第13章
二週間後、アンジェラは婚約する覚悟をして戻って来た。ユージンはそれを受け入れたい一心で待っていた。ユージンは、シカゴ・ミルウォーキー・セントポール鉄道駅の煙たい大屋根の下で彼女を出迎えて、キンスレーの店に案内してディナーを振る舞い、花束を渡し、あらかじめ準備しておいた指輪を贈る計画を立てていた。七十五ドルもする、貯金をすべて使い果たすほどの指輪だった。しかし、アンジェラは状況の劇的な性格を気にしすぎて、自分が願うとおりに見える叔母の家の客間以外の場所では会えなかった。アンジェラは早く帰らなければならないと書いていた。ユージンが土曜日の夕方八時に到着したとき、アンジェラは自分が最もロマンチックに見えるドレス、アレキサンドリアで彼女が彼に初めて会ったときに着ていたドレスを着ていた。アンジェラは、ユージンが花束を持ってくるか半信半疑だったので何もつけていなかった。ユージンがピンクのバラを持ってきたので、それをコサージュにつけた。アンジェラはバラ色の若さと細さを絵にしたような女性で、彼がちなんで名前をつけた人物……アーサー王の宮廷の美女エレイン……に似てなくもなかった。黄色い髪は大きくまとめられて首のあたりに色っぽくかかり、頬はその時の高揚感からバラ色に染まり、唇は潤い、目が輝いていた。ユージンが入ってくるとアンジェラはとても明るく歓迎した。
アンジェラの姿を見てユージンは我を忘れた。彼はどんなロマンチックな状況でも、いつも動じなかった。その思いつきの美しさ……愛としての愛の美しさ。青春の喜びが、歌のようにユージンの心を満たし、彼を緊張させ、興奮させ、熱狂させた。
「よく来たね、アンジェラ!」そう言ってユージンは相手の手を握ったままでいようとした。「で、どうなんですか?」
「まあ、そう急かさないでよ」アンジェラは答えた。「まずはあなたとお話がしたいわ。何か弾くわね」
「いらないよ」アンジェラがピアノの方へ戻って行くのを追いかけながらユージンは言った。「僕は知りたいんだ。知らなくちゃならない。待てないよ」
「決心がつかないのよ」アンジェラははぐらかすように言い訳した。「考えたいの。演奏させてよ」
「いや、だめだ」ユージンは食い下がった。
「それでも演奏させてちょうだい」
アンジェラは相手を無視して、一気に曲を弾き始めた。その間、ユージンが自分の上に浮かんでいるのを意識した……強く感じた。終盤にかけて、曲の暗示を受けてアンジェラが一層感情的に反応しやすくなると、ユージンは以前一度やったように滑らせるように両腕を回したが、アンジェラはまたもや身を振りほどき、滑るようにして片隅に行き、向き合って立った。ユージンは彼女の紅潮した顔も、揺れる髪も、ウエストで斜めになっているバラも好きだった。
「さあ、きみが話す番だよ」そう言ってアンジェラの前に立った。「僕を受け入れるかい?」
まるで疑うように、親しくなるのを恐れるかのように、アンジェラは頭を下げた。ユージンは片方の膝をついて、目をのぞき込んだ。顔を上げながらウエストに手をかけ、「受け入れるかい?」と尋ねた。
アンジェラは黒くてふさふさの彼の柔らかい髪と、滑らかで青白い額と、黒い目と、均整のとれた顎を見た。ドラマチックに身を委ねたかった。これは十分にドラマチックだった。アンジェラは彼の頭に両手を置いて、かがんで、目を見つめた。髪が前に落ちて顔にかかった。「私を大事にしてくれますか?」アンジェラは目を見つめながら尋ねた。
「するよ、するとも」ユージンは明言した。「わかってるだろ。だって僕はきみをとっても愛しているんだから」
アンジェラは彼の頭を後ろに倒して唇を重ねた。そこには炎と苦悩があった。アンジェラは彼を抱きしめた。するとユージンは彼女の頬、唇、目、首筋にたっぷりキスしながら立ち上がった。
「ああ!」と叫んだ。「きみは何てすばらしいんだ!」
その表情がアンジェラに衝撃を与えた。
「いけないわ」と言った。
「仕方ないだろう。きみがとても美しいんだから!」
この世辞は許した。
この後にも燃えるひとときがあった。二人が必死に抱き合ったひとときがあり、ユージンが彼女を両腕で抱きしめたひとときがあり、彼が将来の夢をささやいたひとときがあった。ユージンは買っておいた指輪をとってアンジェラの指にはめた。ユージンは偉大な画家になるつもりだった。アンジェラは画家の花嫁になるつもりだった。ユージンは彼女の美しい顔や、髪や、姿を描くつもりだった。もし恋愛のシーンを描きたくなったら、ユージンは今二人が共に送りつつあるこのシーンを描くだろう。二人は午前一時まで語り明かした。それからアンジェラは、彼に帰るよう求めたが、ユージンは帰ろうとしなかった。帰ったのは二時だった。朝早く迎えに来て、彼女を教会に連れて行くだけのためにだった。
