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魔素の兆-サイン-  作者: 錦の旗印
第一章 村編
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はじまり

今が辛い全ての人に届け。

花の大学生になった。

田舎から上京してきて初めての一人暮らし。


これから毎日遊びまくり、酒を飲んでぶっ倒れて、

甘酸っぱい恋愛をして、そして一生の友を作る。

そんな毎日が送れると思ってた。


だが、現実は違った。そんなことにはならなかった。

酒はまずかったし、女の子はみんな彼氏がいて、

友達は出来なかったし、そもそも話しかけられなかった。


そもそもよく考えたら俺、

小、中といじめられて引きこもってたし、

高校も友達なんていなかったし。

人と話せるコミュ力なかった。


オマケに重度のアニメオタクの銃オタク。

そんなのに話しかけて友達になってくれる奴はいなかった。


大学のサークルの勧誘にも行ったが、陽キャばかりで、

ノリについていけず、

一人でずっと黙り込んで下を向いていた。


酒はまずいし、一人で飲んでもあまり面白くなかった。

タバコの方は、意外と美味かったけど.....


とまあそんなことがあり、俺は、ぼっちになった。


毎日一人で授業を受け、終わったら帰ってきて、

アニメを見て、自慰行為をして、疲れたら寝る。


それが毎日のルーティーンになり、学校では一言も言葉を発さずに一日を終えるという日も多くなった。


どこで人生間違えたんだろう。

せっかく親に頭を下げて浪人してまで入った大学なんだが、よく考えたらやりたいことなんてないし。


俺このまま、知らない土地に来て、

知り合いも友達もなく、ぼっちで、

このままズルズルと大学を卒業し、馬車馬の様に働いて、

こき使われて童貞のまま死んでいくのか?

最近はそんな感じのことばかり考える。

まぁそんなこと考えても仕方ないか.......


俺はだるく重い体を動かし、

布団から起きて机の前の椅子に座り、

白パッケージの箱からタバコを一本取り出し、

口に咥えて、Zippoで火をつける。

たちまち部屋中にバニラの香りとヤニの香りが充満する。



題名だけかっこよくて買ったが、

最後まで読み追えてない経済学の本。

脱ぎ捨てた服。カップ麺のゴミ。

すぐに覚えられた曲を、一曲だけやって、

やめたハーモニカ。


色んなものが散らかっている。


部屋もだいぶ汚れてきたな.....

掃除しなきゃ.....




