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『凡人の俺、一万円札に転生して最強の幼馴染の財布を目指す』  作者: 凪塩 未来


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シーズン2 第1話:再び、呼吸をする朝

大反響を呼んだ「一万円札転生編」の感動のフィナーレから、新たなステージへ――。

人間の欲望も、温もりも、そして宿敵・無糖峰との絆のすべてをこの身に刻み込んだ佐藤駆が、再び「人間」としてこの世界に舞い戻る。

シーズン2、待望の第1話が開幕する。


それでは、シーズン2 第1話「再び、呼吸をする朝」の本編をどうぞ!

肺に空気が流れ込む感覚が、やけに生々しかった。

ひんやりとした酸素が気管を通り、止まっていたはずの心臓が、ドクン、ドクンと力強いリズム刻んで全身の血液を押し出していく。


「……っは……!」


急激に意識が浮上し、駆はむせ返るように上体を起こした。

視界に飛び込んできたのは、無機質な白い天井と、規則正しく鳴り響く心電図の電子音だった。消毒液の匂いが鼻を突く。ここは病院の個室らしかった。


「……生きて、る……?」


掠れた声が、自分の喉から出た。

奇妙な感触だった。かつてのように自分の肉体があり、指を動かせばちゃんと曲がり、皮膚には温もりがある。あの、紙のように薄く、パリッとした冷たい「一万円札」だった頃の感覚は、まるでおかしな夢のなかの出来事だったかのように遠い。


いや、夢などではない。

コンビニのレジ、多重債務者の震える夜、ヤクザの組事務所の冷たい帯封、夕暮れ海の老夫婦の温もり、そしてあのペントハウスのテーブルの上で無糖峰の足元に舞い降りた瞬間まで、すべてを鮮明に覚えている。

自分は間違いなく、あの世界ですべてを見て、感じて、そして最後にあの冷徹な天才の計算を狂わせたのだ。


ガチャリ、と重いドアが静かに開いた。

足音が近づいてくる。駆が反射的にそちらに視線を向けたとき、そこに立っていた人物を見て、息を呑んだ。


「……目が覚めたか、駆」


そこにいたのは、無糖峰だった。

高校時代から変わらない、しかし当時よりも遥かに洗練されたスーツを纏い、どこか落ち着いた大人の雰囲気をまとった無糖が、静かにベッドの脇に歩み寄ってきた。その手には、一輪の花ですらない、一冊の分厚い経済誌が握られている。


「みね……?」

「そうだ。他に誰がいる」

無糖は普段通りの涼しげな顔を崩さなかったが、その引き締まった口元や、わずかに潤んだ瞳の奥には、隠しきれない安堵の色が浮かんでいた。


「ここは……どこだ? 俺はたしか、トラックに……」

「事故から、三年の月日が流れた」

無糖は淡々と言葉を紡ぐ。

「お前が事故に遭って以来、身体は奇跡的に生命維持装置のなかで機能を保ち続けていたが、意識が戻ることはなかった。お医者さんはもう諦めかけていたよ。だが――」


無糖は言葉を切り、ベッドの脇のテーブルに置かれた小さな「あるもの」に視線をやった。

そこに置かれていたのは、ひどく使い古され、端が少しだけ擦り切れた、一枚の一万円札だった。

ガラスケースの中に大切に飾られているそのお札には、見覚えしかなかった。かつて自分がその身に宿し、数え切れない人間の手を渡り歩いた、あの福沢諭吉の肖像画だ。


「……これ、は」

「お前が意識を手放す直前、俺が持っていた財布から滑り落ちたものだ。なぜか、そのお札だけはどれだけ洗浄してもインクが消えず、まるで意志を持っているかのように俺のそばを離れなかった」

無糖は少しだけ目を伏せ、自嘲気味に笑った。

「馬鹿げた話だがね。俺はあの日以来、その紙切れをずっと持っていた。そして奇跡が起きた。昨日、そのお札のインクがふっと薄くなり、ただの紙に戻ったのと同じタイミングで、お前の心臓が強く脈打ち始めたんだ」


胸が熱くなる感覚があった。

お金としての旅の果て、駆が最後に残した「意思」は、しっかりとあの冷徹な天才の心に届き、そして自分の肉体へと奇跡を繋ぎ止めてくれたのだ。


「……そっか。俺、勝ったんだな」

駆が小さく呟くと、無糖はふっと息を漏らし、初めて子供のころのような剥き出しの笑顔を見せた。

「ああ。完全に俺の負けだったよ、駆。お前は、いちばん遠い場所から俺をやり込めたからな」


しかし、感傷に浸っていたのも束の間、無糖はすぐに表情を引き締め、ビジネスマンの顔に戻った。

「さて、目を覚ましたばかりの奴に言うことじゃないが……お前には、今から最高に忙しくなってもらうぞ」

「は? いきなりなんだよ」

「お前が眠っている間に、この世界の経済構造は大きく変わった。俺が立ち上げたファンドに対し、世界を裏で牛耳る巨大カルテルが敵対的買収を仕掛けてきている。俺の計算だけでは弾き出せない『変数』が、今のこの世界には必要だ」


無糖はスッと手を差し伸べた。

かつて教室で、そしてペントハウスのテーブルの上で交わされた因縁の先にある、対等な「相棒」としての手だった。


「人間の欲望も、底知れぬ悪意も、そして誰かの温もりも――そのすべてを財布の中から見てきたお前なら、この戦いで俺の最高のパートナーになれるはずだ」


駆はその手を見つめ、ゆっくりと自分の右手を伸ばした。

三年の眠りから覚めたばかりの身体はまだ重い。だが、その指先には、あの果てしない旅路で培った確かな熱が宿っていた。


二人の手がしっかりと握り合わされる。

凡人と天才。お金と人間。

すべての境界線を越えた少年たちは、今、世界を揺るがす新しい戦いの舞台へと踏み出していく。

シーズン2 第1話「再び、呼吸をする朝」をお読みいただき、ありがとうございました!

目覚めた駆と、待ち受けていた無糖峰の熱い再会、そして新たな巨大な敵との戦いの予感を描きました。

シーズン1の感動をそのままに、さらにスケールアップした経済サバイバル&人間ドラマとなるシーズン2。今後の展開もどうぞお楽しみに!

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