この後ユージンはかなり驚くほど独創的で多感な時期を迎えた。その中で彼は文学的、芸術的なものを理解し、アンジェラとの結婚が自分にとってどのような意味を持つかを夢見るようになった。このときにユージンは変なことに気がつき、それが彼を物事の理解へと導いていた。宗教では、教義はある面で異常な要求をする。道徳では、人間の強情さは底知れない。事実、私たちの社会組織には、世界の中に世界がある。本当は基本的には、実際には、誰も何もはっきりと明確には理解していない。ユージンはマシューズから哲学を……カント、ヘーゲル、ショーペンハウアーを……彼らが信じていることを……うっすらぼんやりと学んだ。ハウと付き合うようになって、ピェール・ロティ、トーマス・ハーディ、メーテルリンク、トルストイといった新しい雰囲気を表現する現在の作家の話を聞いた。ユージンはけっして読書家ではなかった……生きるのに必死だった……しかし会話からたくさんのことを学び、話すことが好きだった。やればほぼ何でもやれると思い始めた……詩を書くことも、脚本を書くことも、物語を書くことも、絵やイラストも描けるはずだ。よく自分のことを将軍や、演説家や、政治家だと想像した……どれか一つのものになりきれたらどんなにすばらしいだろうと考えていた。時々歩きながら空想して作った名演説の一節を諳んじることがあった。ユージンの取り柄は、働くことが本当に大好きなことと、やれることに打ち込めることだった。彼は与えられた仕事を怠けようとか、責任逃れをしようとしなかった。
夜の授業を終えてからユージンは時々ルビーの家に出かけ、十一時までについた。静かに入れるように玄関のドアは開けたままにしておくように彼女と取り決めができていた。正面の部屋から離れた小さな部屋で、ルビーが赤いシルクのガウンを着て、小さな黒髪の子供のように丸くなって眠っている姿を見つけたのも一度ではなかった。ルビーはユージンが自分の芸術的な素質を気に入っていることを知っていたから、変わったものや珍しいものを取り入れてそれらを満足させようと努力した。ベッド脇の小さなテーブルの赤いシェードの下にロウソクを置いて、読書していたふりを装い、本はいつも、ユージンが来た時にそれが目につくように、掛布団の片隅に放り出されていた。ユージンは無言で立ち入り、うたた寝しているルビーを両腕で抱き起こし、唇にキスして目覚めさせ、抱いて居間に運び、愛撫したり熱い胸の内をささやいた。アンジェラに愛を告白しておきながら、こうしてルビーに入れ込むのをやめなかった。ユージンはこの二人が大きな妨げであることを全くわかっていなかった。ユージンは自分がアンジェラを愛していると思った。ルビーのことは好きであり、優しい人だと思った。こんなにも小さくて、無思慮なので、ユージンは時々彼女を気の毒に思うことがあった。最後は誰が彼女と結婚するのだろう? 彼女はどうなってしまうのだろう?
こんな態度だったから、ユージンは、すぐに彼のために何でもするようになったこの娘を迷わした。ルビーは、ちっぽけなアパートでいいから二人が一緒に……二人っきりで……暮らせたらどんなにすばらしいだろう、と夢を夢見た。ユージンのためなら絵のモデルをやめて家事に専念するつもりだった。ユージンは、ひょっとしたらそういうことだってあるかもしれないと想像しながら……多分そうなることはないと十分承知しているくせに……ルビーにそういう話をした。ユージンはアンジェラを妻に迎えたかった。しかし、もしお金があれば……何とかして……ルビーと一緒に別の場所も確保していいかもしれないと考えた。アンジェラがこれをどう思おうが構わなかった……知られないようにするだけだった。ユージンはどちらにも他の相手について何も言わなかった。しかし、もし二人が知ったら、お互いに相手のことをどう思うだろうかと思うことは何度かあった。お金、お金、それがあればおさまるのだ。ユージンはお金がなかったから、今は誰とも……アンジェラともルビーとも他の誰とも……結婚できなかった。最初の務めは、経済的な立場を築いて、どんな女の子とも真剣に話ができるようにすることだと考えた。これが、アンジェラが自分に期待するものだとユージンは知っていた。もしルビーまで望むなら、これは彼が手に入れなくてはならないものだった。
この職場がうんざりし始めるときが来た。ユージンは自分の人生がいかに制限されているかを理解し始める段階に来ていた。マシューズとハウは、給料がいい分、ユージンよりも良い生活を送ることができた。彼らは深夜の夕食、観劇会、テンダーロイン地区(まだこの名前は知られていなかった)へと繰り出した。彼らには日没後に、自由奔放な者にとって独特な魅力をもつ市内の一画を冷やかすだけの時間があった……シカゴ川の一画なら波止場、サウスクラーク・ストリートなら賭博街、新聞関係者からなる組織のホワイトチャペル・クラブ、文人や新聞制作でも実力者がよく行くその他の場所へ行った。ユージンは、第一に内省的で思慮深い気質のせいで、第二に彼の美意識がこういう場所の下品で安っぽいと思う多くのものを受け付けないせいで、第三に自分には先立つものがないと考えたせいで、こういう娯楽にはほとんど参加しなかった。ユージンは教室で課題に取り組む間もこういう話題を耳にした……いつもその翌日だった……話は参加者の話術の力で誇張され、より華やかに面白くなっていた。ユージンは卑しい低俗な女性と下品な振る舞いが嫌いだったが、自分では、望んだところで間近で見ることさえ許されないと感じた。飲んで騒ぐにはお金がかかるが、ユージンにはお金がなかった。