机の上を見ると、講義のレジュメの代わりに

R-18同人誌や分解図の載った海外の銃器雑誌が

広げっぱなしになっていた。


L96のボルト閉鎖機構の構造図に、

赤ペンで書き込みまでしてある。


正直、大学の授業よりも、

こういう銃の断面図や分解図を見ている方が楽しかった。

撃ったことなんて一度もないし、

そもそも日本じゃ触る機会すらない。


でも、構造だけはやたら詳しくなった。

撃鉄が落ちて、雷管を叩いて、

火薬が燃えて、弾が押し出される。

その一連の流れが、

妙に綺麗で、合理的で、好きだった。


YouTubeで海外の分解動画を何時間も見て、

気が付いたら朝になっていたこともある。

大学の講義の内容は覚えてないくせに、

ボルトアクションの給弾機構とか、

リボルバーのシリンダーの動きとかは、

やたら頭に残っている。



………こんな知識、現実じゃ何の役にも立たないのに。


タバコを咥えながら、机の引き出しを開けると、

中には分解されたモデルガンのパーツが

小さな箱に分けて入れてあった。

スライド、

リコイルスプリング、

バレル、

フレーム、

撃鉄。


最初に買った時は、

ただの黒い塊にしか見えなかったのに、

今ではどの部品が何をしているのか、

だいたい分かるようになった。


部屋の壁を見ると、

黒光りしたL96のモデルガンが掛けてある。

分厚いボルトハンドルと、

一直線に伸びたストック。

余計な装飾のない、

ただ一発を確実に撃つためだけの形。


あの無駄のない構造に惹かれて、

バイト代を貯めた。


給料日になるたびに残高を見て、

「あと何日働けば買える」

そんな計算ばかりしていた。

箱を開けて、初めてボルトを引いた時の、

あの重くて滑らかな感触は、

今でも手に残っている。


撃鉄が落ちて、

雷管を叩いて、

火薬が燃えて、

弾が押し出される。

その一連の流れを、

頭の中で何度も再生して、

分解して、組み立てて、

また分解して。

そんなことばかりやっていた。



入る前は、大学には色んな奴がいて、

こういうのが好きなやつも

たくさんいると思ってた。

サバゲーやってるやつとか、

銃の話で盛り上がれるやつとか。


そういう連中と出会って、

部屋に集まってモデルガンいじりながら、

「この構造いいよな」とか言って、

ワイワイやれると思ってた。


でも現実は違った。

適当なサークルの勧誘で歓迎会に行ったりしてみたが、いるのは陽キャばかりで、最初から出来上がってる輪の中に、

俺が入る隙間なんてなかった。


「アニメとか銃とかが好き」

なんて一言も言えず、

愛想笑いだけして、

そのままフェードアウト。


講義中も、周りの奴らは彼女の話とか、

バイトの愚痴とかで盛り上がってるのに、

俺だけがノートの隅に、

銃の断面図みたいな落書きをしていた。


結局、分解して理解したところで、

それを見せる相手もいない。



共有できない趣味は、

ただの一人遊びでしかなかった。


俺は灰皿に灰を落としながら、

小さく息を吐いた。




もう昼過ぎか。

最近、生活リズムもおかしくなってきたな。

考えたら学校も最近は休みがちだし。

でもまぁ、今日は日曜だからいいか.....


冷静に考えたら高校を卒業してすぐには働きたくないから

大学に進んだだけで、やりたいこととかなかった。

でもアニメや漫画と、現実はこうも違うとは思わなかった。



もしこのまま大学退学したら親になんて言おう....


考えるだけ無駄だな。

きっと殴られて、兄貴からは軽蔑された目で、

侮蔑の言葉を投げかけられて終わりだし。



.....というかそもそもこんなこと考えても、

ただ気持ちが沈んでいって、

タバコの本数が増えるだけで仕方がない。




まあいいや、とりあえず、腹が減った。

今日はバイトだからその前に何か食べなくちゃな。


そう思い、吸い終わったタバコを灰皿に押し付け、

部屋着から外着に着替え、寝癖のついた髪を直し、

リュックから大学の講義の参考書やレジュメ、

パソコンなどを取り出し無造作に床に放り投げ、

バイトの制服をそのリュックに入れて、

それを背負って外に出る。


外に出て、家の鍵を閉め、

目の前の駐輪場に停めてある

自転車に近づきチェーンを外し、

自転車に腰掛け、ペダルを漕ぎ始める。


来週からは夏休みか....でも予定もないし、

帰省してもなぁ....


そんなことを思いながら、自転車を走らせる。




バイトを初めて3ヶ月。

走りなれた道だ。

バイト先の店の通りに牛丼屋がある。

いつもバイト前はそこで飯を食っている。


今日もそこで食べよう。




店に着き、

店の前で自転車を降りて、店の目の前に止めて、

自転車の鍵を抜き、店に入りカウンターに座る。


いつものように牛丼大盛りを頼み、スマホを起動し、

アニメを再生し、スマホを横にする。


オープニングが終わり、

本編が始まったあたりで牛丼が届く。


傍にある紅生姜を乗せ、スプーンを取って、

素早くそれを掻き込む。


ものの数分でそれを平らげて、

スマホを縦に戻し、店を後にする。



自転車のロックを外し、バイト先に向かって走り出す。





少し走ったところで俺は、自転車に乗りながら片手で、

ジーンズのポケットからタバコの箱を取りだし、

中からタバコを1本取り出し、口に咥え、

箱をポケットにしまう。


もう片方のポケットからzippoを取り出し、

タバコに火をつける。慣れた動作だ。


タバコを咥えながら自転車を漕ぎ、

漠然と今日のバイトのことを考える。




今日も店長に怒鳴られるのか。いやだなぁ....

