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血みどろのバトル

「茉麻ちゃん危なぁい!」


「ひやあっ」


「こっちもやばいぞ。……クソ!」


「ものすごい数ね」


 大学内に入り込んだあたしたちは、早速逃げ惑っていた。

 二階から一斉に飛び降りて来た食人鬼たち。銃やナイフなどの武器はあれど到底敵う数ではなく、何匹か殺したものの、ただ必死に逃げることしかできなかった。


 でも逃げると言ってもジリ貧だ。体力がいつまでも保つわけではないし、それに――。


「「「ガアアアッ!」」」


「……っ、また!?」


 逃げ込んだ通路の先、そこには三つの人影が。もちろん食人鬼だ。

 彼らはあたしを見つけるなり目の色を変え、襲い掛かって来る。慌ててあたしは発砲するが間に合わない。


「ちっ、仕方ないっ!」


 代わりに舌打ちしながら淳が前に出て、食人鬼たちとの揉み合いを始める。

 互いに噛みつき合いながら凄まじい戦いを繰り広げる。

 他の食人鬼に歯を立てられる淳に、もしや彼も別種の寄生虫に侵されてしまい発狂するのではと思ったが、しかしすでに食人鬼の死体を食っていたのだし一緒だ。

 一度寄生されたら二度めはないのかも知れない。


 ……と、そんなことを考えている場合ではなかった。

 先ほどの発泡の音を聞きつけた食人鬼たちが奇声を上げながら集まって来る。看護服を着た者、患者だったらしい者などいたが、皆一様にもはや人間の目をしていなかった。


 撃つべきかどうかと一瞬躊躇っていると、桜田があたしの銃を奪い、何発か撃った。

 相手は食人鬼といえどお供とは人間だ。だからできれば殺したくなかったが、この状況でそんなことも言っていられない。桜田を責めるわけにはいかなかった。


「行くわよ!」


「ダメだ。数が多すぎる。ここは俺と茉麻で引き留めておくから、あんたたちは先に行っといてくれ」


「えっ。私もですか!?」


 確かにあまりにも敵の数が多すぎる。

 でも、茉麻をここに残しておくのは不安だった。いくら食人鬼といえど、小さな彼女がやり合って勝てるかどうかはわからない。

 淳も至るところを噛みつかれて負傷していた。それを考えると、やはり。


「あたしも残る。茉麻ちゃんと先生は、研究室の場所を探して。先生に銃は預ける。絶対、茉麻ちゃんを守って」


 あたしはナイフを握りしめた。あたしも本気で戦わなければ。

 桜田はすぐに無言で頷き、茉麻の手を握りしめた。茉麻が不安そうにあたしを振り返るので笑って手を振ると、ほんの少し笑い返してくれた。


 ――研究室というのは、反食人鬼ウイルスが生産されていたであろう場所。

 そこに何かが残っているかも知れない。もちろんあたしたちも後で行くが、先に見つけてもらった方がありがたい。

 食人鬼たちの死体が目印になるだろうから彼女たちの後は簡単に追えるだろう。


「じゃあ、気をつけるのよ!」

「お姉さんもお兄さんも頑張ってくださいっ」


 桜田と茉麻の姿が廊下の奥へ消えていく。

 さあ、これからが本番だ。どんな死闘になるかわからないが、あたしは絶対に生き残ってみせる。……そう決めて、戦場へ飛び込んでいった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「はぁ……はぁっ……」


 戦いが終わった時、あたしも淳も血みどろだった。

 あたしは噛まれていないことが不思議なくらいにボロボロだ。ああ、返り血とかすり傷でベタベタする。

 でも一番傷が深いのは淳だ。腕に、足に、首筋に噛み跡があり、出血がすごい。


 だが、心配するあたしに彼は笑った。


「大丈夫だ。どうやら食人鬼になってから痛覚が鈍ったらしくてな。あんたこそ血だらけじゃないか」


「あたしは……全然平気……。早く、茉麻ちゃんたちのところに行こう」


 食人鬼を全員倒したことを喜ぶ暇もなく、よろよろと進んでいく。

 桜田と茉麻の辿って行った道を追いかける。途中で十体ほどの食い散らかされた死体を見た。おそらく茉麻が食べたのだろう。彼女も淳も、空腹になってあたしたち人間をうっかり襲ってしまわないよう、死体はなるべく食べるようにしているから。


 病棟から一回出て、大学の方へ。

 その間に何度も食人鬼と遭遇する。倒しても倒してもキリがない奴らにナイフをぶっ刺し、先を急いだ。


 そうして行き着いたのは大学の三階、埃っぽい廊下の奥にある一室だった。

 ここで桜田たちの形跡が途絶えている。


「きっと研究室はここだな」


「そう……だね。でも何の声もしないんだけど……」


「それはこの扉が防音効果があるからだろ。心配することはないさ」


 この先にはきっと人類を、この世界を救う希望があるはずだ。

 おそらく桜田たちは先に部屋に入って反食人鬼ウイルスなるものを探しているのだろう。もしかするともう見つけているかも知れない。


「じゃあ、入るぞ」


 そう言って、淳がドアを開けた瞬間――。




 あまりにも異質なその光景(・・・・)を、あたしたちは目にしてしまった。

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