

「・・・そうか。」

・・・本当に珍しい顔だ。責任でも感じているのだろうか?自分が始めた茶番によって、私が傷つくようなことになったことに、そんなに非を感じているのだろうか。

「・・・まぁ、確かにドタバタな日常ではありましたから、少し疲れました。」

「ん。・・・いや、もっともだろうな。俺も、お前の魔法には驚かされた。あんな魔法、俺も初めて見たよ。どうやって見出したんだ。」

「あれは、私の研鑽の成果ではありませんよ。」

「自分であみ出したわけじゃないのか?」

「・・・私は、魔法に関しては、方々から天才などと呼ばれておりますが、本当の天才なのであれば、禁術を自ら生み出すことも可能でしょう。私はせいぜい秀才です。」

天才と秀才の差なんて、どちらでもない人間からすれば、耳障りな話に過ぎないだろうが、実際に私は天才なんかじゃない。ただ才能があっただけで、努力で他人にできないことをできるようになっただけだ。本物の天才であれば、こんな風に右腕を自傷したりしないだろう。

「禁術?」

「・・・あなたのおかげです。あなたが、私を選んでくれたおかげで、王城の書庫への出入りを許されました。名目上は王妃教育のためですが、その中の禁書庫で、私は多くの魔法と出会いました。あれは、そのうちの一冊からようやく読み解けた禁術なのですよ。」

「王城の禁書庫か。俺も幼いころに一通り目に通したがな。あんなものをまじめに読み解く奇特がいるとは。」

「魔導書を読み解くのはお嫌いですか?」

まぁ確かに、あんな分厚い本を好き好んで読むのは、魔法に魅了された人物だけだろう。

「しかし聞いたことないな。デイ・ブレイクと、言っていたか?あんなの、自滅以外の何物でもないだろう。」

「しょうがないじゃないですか。初めて使ったんですから。」

「初めて!?」

これまた珍しく大きな声で驚くものだから、私も驚いてしまった。それに顔が近い。

「じゃあなんだ?初めて使う魔法であれほどの完成度と威力があったのか?」

「アル。近いです・・・。」

興奮気味のアルをとりあえず押しのけてから、一息つかせるために紅茶を一口啜った。

「んっん。普通、魔法は何度も何度も練習を重ねて、練度を上げていくのだと思うが。」

「ええ。それが常識です。規格外の力だったのは、あれが禁術だったからでしょうね。」

彼の言う通り、魔法の習得はぶっつけ本番で体得できるわけではない。地道な反復練習を重ねてようやくものにできる理だ。禁術でも例外ではない。ただ、練度が低い状態でもある程度の威力が保証されているのは、禁術故にだろう。

「そんなものを安々と使いこなせるお前は、やはり天才だと思うがな。」

「そうですか、そういうことにしておきましょう。」

正直言って、褒められている気はしなのだ。それに、天才と呼ばれてもうれしいとは思わない。私もただただ天才的にあの魔法を見出したわけじゃないからだ。

「そんなことはさておき、遅れましたが、私も手料理を持ってまいりました。」

朝から準備をして、わざわざ昼時を着たのは、手料理を振る舞うためだったのだ。

「おいおい、もう選定はやらないぞ?」

「いいじゃないですか。もともと作る予定でしたから、ちょうど昼食には良い時間だと思いますよ?」

ライラに声をかけ、いかにもなランチボックスを持ってきてもらった。この箱も、中身の料理も権力者が普段口にしている者と比べれば、安物扱いされても仕方ないくらい、平凡な品物だ。もともと料理は下手ではないけど、得意と言えるほど経験していないため、これが限度だ。

「私もお腹が空いているので、一緒に頂きますね。」

「・・・・・・。」

ランチボックスの蓋を開け、中に丁寧に詰められたサンドイッチたちを、アルハイゼンに見せびらかした。

「大したものではありませんが・・・。」

「ふむ、パンに食材を挟んだものか。にしても、随分種類が多いな。卵に、燻製肉、これはチーズか?野菜も赤、黄、緑と同じものがないな。」

「好みの味がわからなかったので、私が知りうるものは一通り作ってきました。」

私はそう言いながら、一番好きなベーコンとトマトのような赤い野菜、それと緑の葉物を一緒に挟んだ、なんちゃってBLTを頬張った。

「それがお前のお気に入りか?なら、まずはそれを頂こう。」

彼も同じものを手に取り、慣れない手つきでサンドイッチを食べ始めた。こうやって自分の手でものを掴んで食べるというのは、私たちのような人種には珍しいことだ。私は慣れているけど、アルハイゼンの食べ方はいかにも初々しかった。

