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おじさん、女子高生になる  作者: 一宮 沙耶
第3章 破局へ

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5話 再会

高校卒業10年目の同窓会では、実はもう一つの再会があった。そう、湊くんとの再会。

湊くんにはいい思い出はないし、今更、私を振った人に会いたくはない気持ちはあった。

でも、10年も経ち、嫌な思い出も、暖かい懐かしい思い出になっている感じもする。


朝は早めに起きたのだけど、自由を失った日々で暗くなり、いつの間にか11時を過ぎる。

早く家を出ないと間に合わない。凛のことは仕事だから。急いでメイクをして駅に向かう。

春、桜が咲き誇る頃、竹橋の近くのレンガ造りの会館に向かう。


久しぶりの同窓生に会うのに、目立つかとは思ったけど真っ白なワンピースを着る。

チュール地の上にお花の刺繍があり、すっきりとしたV字ネックで清潔感を出す。

自由のない漆黒の毎日を忘れて、昔のクラスメートには清らかな日々だと嘘をつきたい。


凛に会うために同窓会に行くけど、湊くんに会えたらという期待もあった。

湊くんと初めてのデートも、形は違うけど、白いワンピースだったことを思い出す。


会館の入口には、私が在籍した高校の10周年同窓会との案内が出ている。

会場に入ると、学年の合同同窓会だから、会場には100人以上いることに圧倒される。

最近は、こんなに大勢の人がい空間に入ることはないから。


でも、すぐに5人の男性達が、昔のように私を取り囲む。湊くんもそこにいた。

今から思い出すと、高校時代には、この5人としか話した記憶がない。

ましてや、女性と仲良く話した記憶はない。


大勢いるからこそ、いかに孤立していたかを実感する。

それを知って、男性5人が私を暖かく取り囲んでいることだと思う。

本当に嬉しい人達だと心が暖かくなる。


「あれ、紬衣じゃないか。また、一段と美しくなったね。」

「お久しぶり。みんな元気そうね。よかった。また、こんな年になっても褒めてくれるなんて、久しぶりに嬉しいわ。」

「紬衣は、ずっと美しいから、本当のこと言っただけだよ。」


男性5人が、昔のように私を取り囲む。


「湊以外の僕たちは、結婚して、生活はだいぶ変わってしまったけど、みんな紬衣を大好きなのは変わらないんだぞ。」


そうか、湊くんはまだ独身なんだ。

でも、私を振った湊くんに話しかけることはできなかった。

湊くんは素敵な人だし、イケメンだから女性が放っておくはずがない。


でも、時間が流れるのは早い。

湊くん以外は、みんな結婚していたんだ。

私のことをみんなが褒め、大笑いしていた頃はもうないと寂しさも感じる。


「結婚したんだ。じゃあ、奥さんを大切にしないと。」

「それは大切にしてるさ。楠なんて子供もいるんだぞ。」


子供か。別れた彼との子供を夢見ていた私には悲しい言葉に感じられた。

そういえば、強姦されて堕胎したことも思い出した。

その子は、こんな冷たいお母さんを恨んでいるに違いない。


私は、いつか子供を産めるのかしら。知らぬ間に涙が頬を通り過ぎる。

男性達は、優しく顔色を変えずに、私の涙には誰も触れない。

大学時代の強姦について思い出しているのだろうと考え、静かに見守ってくれている。

男性の一人が、明るい声で、話を変えて私に語りかける。


「紬衣はまだ1人なんだよな。仕事は検事から弁護士に転向したと聞いているけど、検事より弁護士の方が合っているんじゃないか。検事って冷たい印象だけど、弁護士って人を守る仕事なんだろう。」

「そうかもね。まあ、忙しい毎日。」


悪の組織を守っているなんて、この男性達には言えない。


「いずれにしても、難しい仕事だね。すごい。」

「そんなことはなくて、地味な仕事よ。」

「まあ、久しぶりに紬衣に会えたんだから、今日は紬衣を褒めまくるぞ。」

「やめてよ。」


5人の男性は、時々抜けて他の人と話しにいくけど、私の周りに常に3人はいた。

友達がいない私が寂しいと感じないように配慮してくれているのは明らかだった。

とってもいい男友達。本当に楽しい時間だった。


でも、今回は凛をはめることが目的。

男性達に囲まれて、その本来のミッションを疎かにすることはできない。

私は、男性達の元を離れ、凛の元に戻る。


凛とは同窓会が終わったら一緒に飲みにいくという約束を取り付ける。

そして、凛の元を去り、再び、男性5人組の所に戻った。

私には、こんなに大勢の人がいるのに、心置きなく話せるのはこの男性達しかいない。


「あれ、紬衣って、山本さんと仲良しだったっけ? 高校時代に話している所を見たことはないけど。」

「凛って有名人でしょう。高校の時に話したことがなかったから、知り合いになれるかななんて思って話してみた。でも、そのかいもあって、同窓会が終わったら、女性だけで飲みに行くことになったわ。女優と友達になれるかな?」

