シーズン2外伝第1話:夕暮れの海に響く声
本編および追加エピソードの裏側で、それぞれの登場人物や、かつて駆がお札として通り過ぎた人々は今どうしているのか。
読者の皆様からの熱いご要望にお応えし、新たに「シーズン2外伝」の連載をスタートします!
本編完結後の世界を舞台に、お金の視点から人間を見つめ直した駆の記憶が、周囲の人々の心にどんな波紋を残したのかを描く短編集です。
それでは、シーズン2外伝第1話「夕暮れの海に響く声」の本編をどうぞ!
潮風が、白髪混じりの髪を優しく揺らしていた。
ここは、本編の第8話で駆が老夫婦の財布に収まり、言葉にできない温もりを知ったあの海辺の町。
水平線の向こうへと沈んでいく夕日が、穏やかな波面を茜色から黄金色へと染め上げていた。
「お父さん、そろそろ冷えてきたから戻りましょうか」
ベンチに並んで腰掛けていた妻の優子が、夫の健一の肩にそっと手を置いた。
健一は手元の小さな財布を開き、その中をじっと覗き込んでいた。財布の奥には、大切に折りたたまれた、一枚の使い古されたお札――正確には、あの日の思い出を留めるために大切に保管していた古い紙幣(のコピー、あるいはあの日の温もりを宿した特別な記憶)が入っている。
「なぁ、優子。あの日のことを覚えているか?」
「あの日のこと?……土産物の釣り銭で、妙に温かく感じた一万円札のことかい?」
「ああ」健一は穏やかに笑った。「不思議なもんだよ。あのとき、あの紙切れに触れた瞬間、なぜか若い頃の夢や、お前とこうして海を見ている今までの日々のことが、走馬灯みたいに胸に浮かんできてさ。なんだか、まだもう少し頑張って生きてもいいんだって、そう思えたんだ」
優子は夫の横顔を見つめ、いとおしそうに目を細めた。
「私もだよ。あのとき、あなたと一緒にあの財布を見てから、なんだか世界が少しだけ優しく見えるようになったもの」
長年連れ添った老夫婦の間に、穏やかで温かな沈黙が流れる。
二人が手放した、あるいは手に入れた一枚のお金は、ただの「物質」や「価値の交換ツール」なんかじゃなかった。そこには、人間の営みがあり、記憶があり、誰かを想う確かな温もりが宿っていた。
空の青が夜の闇へと溶け込み始める。
遠くの街灯が一つ、また一つと灯る中、二人は並んでゆっくりと家路へと歩き出した。
かつて一万円札になり、人間の欲望と温もりの最深部を巡った少年――佐藤駆の旅の記憶は、こうして名もなき人々の日常の中にそっと寄り添い、今も静かに息づいていた。
シーズン2外伝第1話「夕暮れの海に響く声」をお読みいただき、ありがとうございました!
かつて駆が触れた老夫婦の視点から、お金を介した温もりがどう心に残ったのかを描いてみました。
次回、シーズン2外伝第2話もお楽しみに!