「どうですか?」

「うん、うまいな。単に食材を挟んだだけかと思ったが、調味樹脂を一緒に挟まれているんだな?」

「素材だけでは味気ないと思いまして。調味樹液の扱いには苦労しました。」

この世界の調味料は、香辛料以外は、基本的に樹液を使う。いや、この国だけかもしれないが、塩や砂糖と言ったものを、使っているところを見たことがない。樹液に塩分が含まれていると知ったときは驚いたが、異世界においては今更である。

「調味樹液どころか、俺は料理のりの字もわからん。包丁すら握ったことがないんだ。素直に尊敬するよ。んむ。・・・うん、上手い。」

なんちゃってBLTを胃の中へしまった後も、彼はいくつものサンドイッチを頬張ってくれた。人に料理を振舞うなど前世以来だ。所詮自分好みの味付けしかできない一般的な料理人。庶民的な味で満足してくれるなら本望だ。

私も懐かしい味に食欲がそそり、普段よりもたくさん食べてしまった。紅茶のお代わりをもらい、口の中をすっきりさせた後、彼の裁定を待つことにした。

「いかがでしたか?」

「あぁ、上手かったよ。こういう、食材そのものを味わう料理もいいものだな。」

「それで?私は合格ですか?」

「あぁ、もちろんだ。文句なしだ。」

「即答ですね。そんなに気に入ったのですか?」

「俺は別に味の良し悪しを吟味しているわけじゃないぞ?今日まで幾度も令嬢たちが作った料理を口にしてきたが、正直言ってどれもうまかった。本当に本人が作ったかどうかは知らないが、俺にとっては誰が作ろうと重要じゃない。それに、例え味が悪くとも、俺は出された料理は残らず食べるのが流儀だ。」

「それじゃあ、この選定で何を見ていたのですか?」

「・・・ロウ、お前は最初からここで昼食を取る気でいたか?」

「はい?」

おかしなことを聞くものだ。これほどの量のサンドイッチをアルハイゼン一人に食べさせるのは無茶というもの。元から自分の分も含めてのことだ。

「・・・私の分も含めて作ってきたつもりです。もしかして、それがあなたにとって重要なことだったのですか?」

「あぁ、その通りさ。他の令嬢たちは、食事の席を設けてくれたが、誰一人食事を共にしてくれはしなかった。」

「・・・。」

「あえて何も言わなかったけどな。俺一人で彼女たちが作った料理を食す、寒い食卓だったよ。・・・俺の伴侶になるということは、この国の王妃なるということだ。だが、それ以前に俺とそれにふさわしい娘は、家族になるんだ。共に食卓を囲めない相手を、伴侶にできるわけがない。」

意外、というより、思惑があったことに驚きだった。単なる気まぐれで料理選手権を始めたと思っていたが、ちゃんとした理由があったなんて。

「私も、単に一緒に食事を済ませてしまおうと思っていただけですよ?」

「理由は何であれ、お前は俺と食事を共にすることが出来る者だ。それだけで合格と言えるだろう。」

つまり、他の令嬢たちは、いかにこの人を、料理で胃袋を掴むかを必死に考えていたのに、まったくもって見当違いだったということか。

「じゃあ、他の娘たちが私のように食事を共にしていたらどうする気だったのですか?」

「この選定で合格をもらったからと言って、俺の伴侶になれるわけじゃないだろう?そこで初めて選定のテーブルへあげられるだけだ。」

かわいそうに。私が彼女たちだったら面倒くさくなって、そんな選定からは逃げ出しているだろう。

「もう少し令嬢たちを、女として見てあげてはどうですか?」

「お前がそれを言うのか?そういう生意気な態度がなければ、少しは・・・・」

「どうせ私は生意気な小娘ですよ。」

「そういうところだぞ?」

小言を言い合えるのも、これまでの逢瀬の成果だろう。そう、私は既に彼から選ばれてしまっている。だが、今回の選定に参加した令嬢たちや、決闘を申し込んできた者たちは違う。例えどんな手段だろうと、自家のために王家の属家となるべく、必死なのだ。ある意味アルハイゼンは、彼女たちを弄んだと言えるだろう。私も含めて・・・。ただ、私は気にしないし、彼がそういう人だろうということはわかっているつもりだ。

しかし、同じ女として、内情を知らない彼女たちには、少しばかり同情している。別にアルハイゼンが悪いというわけではない。強いて言えば、この国のこういうやり方を恨むしかないのだ。

「ごちそうさまでした。また作ってくれよ。」

「お粗末さまでした。暇があれば構いませんよ。」


読んでくださり、ありがとうございます。

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