第1章 試合前 その9
主な登場人物(カッコ内は登場人物のエピソードを紹介している部分)
小林龍也・・北江ジャガーズファン。(第1章その1、その2、その7、その8)
滝沢忠・・・北江ジャガーズのエース(第1章その5、その6)
土井勘太郎・北江ジャガーズ監督(第1章その4、その9、その10)
田中香織・・毎朝スポーツ北江ジャガーズ担当記者(第1章その3〜その5、その10)
秋山めぐみ・独占スポーツ北江ジャガーズ担当記者(第1章その3〜その5、その10)
畠山正・・・第7戦の主審(第1章その2)
*お断り*
この小説は2008年に行なわれた日本シリーズ第7戦、埼玉西武ライオンズ対読売ジャイアンツをベースにしています。モデルになっている選手の経歴や試合進行はかなり忠実に再現していますが、選手の性格及び言動、また登場する審判、記者、ファン等は全てフィクションです。その旨ご了承いただきますようお願いします。
試合開始1時間前になり、スタメン並びにベンチ入り選手の交換が行なわれた。その用紙をみるなり、土井は「あれっ」と思った。
シティーズのエースである角田がベンチ入りしていなかった。第4戦に先発した川田は入っていたが、第5戦に先発した角田はベンチ入りメンバーになかったのだ。
「内田監督は何を考えているのだろう?オレなら絶対角田は使うのに・・」
確かに、このシリーズではシティーズとジャガーズでは戦い方は違っていた。得点差は僅差の試合が続いていたが、試合運び自体はかなり違っていた。
その違いを生んでいたのがブルペン陣つまり中継ぎに対するベンチの信頼度の違いだったといえる。
ジャガーズは正直信頼できる中継ぎが少なかった。だからここまで勝った3試合は先発投手が好投した試合だ。
逆転勝ちした第6戦も中継ぎをしたのは本来は先発投手の和泉。中継ぎが粘って勝ちにつなげた試合はまだなかった。
一方のシティーズはその逆。豊富な中継ぎ陣を惜しみなく登板させ、接戦をものにする。特にこのシリーズでは若手の松岡、江田、菊沢、左腕の北村といったブルペン陣が期待以上の活躍をみせていた。
だが、土井の考えは違った。確かに第6戦までは若い中継ぎ陣に抑えられた。だが、今日の第7戦は彼らを引っ張り出せれば、その時点で1〜2点ビハインドでも逆転できると思っていた。
なぜなら、彼らはそろそろ疲れが出る頃だと思っていたからだ。
特に江田。非常に活きのいい投手だが、昨日の第6戦でもやや疲労がみてとれていた。だから、江田がショートリリーフではなく、回をまたぐような使い方をしてくれればチャンスは大いにあると踏んでいた。
だからこそ、シティーズの内田監督も今日は実績のある角田をベンチにいれ、なるべく江田や菊沢を多用することは避けるだろうと思っていたのだ。
しかし内田監督は角田をベンチに入れることはしなかった。そのことに土井は首をかしげたのだ。と同時に「今日は勝てる」とその瞬間に強く思ったのだ。
そしてベンチに戻るなり、土井監督はブルペンに即座に指示を出していた。
「おい、土田は初回から準備させておけ。初回から行く可能性も高いと言っておけ」