おそらく、ユージンの若さと、彼の持つある種の世慣れていない、力量不足的な雰囲気のせいで、雇い主たちは彼に対してお金の問題を考慮する気にならなかった。彼らはユージンが少ない給料で働き、気にしないと考えているようだった。本当は、同じ期間中一緒に働いた人の誰よりもその値打ちがあったのに、昇給の気配もなくここで六か月ずるずる過ごすしかなかった。彼は個人的に自分の主張を押し通す人ではなかった。しかし、仕事は相変わらず効果的だったが、落ち着かなくなり、過労で少しつらくなり、どうしても仕事から解放されたくなった。
アンジェラ、画家としてのキャリア、生まれつきの落ち着きのなさ、自分がなれるかもしれないものが決まりかけてきたこと、が大きな動機だったが、シカゴを離れようと彼の決意を固めさせたのは、雇用側のこの無関心だった。アンジェラは、将来の平和の夢としてユージンから離れなかった。もしアンジェラと結婚して落ちつくことができれば、幸せになるだろう。ルビーにはすっかり飽きてしまい、今では別れてもいいと思った。ルビーはどうせ大して気にしないだろう。ルビーの気持ちはそれほど深いものではなかった。それでもルビーが気にかけてくれることは知っていた。あまり定期的にルビーの家に行かなくなり、ルビーが画家たちの世界でしたことに本当に無関心になり始めた時には、自分が恥ずかしいと感じ始めてもいた。ユージンはそれが残酷な仕打ちだと知っていた。ユージンは、自分が一緒にいてあげないときのルビーの態度から、ルビーが傷ついていることも、自分が冷めていることをルビーが知っていることもわかった。
「日曜日の夜は来るのかしら?」一度ルビーは寂しそうに尋ねた。
「無理だな」ユージンは謝った。「仕事があるんだ」
「そうね、あなたは働かなくちゃいけないものね。そうしてください。私の方はかまいませんから」
「ねえ、ルビー、そんな言い方はないだろう。僕はずっとここにはいられないんだ」
「事情はわかってるわ、ユージン」ルビーは答えた。「あなたはもうどうでもいいのよね。どうぞ、私にお構いなく」
「ねえ、ルビー、そんな言い方をしないでくれよ」とユージンは言うが、彼がいなくなるとルビーは窓辺に佇んでみすぼらしい近所を眺めて、悲しそうにため息をついた。ルビーにとってユージンは、これまで会った誰よりも大切な人だったが、彼女は泣くタイプの女の子ではなかった。
「あの人は私と別れようとしている」と思っただけだった。「別れるつもりなんだわ」
ゴールドファーブはずっとユージンを見てきて、彼に興味を持ち、才能があると気づいていた。もっと大手の新聞のもっと好条件の日曜版編集者のポストに就くために間もなく辞めるつもりだった。その彼が、ユージンは時間を無駄にしている、そう言ってやるべきだ、と考えた。
「きみはここでもっと大きな新聞社に就職するすべきだと思うよ、ウィトラ」ある土曜日の午後、仕事が片付くとゴールドファーブが彼に言った。「きみはこの新聞社にいてもどうにもならないよ。ここは大して大手じゃないからね。きみは大きな新聞社に就職すべきだよ。〈トリビューン〉はどうだ……さもなきゃニューヨークに行ってみるとか? きみは雑誌の仕事をするべきだと思うな」
ユージンは話に聞き入った。「そのことは僕もずっと考えてきました」ユージンは言った。「ニューヨークに行こうと思ってます。向うの方がうまくいくでしょうから」
「私ならどちらか一方をやるね。こんな場所に長居しすぎると、きみには害になるぞ」
ユージンは耳の中で鳴り止まない転職という考えを抱えたまま席に戻った。行こう。所持金が百五十か二百ドルになるまでお金を貯めて、それから東部で運試しをしよう。ルビーとアンジェラは置いていこう。自分の中で漠然と告白しただけだが、アンジェラとはほんのいっとき、ルビーとは永遠の別れになるだろう。いくらかお金を稼いだら戻ってきて、ブラックウッド出身の夢のような相手と結婚しよう。すでにユージンの想像力豊かな心は、アンジェラが純白のドレスを着て自分の隣にいる小さな田舎の教会のロマンチックな結婚式に向かっていた。それからニューヨークに彼女を連れて帰る……すでにユージン・ウィトラは東部では有名人になっているのだ。すでに彼の頭の中には、東部の大都市の魅力、りっぱな邸宅、富、名声があった。パリやロンドンに行くまでもない、彼が知るすごい世界だ。すぐそこへ行くのだ。そこにはどんなものがあるのだろう? どのくらいすごいのだろうか? いつ頃になるだろう?
ユージンは夢に浸った。




