↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/29

目的地

「……そんな暗い顔しないの。あれはもう、仕方のないことだったんだから」


「うん、わかってる。でも自分が自分で怖くて……」


 ある日のこと。

 淳と茉麻をその日の拠点で待たせ、二人で物資調達に行っていた桜田とあたしは、そんな会話をしていた。


 何について話しているかと言えば、もちろん、先日のこと。いくら襲われ、窮地に陥ったとしても、あたしはあの時人間を一人殺した。

 どうしてもそれが心に残ってしまい、あれから何事も手につかなくなった。もしかすると、仲間にも襲われることがあるかも知れないなどと疑い出すようになり、怖くて怖くて気がおかしくなりそうだった。

 これがこの世界で生きていく上では当然のことなのだと、理解しようとしても無理なのだ。


「桜田先生だって、人殺しは嫌いでしょ」


「まあ……誰しもそうでしょうね」


「あたし、本当はみんなに嫌われるのが嫌だ。淳だって茉麻ちゃんだって、食人鬼なのに誰も殺してないのに、あたしだけ。――みんな、あたしのこと見損なったんじゃない? あの状況だって、人殺しせずに済む手段はあったはずなのに」


「それを言ったら私の作戦の方があなたの銃弾よりたくさんの命を奪ったわ。直接は手を下していないだけで私は大量殺人鬼ね」


 そう言われ、あたしは押し黙った。

 生き抜くためには、食人鬼も敵対的な人間も、目の前に立ちはだかる危険とは対峙していかなければならない。そうしなければ死んでしまう。

 桜田はそう言いたいのだろう。あたしにもそれは理解できたが。


「悲しすぎる、世界だね……」


「それをあなたが変えるんでしょう? 大口叩いたんだから、ちゃんとやり遂げなさいよ」


 背中を物理的に押され、あたしはよろめく。

 でもその励ましに優しさが感じられたから、文句を言ったりはしなかった。


 目的地は近い。気を引き締めなければと唇を噛んだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「ここが、西の大学か……」


 そしてさらに数日後。

 あたしたちはとある建物を見上げていた。


 それはところどころ焼け爛れた大きな病院。

 元々大学病院だったのだろう。この場所こそが、はるばる目指してやって来た例の西の大学で間違いなかった。


「散々危険な目に遭ったが、とうとう辿り着いたんだな」


 淳が感慨深そうに呟くが、すでに院内からたくさんの呻き声が聞こえる。その正体が何かは考えたくもないが……間違いなく理性を失った食人鬼たちであろう。

 あたしはほんの少しため息を吐くと、言った。


「まずあたしが中に入る。それぞれ武器をちゃんと持って。万が一食人鬼に噛まれた場合はすぐに知らせること。……じゃあ、入るよ」


 茉麻が不安そうな顔で頷き、桜田がその手を引いた。

 淳はあたしのすぐ背後をピッタリついてくる。そして先頭のあたしは銃を手に、病院内へと突き進んでいった。


 あたしは本当に彼らを守れるのか?

 胸に湧き上がる不安を必死で噛み殺した。どんな相手が現れようとも、逃げるか、それができなければ戦うしか道はない。最悪、また人殺しをすることになるかも知れないけれど。

 それでも、平和な未来のためなら。


 心の中でそんな格好つけたことを言ったその瞬間だった。

 病院の入り口に足を踏み入れた途端、天井から何かが落ちて来たのは。


「きゃっ」


 思わず悲鳴を上げて飛び退る。

 あたしの目の前に落ちて来たそれの正体は、口から血を垂れ流す男――食人鬼だった。

 早速のエンカウントに震えるあたし。その間にも相手は奇声を発し、こちらへ飛びかかってくる。


 その間にも次々と天井――否、吹き抜けになった二階部分のようだ――から人影がドタドタと音を立てながら落下を繰り返す。

 そうして一階部分にはあっという間に百人以上の食人鬼が集結してしまった。


 大学での戦いは想像以上に激しいものになりそうだった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。