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27.メルの帰国と波乱の予兆

 

 メルの留学は表向き穏やかに終わった。


 皇太子暗殺計画を阻止するために公爵邸で侍女をしていましたなんて、もちろん言えるはずもなく。メルは大人しく帝国学院で学んでいたことになっていた。


 予想通りメルの帰国を父王は手ぐすねを引いて待っていた。

 コンラッドとの婚約を進めるつもりで待っていた父王は、メルの帰国の挨拶の際も自分の横にコンラッドを立たせておく周到ぶりだ。しかしメルの髪が短くなっているのを見て顔色を悪くした。


「め、メルや。そんな、髪を切るほど……」


 アバンダ王国や近隣の国では修道院に入るときに髪を切る風習がある。父王はどうやら婚約がイヤでメルが髪を切ったのだと思ったらしい。それで婚約が回避できるのなら幸運な勘違いだ。メルは黙っておこうかと思ったが、父王の隣でコンラッドが衝撃を受けたように固まっていたので、コンラッドのために訂正することにした。


「これは気分転換に切っただけです。この長さならぎりぎりアップヘアにもできますし。シュテフィ殿下にも好評で、この髪に合う髪飾りをいただきました」

「お、おお。そうかそうか。それならば良かった。皇女殿下とも仲良くなれたようでなによりだ」


 皇女殿下の名を出したとたん、父王の顔色が良くなる。そのわかりやすさにメルは苦笑を漏らした。


「お父様、今日は疲れておりますので、お話はまた後日あらためてしましょう」

「おお、そうだな。コンラッド、メルを部屋まで送ってやってくれ」

「はっ」


 ちゃっかりコンラッドとメルが話す機会を作ろうとするあたり、父王も抜け目ない。だがコンラッドはメルを部屋へと送る際も終始無言で職務に徹しているので父王の目論見通りにはいかなかったのだが。もちろんメルはコンラッドをお茶に誘って自室に引きこんだりはしない。


 こうして父王とメルの間で、婚約をめぐる無言の攻防が続くように思われた。

 だがそれは帝国から届いた手紙と、それと同時にもたらされたある噂によって中断されることとなった。


 届いた手紙は即位式へのお誘いだ。カイの即位式への案内はメルが帝国に留学している最中に届けられていたのだが、それは国王宛のもの。つまり即位式へは国王が招待されていた。

 今回の手紙はシュテフィ皇女からメル宛で、即位式に合わせてぜひメルも遊びに来てほしいという内容になっていた。国王とメルが帝国に出向いても、国内には皇太子夫妻が残るので、特に問題なくメルの参加も認められた。

 父王が慌てふためいたのは、シュテフィからの手紙ではなく、噂の方だった。


「帝国内では新皇帝がメルティナ殿下を妃に望んでいるという噂が出ております」


 それを耳にした父王は慌ててメルに真意を問いただした。


「メル! おまえは皇女殿下だけでなく、皇太子殿下とも親しくなっていたのか?!」

「お茶飲み友達くらいには」

「皇太子殿下と茶飲み友達だと?!」

「シュテフィ様と一緒に何度かお茶をしたことがあるくらいよ?」

「それだけで、なぜこんな噂が立つのだ!」

「なぜって言われても……」


 そんなことはメルにもわからない。わからないけど予想はついた。


(あれかな。わたしが婚約を回避できるように、わざと噂を立ててくれたのかな?)


 皇太子との噂が立てば、父王は皇太子に本当にその気があるのか真相を探る必要が出てくる。もし本気ならばメルをコンラッドと婚約させるわけにはいかないからだ。おそらく噂の真相がわかるまでは、コンラッドとの婚約話は保留になるだろう。


(これでお父様が諦めてくれたらいいんだけど)


 無理やり婚約を進めるようなら、即位式に参加した後はそのまま帝国に居座ってもいい。


(わたしにはユリウス様だけだもの)


 メルはそんなことを考えながら、慌てる父王を横目にのんびりと過ごしていた。


 この噂が波乱を呼ぶとも知らずに――。




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