「よかったじゃん。紬衣は性格がいいから、誰とでも友達になれるって。」


何を言っても私のことを褒めてくれる男性達。本当にいい人達で楽しくなる。

凛に目をやると、あなたも男性達と楽しくやっているわねと私に目線を送り返す。

あなたと違って、私は、この男性達と心で繋がっている。

欲望に塗れた人達と一緒にしないで欲しい。


同窓会も終わり、男性達にお別れを告げて、凛を会場の出口で待つ。

凛を闇の世界にいざなうために。


それから1週間が過ぎた頃、偶然、帰宅しようと駅で立っていると湊くんと出会う。

今日は仕事の関係で上野に来ていたけど、こんな所で会うとは思っていなかった。

湊くんが手を振り、近づいてくる。逃げるのもおかしい。

私たちは、一緒に電車に乗り込む。


2人は、会話もなく気まずい雰囲気が流れる。

この沈黙に耐えきれずに、私から声をかける。


「今でも、あの時の彼女と付き合っているの? 女性は大切にしてあげないとだめよ。」

「いや、あれは・・・。」


何か、言いづらいことがあるのかしら。湊くんは困って下を向いている。


「何?」

「あれは嘘なんだ。いつか伝えようと思っていたけど、この前は、みんなもいたし、僕と紬衣が付き合っていることは、あいつらには秘密だったから言えなかった。」

「何、何? どういうこと?」

「受験の時、紬衣のお父さんが塾の帰り道で待っていて、紬衣と別れて欲しいとお願いをされたんだ。」

「どういうこと?」

「1人立ちできるまでは、男性と付き合わせたくないと頼まれた。家族で誰かトラブルに巻き込まれた人がいたのか? そんな感じで、だいぶ紬衣のことを心配していた。」

「そうだったんだ。誤解していてごめんなさい。」


湊くんが、想像もしていなかったことを話し始める。

でも、パパなら、ママをまた悲しめたくないと思って、そんなことをやりそうな気はする。


「いや、僕の方こそ、何も言わずにごめん。今でも、お父さんは男性との付き合いを許してくれないのか?」

「いえ、まだ一緒に暮らしているけど、最近は何も言わないわ。いえ、むしろ、結婚はまだかなんて心配しているぐらい。」

「そうなんだ。」

「で、湊くんは、その後、誰か女性と付き合ったの?」

「いや、なんか気になる女性がいなくて、誰とも付き合わずに今に至るという感じかな。」

「そんなんだ。」

「なあ、もうお互いに大人だし、もう1回付き合わないか。」


高校の時の甘い恋心が蘇る。あの時の湊くんが、目の前にいる。

しかも、いまだに私を好きで、あれから付き合った女性はいない。

混んでいる電車の中で、私には、すっかり湊くんしか見えなくなっていた。


「こんな私でいいの? 私がニュースになったことも知っているでしょう。」

「何を言っているんだ。僕は紬衣がいいだよ。それに、その事件って、紬衣は被害者なんだろう。紬衣は何も悪くない。」

「ありがとう。もし、そのことを気にしないのなら、よろしくお願いします。」


この年なのに、恥ずかしくて下を向いてしまった。

湊くんが手を握ってくれる。

初めて水族館を出て手を握った頃を思い出す。

あの頃は若かったけど、気持ちはお互いにあの時のまま。


「次が東京だから、飲みに行こう。」

「これから?」

「いいだろう。」

「うん。」


ライオンのお店に入り、昔の思い出を大声で話し、懐かしさで2人は包まれていた。

あれをやった、あの時はどうだった、次から次へと思い出が溢れ出し、話しは尽きない。

お互いに、別れてから何をしていたのかも伝える。もちろん、言える範囲でだけど。


1時間ぐらい飲んだ頃かしら、湊くんはとんでもないことを言い出す。


「今、18時だけど、これからホテルに泊まって、明日、神戸とかに一緒に旅行に行こう。」

「これから? 着替えとか持っていないし。」

「着替えとか、大丸のデパートで買えばいいじゃん。」


え、お泊まりなの。

今日のアンダーウェアはおしゃれじゃないのに。

でも、湊くんと別れたくない。


「そうだけど。バックも買わないと。」

「大きなリュックを僕が買うから、紬衣は手ぶらでいいよ。神戸でいいかな?」

「神戸は行ったことがないけど、昔から行きたかった。」


いえ、神戸はおしゃれと聞いてるし、行ってみたい。

湊くんと洋館巡りとか楽しすぎる。中華街で肉まんとかも湊くんと一緒に食べたい。


「でも、お父さんが止めるかな。」

「いえ、仕事で職場に泊まると言えば大丈夫。そんな日も時々あるし。」

「大変なんだな。じゃあ、まず、僕がホテルの予約をするから、紬衣はお父さんに連絡だ。大丸の閉店がもうすぐだし、急ごう。」


私は、昔の淡い恋人時代に戻り、湊くんしか見えてなかった。

閉店前に全て買うために走り回る。

恥ずかしがる湊くんをランジェリーショップに連れて行き、どれが好みかも聞いた。


一泊分の衣服を買い揃え、湊くんの言うとおり、リュックの中に入れる。

そして、東京ステーションホテルに泊まる。


男性に肌を見せたこともあるし、昔は男性だった。

でも、湊くんの前で、パジャマを着て、すっぴんで髪を乾かすのは恥ずかし過ぎる。

髪の毛を顔の前に垂らし、顔が見られないようにする。


「すっぴんだから、あまり見ないで。」

「化粧をしていなくても、紬衣はとっても綺麗だ。」


そう言って、湊くんは私の口に口を重ねる。

私も、湊くんの背中に手を回す。

愛情に包まれ、これまで経験をしたことない快感が体中を走る。


翌日、一緒に神戸に行き、ずっと笑い合っていた。

湊くんは、昔の高校時代の頃と全く変わっていない。

あの頃の楽しい時間が蘇る。


自由のない弁護士業の中で、一時でもいいから、どこかに逃げたかったのだと思う。

それから、半年、付き合い、湊くんとは結婚することになる。

でも、その結婚は順風満帆とはいかなかった。

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