特訓パート
翌日、朝早くキョーコの部屋まで赴き報告を上げた。
硬貨の件もあったため、ヒョーカのいない場所で報告をしたかったのだ。
「そうか……転生元の世界の硬貨が……」
転生魔法を用いて異世界から物資を引っ張ってきている。これが資金調達の要であるという考えは、キョーコも納得するものであった。
「しかし、新技術の魔法を個人が使えるものとも思えない。おそらくは大掛かりな転生装置や異世界とのワープポートのようなものがあるはずだ」
魔法の世界といってもなんでも個人でできるわけではないらしい。
大掛かりな魔法はあくまで複数人での研究の元、機械や装置によって行われるようだ。
「ありゃ、もう来てたのか~」
ヒョーカが遅れて入ってくる。ひらひらと持っている用紙は報告書のようで、この時間までに報告書をまとめていた。仕事が早いことも諜報員としては大切な要素なのだろう。
「さて、それでは今後の方針を会議しようか」
キョーコはそういうと手元のデバイスを操作する。目の前にスクリーンが映し出され、魔法というよりも近未来的だなと感じていた。
昨日の事務所の場所が地図にあらわされ、事務所にいた男たちについても顔写真付きで映し出されていた。
「男たちの身元は現在調査中だ。現地には調査員が交代で張り込みをかけさせる」
キョーコから現状が説明される。事務所の張り込みを自分たちでしなくてもいいというのは意外だった。
「適材適所だな。簡単な捜査は下のものでもできるが、やはり潜入などであれば熟練の者出ないと厳しいよ」
全く熟練していないんだが……捜査してよかったのだろうか。
「しかし、末端の事務所だけ張ってても情報は薄いでしょうね~」
ヒョーカが会話に参加する。
「幹部が事務所に現れるかもわからないですし、誰が新魔研の人間かも我々はわかってないですからね~」
確かにこのまま張り込みだけしていても情報は薄いのかもしれない。
「だからもう一度事務所に乗り込もうと思うんだよね~。キョーコさんはどう思いますか~」
「……私もそれを提案しようと思っていたところだよ」
確かに事務所に潜入できればより詳細な情報がつかめるだろう。
「他人事の用だけど、潜入するのは弟くんだよ~?」
は?
「アンノ、君は兄と同様解析の魔法が使えたな。それで事務所の金庫を探してきてほしい。君の兄はその道のプロフェッショナルであったし、君にも期待しているよ」
兄、つまり転生前の自分は鍵開けの名人だったようだ。コソ泥かよ。
とはいえやったことのない鍵開けをぶっつけ本番で行うのは無理なんじゃないのか?
「もちろんそうだね~。だから弟くんには鍵開けの特訓をしてもらおうかな~」
特訓か……面倒なことになったな……
連れられたのは体育館ほどの広間。多様な形の金庫が半分、似た型の金庫が更に半分、きれいに並んでいた。
「部下に用意してもらったんだよね~。昨日の潜入で金庫の型はなんとなく見てたから、それをもとにいろいろと用意した感じだよ~」
あんな短い間にそこまで見ているとは……ヒョーカには頭が上がらない。
「とりあえずはこれを全部開錠できるようになってもらおうかな~。一個あたりは……1分とか?」
恐ろしいことを言い始めた。全部合わせると200はあるであろう金庫をすべて開けるだって?
「できるようになるまでは待っててあげるからさ~。頑張ろうね~」
スパルタだ…… 涙目になりながらも金庫へ向かう。
金庫を触りながら解析の魔法について思い浮かべる。なんとなく感覚はわかるような気がするが……
ガコッ
一つ開けるのに約5分かかった。
200個だと……1,000分、ぶっ通しで約17時間……
休息をはさみながらも黙々と作業をする。俺が外に出られるようになったのは、それから3日後のことだった。