怒鳴られながら5時間働いて5000円。

冷静に考えて割にあってないって。




そんなことを考えつつ、

俺は横断歩道に差し掛かった。

歩行者信号が青から赤に変わった。

ポケットから携帯灰皿を取り出し、

素早くタバコの火を消す。


信号待ちの時間を潰すためにスマホを取り出し、

両肘をハンドルにつけて、

Xを開いた。投稿やニュースが表示され、

適当にスクロールする。

どうでもいいニュースや投稿を流し見しつつ、

ふと今日のバイトのことを考える。


はぁ....今日もバイトだるいなぁ....

でも✕×××さんがいればなぁ。


××××さんはバイト先の仕事仲間だ。

ポニーテールで黒髪の背の小さい同じ大学の子で

誰にも優しく、頭もいいらしい。

彼女の仕事も丁寧で、何より、笑顔が最高に可愛い。



バイトでは、少ししか喋ったことがないが、

それでもあの笑顔は、彼女いない歴=年齢

の童貞の心を揺らすには完璧だ。





なんてくだらないことを考えつつ少しの間Xを見た後、

時間的にもうすぐ青になるだろうということを察し、

スマホをポケットにしまい、ペダルに足をかける。

歩行者信号が青に変わった。



ペダルを漕ぎ出し、横断歩道の真ん中に差し掛かった時、

ふと何か気になり、左を見る。見ると向こうから

青い乗用車が猛スピードでこちらに走ってくる。


は? ん?今って信号、青になってたよな....

じゃあなんで車が走ってくるんだ?えっ?

俺って信号無視した?いやいやいや、まさか。


引き返すか?いや逆に進んだ方がいいのか?

ていうか車早くね?俺死ぬじゃん。

というなんであっちは信号無視してんだよ。



あっ、あの運転手居眠り運転してるじゃん。ふざけんなよ。



自分でも、随分と色々な事を考えるなと思った。

人間は死ぬ時や、死に直面した時には

その数秒が何分にも何時間にも感じられるという。


どうやらそれは本当だったらしい。


だが、脳内時間がたとえ、1分でも1時間でも

実際に流れている時間はその脳内時間と対応しない。

だからこそ、その乗用車に気づいたところで

既にもう遅い。手遅れなのだ。


ああ....くそっ....

カスみたいな人生だったな。


どうせなら、

自分の手で何か一つくらい作ってみたかったな。



L96。

あのボルトアクションの構造を、

本物で動かしてみたかった。


ボルトを引いて、

薬室に弾が送り込まれて、

撃鉄が落ちて、火薬が弾けて、

反動と一緒に薬莢が飛び出す。

あの一連の動き。


動画で何度も見た、あの綺麗な流れ。

特に、あのL96みたいな

無駄のないボルトアクション。

一発を確実に送り出すためだけの構造。


派手さはないけど、

一発を確実に当てるためだけに作られた道具。


余計な機能はなくて、

ただ狙って、引き金を引くだけ。


ああいうのを、

自分の手で作り上げて、撃ってみたかったな。


せめて一度だけでも、

遠くの的に向かって、

息を止めて、

引き金を引いてみたかった。


欲を言うなら、童貞も卒業したかったな。








……まあ、もう無理か。








そして俺はそのままそのクソ乗用車にぶっ飛ばされ、

錐揉み回転しながら、吹っ飛び、道路に投げ出された。


最後の力を振り絞り目を開け、痛みの方向に目を向けると、

足がとんでもない方向に曲がっているのが見えた。


その後、俺の意識は途切れた。

みなさんは、自転車に乗りながらの

咥えタバコや路上喫煙はやめましょう。

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