↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『凡人の俺、一万円札に転生して最強の幼馴染の財布を目指す』  作者: 凪塩 未来


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/29

第14話:紙切れの遺言

第13話では、冷徹なエリートとして知られていた無糖峰が抱えていた「世界の理不尽をぶち壊す」という本当の目的が明かされました。天才の仮面の裏にあった切実な真実を知り、駆の胸中には新たな感情が去来します。

今回は第14話! いよいよ物語はクライマックスへ。無糖の手を離れ、役割を終えようとするその瞬間、駆が最後に残すものとは――?

それでは、第14話「紙切れの遺言」の本編をどうぞ!

児童養護施設での寄付を終え、無糖峰の特製財布に戻った駆は、再び静かな暗闇の中に身を置いていた。

車内のシートに深く腰掛けた無糖は、疲れたように目元を指先で押さえていた。あの完璧で涼しげな天才の表情に、微かな「人間としての疲労」が滲んでいる。


――あいつも、戦っているんだな。


財布の隙間で、駆はそんなことを思った。

生まれ持った圧倒的な知性と環境を持ちながら、無糖は誰よりもこの世界の不条理に怒り、たった一人で巨大な構造に挑み続けている。自分が味わってきた泥臭い苦しみとは違う形の、あまりにも孤独で重い戦いを、あいつはずっと背負ってきたのだ。


勝てなかった。最後まで、あいつの背中に追いつくことはできなかった。

学年二位。凡人。三件のバイトと赤信号の事故。

自分の人生は、あまりにも短く、あまりにもちっぽけなものだったと思っていた。


だが――。

この一万円札になってからの旅路はどうだ。

コンビニのレジ、ピュアな恋の始まり、多重債務の絶望、ヤクザの組事務所の暴力、政治家の黒い裏金、雨の路地裏の泥水、夕暮れ海の老夫婦の温もり、夢を追う少年のギター、寄付金箱の善意、そしてエリートたちの喧騒。

人間の欲望の最深部と、最高峰の優しさのすべてを、駆はこの身に刻み込んだ。


自分は、ただの「敗者」ではない。

この世界で生きる人間たちのすべての痛みを、すべての温もりを知っている、誰よりも豊かな旅人だったのだ。


車がビルの一階の地下駐車場に滑り込み、エンジンが切られた。

ガサリ、と財布が開く。

無糖の指先が、財布の奥から駆の身体をつまみ出した。明日のビジネスで使うための軍資金として、特製のクリップに他の紙幣と一緒に挟もうとする。


その瞬間だった。

車内のエアコンの風が強く吹き抜け、無糖の指先から、一枚の紙片がふわりと舞い上がった。

それは、児童養護施設の園長から受け取った領収書の控えか、あるいは無糖がメモしていた古い手帳の切れ端だった。その紙片が、ひらひらと舞いながら、無糖の足元に落ちた。


無糖はそれに気づき、ふっと息をついて身体をかがめた。

「っと……」


その隙に、無糖が挟もうとしていた一万円札――駆の端っこが、クリップからスルリと抜け落ちた。

まるで意志を持っているかのように、駆の身体はクルリと宙を舞い、無糖の足元に落ちていたノートの開いたページの上に、ふわりと着地した。


そこは、無糖が幼い頃からの計画や、未来の経済インフラの構想を書き殴っていた、誰にも見せていない直筆のノートのページだった。

ノートの隅には、昔の文字で、こんな走り書きが残されていた。


――『いつか、追いついてこいよ』


それは、かつて高校の部室のロッカーの裏に、駆がふざけて彫り込んだ落書きの言葉だった。無糖がいつの間に切り取って持ち歩いていたのか、あるいは記憶から書き写したものなのか。


その言葉の真上に、ピタリと重なるように、一万円札となった駆の姿が横たわった。

福沢諭吉の肖像画の目が、まるでじっと無糖を見つめているかのように、夕暮れの光を反射して微かに光った。


「……え?」


無糖が、動きを止めた。

床に落ちた紙片を拾おうとしていた手が、ピタリと固まる。

無糖の瞳が、自分のノートの落書きと、その上に重なる一万円札を捉えた。


心臓が凍りつくような静寂が、車内を支配した。

科学では説明がつかない。偶然にしては、あまりにも出来すぎている奇跡。

だが、無糖の背筋に、冷たいものが走った。長年の合理的な思考をすべて粉砕するような、鮮烈な「誰かの意思」の気配が、その一万円札から発せられていたからだ。


――峰。

声にはならない声が、車内の空気を震わせた。


お前は一人じゃない。

お前がどれほど冷たい世界で戦っていようとも、あの日の教室で、お前の背中をずっと睨みつけていた奴がここにいる。

人間の地獄も、天国も、そのすべての泥水をすすりながら、ここまで辿り着いた奴が、今、お前の足元にいる。


無糖の手が、震えていた。

常に完璧で、感情の揺らぎすらなかった天才の指先が、ゆっくりと、恐る恐るその一万円札に触れようと伸びてくる。


果たして、無糖はこの奇跡に気づくのか。

紙切れとなった少年が最後に残した「遺言」は、あの孤高の天才の心に何を刻むのか。


物語はいよいよ、すべての因縁が収束する最終章へと突入する。

第14話「紙切れの遺言」をお読みいただき、ありがとうございました!


無糖の手を離れ、かつての思い出の言葉と重なり合うように落ちた駆。二人の少年が時を超えて心を通わせるような、切なくも熱い展開をお届けしましたがいかがでしたでしょうか。

次回はいよいよ最終話、第15話「いちばん遠い場所からの勝利」です!

死んだ凡人の少年が、お金といういちばん遠い場所から辿り着いた結末とは――? 次回の最終回をどうぞお楽しみに!


「続きが気になる!」「いよいよ次回で完結、見届ける!」と思っていただけましたら、ぜひブックマークや応援評価をよろしくお願いします!


それでは、最終話でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。