脱出!異世界マフィア!
「何だてめぇは!!」
大男が叫ぶ。感情とリンクしているのだろうか、腕からの炎が大きく上がっている。
腕の炎は大きくなるが、足元の氷が溶ける様子はない。
覆面の少女は、大男の叫びを意にも介さずこちらに近づいてくる。声や雰囲気からその正体はヒョーカだと察する。
「さ、帰ろうか~」
覆面少女ことヒョーカは氷でできたナイフで手足の綱を切ると、ぬいぐるみを抱えるかのように軽く体を持ち上げてきた。
「……帰さねえぞ」
細身の男が懐に手を入れる。
拳銃らしきものをこちらに向けて威嚇してくるが、ヒョーカはそちらを向きもせず出口へと向かう。
ドンッ
大砲のような音が響き、弾丸がこちらへ飛んできた。
忠告もなしに発砲するのかよ!思わず目をつぶる。
が、弾丸は目の前で止まっていた。眼前には透明な氷の壁があり、弾丸を防いでいる。
「お邪魔しました~」
近所にお使いに来たかの如く事務所を出たヒョーカは、少し進んだ路地で俺を下した。
「遅くなったねお姫様~」
ヒョーカは覆面を脱ぎ、にやにやとこちらを見ている。
すでにドレス姿ではなく、無地のジャージに身を包んでいた。
「どうしてここが……?」
ヒョーカへ質問を投げつける。意識は薄れていたが相当な距離を運ばれた感覚があった。
「実は発信札をつけてたんだよ~気づかなかった~?」
そういうとこちらの腰あたりをまさぐり、小さなカードを取り出した。
出会い頭にべたべたと触ってきたのはそういう意図があったのか……
「不測の事態に備えて……ということですか?」
ヒョーカの事前準備に驚愕する。
「と、いうか事務所まで運ばれてくれるといいな~と思ってたんだよね~。下手な探り入れてるやつがいたらさらってくれるかな~ってね~。事務所の場所もわかって一石二鳥~」
なんという二段構えの捜査。だとしたら事前に教えてくれればいいものを……
「言ったら安心感とか出ちゃうでしょ~。敵をだますならまず味方からだよ~」
……諜報員としての差を見せつけられた。
ヒョーカは話しながらも、心配するようにこちらをうかがってきた。
「でも到着が遅れちゃってごめんね~。周囲の水場を探してたら突入に時間がかかっちゃったよ~」
どうも氷の魔法は水がないと上手く使えないようだ。
「傷は治してあげるからゆるしてほしいな~」
そういいながらこちらの耳をまさぐる。こそばゆい気持ちに包まれていたが、いつの間にかやけどの痛みは引いていた。
「弟くんのほうもしっかり情報はつかんでたみたいだし、初調査は成功かな~。雷撃も使わずに待ってて偉かったね~」
ヒョーカは背伸びをして頭をなでてくる。子供扱いは不服だが悪い気はしない。
とりあえず帰ろう。初の潜入調査はグダグダだったが成功といってもいいだろう。
ほんの少しの違和感と大きな達成感に包まれながら、今後のことを考えていた。




